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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第102話 ブレイブの少年時代③

魔王を討ち取り、世界には平和が訪れた。国に戻った俺達を人々は熱狂的に迎えてくれた。魔族に使役されていた魔物が人間の領域から撤退していったから、彼等は魔王が倒れたと薄々は感じていたのだと思う。そして無事に帰って来た俺達の姿を見た途端、喜びが爆発したというわけだ。熱狂――その言葉が相応しい騒ぎっぷりで、誰も彼もが笑顔を浮かべてはしゃぎ続けていた。そんな彼等の姿を目にした時、俺はようやく人のために働けたんだと実感出来た。

嬉しかった。厳しい言葉じゃなく感謝の言葉を貰えたことが。名も知らない子供から手作りの花輪を渡された時、何よりの宝物をもらったと思えた。戦うしか取り柄のない俺でも役に立てたんだと喜んだ。でも――それは長く続かなかった。

喉元過ぎれば熱さを忘れると言う言葉がある。自分達の周囲から明確な危険がなくなり、人々が次第に余裕を取り戻し始めると、俺の立場はどんどん悪くなっていった。まず、貴族の態度が露骨に変化した。魔王討伐前は俺にへりくだるような態度を取っていた連中が、正に手の平を返したように態度を逆転させたんだ。

世間知らずで人付き合いの苦手な俺は、俺が彼等の気分を害するようなことをしたんじゃないかと悩んだりもした。仲間達に相談しようと考えたこともあった。でも彼等は彼等で新しい環境に馴染むのに忙しく、なかなか声をかけ辛かった。ひょっとしたら、その時話をしていたら未来は変わっていたのかも知れない。でもろくな対人経験の無い俺にとって、その時は一人で考えるのが最適だと思えたんだ。

次第に王城での居場所がなくなっていった。俺の戦闘力を恐れて正面から喧嘩を売るような真似はしないが、あからさまに陰口を叩かれるようになったのは堪えた。別に好きでも何でもない相手でも、ついこの間まで笑顔で話していた人間に悪口を言われるのは、意外と精神的ダメージを負ったものだ。

挙げ句の果てに暗殺未遂だ。そこそこ腕の立つ暗殺者が集団で襲いかかってきたところで、俺にとっては何の脅威にもなりはしない。しかし暗殺者を撃退したことで、ますます人々は俺から遠ざかってしまった。人間離れした強さ。誰にも止められない世界最強の力。まるで理性の無い猛獣でも見るように、彼等の目は怯えていた。

いたたまれずに城を出た後も、状況は何も変わらなかった。俺を遠巻きにする人の種類が貴族から平民に代わっただけで、俺は孤立したままだ。

……戦っていた頃は心が軽かった。緊張の絶える事の無い激戦続きではあったけど、それは自分の力でどうにかなる環境だったから耐えられていただけだ。なのに、少し環境が変わっただけで幼子以下の無力な存在になり果ててしまった。

今考えれば、あれが俺の人生初めての壁だったんだろう。魔族や魔王との戦いも確かに厳しかったが、どうにもならないと言う絶望感はなかった。自分一人の力じゃどうにもならない現実がこれほど辛いなんて、想像したこともなかった。

「たぶん、それがトラウマになっているんだと思う……」

彼女達の気遣わしげな視線が集まり、思わず苦笑していた。今の俺はそんなに情けない顔をしているんだろうか? ……しているんだろうな。コホンと一つ咳払いをして、話を再開する。

城から逃げ出した俺は街に。街からも逃げ出して村に行き、そこでしばらく暮らしている内に訪ねてきたのがソルシエールだった。今でもハッキリ覚えている。魔王の持つ魔導書を片手に隠しきれない好奇心をもっていた彼女のことを。思えば冒険中はその好奇心で何度となく無用なトラブルに巻き込まれた事もあったっけ。

まぁ、ソレはともかく。彼女の魔法のおかげで俺は新しい体を手に入れた。正に生まれ変わったんだ。姿を変えられた時は怒ったし、必ずやり直させると息巻いていたけど、冷静になって考えればあれは彼女なりの気遣いだったんだろう。そして新しい体を手に入れたなら、普通に考えれば名前も変えて心機一転出直せる所だったのに、俺は彼女の思惑と逆の行動を取り始めた。姿を変えたところで人々に馴染めるはずがないと思い込んだ挙げ句、山の中へ引っ込んだのだ。

生活に不便は感じなかった。もともと祖父と二人暮らしの時から貧乏には慣れていたし、自分で作れるものなら創意工夫と魔法で何とかしていたからだ。そこそこ強い魔物が徘徊するから山の中は人も寄りつかないし、探せば食料になる山菜や食べられる獲物には不自由しなかった。ただ……ひたすら退屈だったのだけは覚えている。何の娯楽もなく、ただ毎日食べて寝るだけの生活。それが三百年も続いたんだ。声を出すこと自体が滅多に無かったし、感情が上下するような事も起きなかった。

そんな死人のような生活を続けていた中、カリンとの出会いは俺にとってとても刺激的だった。なにせ三百年ぶりにする他人との会話だ。湧き出てくる不安を押し殺しながら話をしたため、随分ぶっきらぼうに感じられたかも知れない。彼女が去った後、久しぶりの会話を思い返して顔が緩むのを抑えられなかった。自覚がないだけで随分人との接触に飢えていたんだろうな。

「二人から街に住まないかと誘われた時、怖いのもあったけど嬉しくもあったんだ」

三百年も経っていれば、当時の人々はほとんどが亡くなっているはずだった。エルフなどの長命種は別にして。おまけに姿も名前を変わっていたから、良い機会だと思えた。自分を知っている人が居ない環境で、一から普通の生活を初めてみたかった。

「毎日一生懸命働いてお金を稼いで、休みの日に少しだけ贅沢をする。そんな普通の人が行っている日常をやるようになってからは、毎日が楽しくてしょうがなかったよ」

ギルドの受け付けをやっていると、様々な人間と接する機会がある。一癖も二癖もある冒険者達。ある者は名を上げるため。ある者は金を稼ぐことを目的に。またある者は人々の役に立ちたいと使命感をもって冒険者をやっていた。彼等の背中を見送るだけの立場だというのに、それはとても刺激的な経験を得る時間だった。

街がリッチに襲われて以来カリン達と一緒に冒険するようになって、ルビアスやディエーリアにも出会えた。人から師匠呼ばわりされるのも初めてだったし、嫌々勇者を名乗っているエルフの存在には驚かされた。そう――それはとても楽しい日々だった。

「だから……」

声が震える。泣くな。今は泣くな。同情で彼女達を引き留めようとしてはならない。乱れ欠けた心を無理矢理押さえつけ、気合いを入れ直して顔を上げる。

「俺は……これから先もみんなと一緒に居たい」

静寂に包まれた小さな部屋に、俺の言葉だけが響いた。

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