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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第114話 噂と戦利品

――ディエーリア視点



「ひ、ひいいっ!」



最後に残った一人が悲鳴を上げて逃げていく。捕まえるのは簡単でも、私はあえて見逃す事にした。どのみちコイツらを殺すつもりはないからだ。確かにムカつく連中だけど、今の所殺すほどの悪事を働いているわけじゃない。ま、後でどうなるかわからないけどね。



「さ、話してもらいましょうか。その技はなに? 誰から教えてもらったの? 知ってる事を洗いざらい話しなさい」



男の持っていた剣を拾い上げて突きつけると、黒ずくめは一瞬の躊躇の後、諦めたように話し始めた。



「これは……薬で得た力だ」

「薬? それはどんな? 誰からもらったもの?」

「薬は上官からもらった。飲めば強くなる薬だと言われて……」



話によると、この男はもともと王国の騎士でもなんでもなく、スティード派に属する有力貴族の私兵だったらしい。スティードは次男のマグナと暗闘を繰り広げていたものの、勇者であるルビアスがマグナについた事で状況は一変。かなり高い確率で次期国王の座に近かったのに、一気に劣勢になったらしい。この状況に焦ったスティードは武力による蜂起で形勢逆転を狙った。



と言っても、あからさまに兵を集めればいくらなんでも気づかれる。その上形勢不利で寝返りが続出したため、兵力の面でも劣っている。どう考えても八方塞がりな状況で、スティードは何処かから妙な薬を手に入れたらしい。



「それが、自分の潜在能力を引き出してくれる薬だった。と言っても、飲めば誰でも強くなれるわけじゃない。薬が適合した一部の者だけがスティード親衛隊として集められたんだ」



選抜された事を誇るように、男は少し笑みを浮かべた。そんな男と対照的に、私は深く考える。



(潜在能力を引き出す薬? そんな便利なものがあるわけない。さっき感じたあの気配、あれは間違いなく瘴気だった。つまりコイツらスティード親衛隊は、自分達が知らないうちに人体改造されてたってこと?)



スティード派に属する各地の貴族領地で薬による選抜を終え、力を得た者をスティードは親衛隊として主戦力に据えたみたいだ。彼等は全身黒一色の装備で統一を図り、その能力は従来の騎士や兵士を大きく上回った。文字どおりマグナ派の戦力を蹴散らしていったらしい。



少数でも並の兵士をダース単位で切り伏せる強力な黒騎士。それを悟られないよう各地に潜伏させ、時を同じくして一斉に蜂起。完全な奇襲攻撃で混乱する王国の主戦力を次々破って要所を押さえた事で、スティードによるクーデターは成功したのだ。



(確かに……並の兵士なら相手にならないでしょうね。冒険者でもシルバーランク以上の実力者でないと厳しいかもしれない)



スティードがどこから戦力を集めたのかはこれでわかった。でも、話はこれで終わりじゃない。まだ聞いておきたい事がある。



「さっきアンタは適合した一部の者って言ったわよね? 適合しなかった者はどうなったの?」



私がそう訪ねると、男は苦々しい表情で呻くように呟いた。



「……死んだ」

「死んだ!? 全員が!?」

「そうだ。適合出来なかった奴は、薬を飲んだその場でもがき苦しみながら死んでいったよ……」

「そんなことを……」



精鋭を作り上げるためと言っても、とても正気と思えない凶行だ。自分の兵士をみすみす死なせて――と、そこまで考えて気がついた。そんな事をして精鋭を作り上げても、一人作るのに何人も殺し続ければいずれ人が激減し、全体的に見ると兵力ががた落ちになってしまう。でもその指摘に男は首を振った。



「俺と俺の回りは兵士だったが、他の土地でも同じとは限らない。犯罪者や身寄りのない孤児を使って兵を作ったって話も聞いている。いや、たぶんそれが大半なんだろう。わざわざ自分達の戦力を減らすのも不自然だしな」



たぶん……それは事実なんだろう。謎が解けたところで気分が晴れたりはしないけど。



「その薬の出所は?」

「俺のような下っ端が知るわけないだろう。たぶん、俺達に薬を提供した上官も知らないはずだ。スティード王子が独自に作り出したのか、それともどこからか技術供与を受けたのか、興味はあるが知らない方が安全だろうよ」



下手に探ろうとすれば殺されるだけって事か。なんにせよ、スティード派はまともな連中じゃないのが確かになった。……クーデターを起こす奴がまともかと問われれば返す言葉もないけど。とりあえず聞きたい事は聞けた。私は剣を鞘に収め、男にむけて一閃する。不意の一撃をまともにくらった男は、為す術もなくその場に昏倒した。



「さっきの様子からして、魔族が関わってるのは明らかになったわね。たぶんスティードには魔族が力を貸してる。その証拠を押さえなきゃ」



魔族が関わってると公に出来たなら、私達は逃げ隠れせず堂々とスティード派相手に戦えるようになる。勇者と魔族に与する者――民衆がどちらを指示するかなど明らかだ。



「さて……じゃあどう動こうかな?」



今回逃がした男の口から私達が帰ってきたことは伝わるだろうし、今更身分を偽っても意味が無い。だったら開き直って目立った方がいいかな? カリンとシエルも囮役をやってるけど、あくまでも他人としてだからいずれ逃げ切れる。なら私は他のみんなが動きやすいように動いた方が良いと思う。上手く立ち回れば薬の秘密を手に入れられるかも知れないしね。



そんな事を考えていると、事の成り行きを黙って見ていた冒険者達が走り寄ってきた。



「あ、あの! ディエーリアさん! ありがとうございました!」

「助かりました!」

「是非、お礼をさせてください!」

「いや、あの、落ち着いて」



私の手を取って感謝の言葉を伝えてくれるのは良いんだけど、少々圧が強すぎる。積極的な人を本能的に敬遠してしまうのは修行しても変わらなかったらしい。



「何かお手伝い出来る事はありませんか? 俺達力はないけど、出来る事なら何でもやります!」



私の手を握ってる冒険者がそう言うと、後ろの二人も同意するようにコクコクと首を縦に振った。出来る事と言われてもな……あ、そうだ。ちょうど良いから宣伝に協力して貰おう。



「なら頼みがあるんだけど、二つの噂を流してくれる?」

「お安いご用です! どんな噂ですか?」



私が彼等に頼んだのは二つ。一つは私――勇者パーティーの一人ディエーリアがスティード派貴族の調査に向かったと言う事。後の一つはスティード派に魔族が与していると言う事。私のことはともかく魔族が与してる確証はまだ掴めてないけど、反撃の下地を作っておいた方が良いに決まってる。



「魔族が関わってたんですか……まさかそんな……」



想像もしないところで魔族の存在を打ち明けられて、彼等は動揺が隠せないようだった。それも当然か。魔族の侵攻があったと言ってもボルドール王国とは無関係だったもんね。



「たぶんね。それと、あなた達は今の騒動が収まるまで訓練所に来ない方が良いわ。また今回みたいに絡まれる危険もあるし、今度はもっと酷い目に遭うかも知れない。知り合いの冒険者にもそう伝えてくれる?」

「わ、わかりました。必ず伝えておきます!」

「頼んだわね」



そう言うと、私は倒れている男達の懐をあさって所持金を根こそぎ奪い、何食わぬ顔で自分の懐に収めた。その光景を見ていた冒険者達は、ただポカンと口を開けていただけだ。



「あの……ディエーリアさん? それはいったい……?」

「戦利品よ。本来なら腕の一本も切り落とすところをこれで済ませてやるんだから、私も寛大よね。じゃ、噂の件は頼んだから」



強引に話を打ち切り、私はそのまま街の外へ足を向ける。何故か背中に突き刺さる視線を感じつつ、私は歩調を速めていった。



(これでしばらく路銀に困りそうにないわね。さて、最初はどこに行こうかな?)

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