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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第90話 竜の巣

竜の巣――それは俺が現役の時代から存在した、竜達の住み処の事だ。この世には色々な種類のドラゴン……例えばグリーンドラゴンやレッドドラゴンなどが存在するが、その竜の巣にはありとあらゆる種類のドラゴンが集まって生活していると言われる。山脈一つが丸ごと巣になっているのだから結構な大きさだと思うけど、彼等の体のサイズを考えれば、それでも小さいのかも知れない。

竜の巣は大陸の中央から少し西よりにあり、ボルドール王国を初めとする各国を股に掛けた山脈だ。と言っても横に長いわけでは無く、ただひたすら縦に長い山脈なので、人々の足を止めるほどじゃない。ちなみに、俺がカリン達に誘い出されるまで住んでいたのがこの山脈だったりする。ドラゴンが住み処としている山脈の中央部分からは距離があったので遭遇する事はほぼ皆無だったけど。

「疲れた……!」
「もう歩けない。歩きたくない!」

息も絶え絶えになったカリンとディエーリアの二人が、崩れるように床に座り込んだ。シエルとルビアスの二人は言葉を発する元気もないのか、無言で荷ほどきしている最中だ。

「思ったより汚れてないな」

俺達が休憩に訪れたのは、俺が以前住んでいた小屋だ。小屋の中をグルリと見渡してみると、俺が出ていった時とそれ程変わった様子は無い。長期間空けていたので野生動物か魔物に荒らされていると思っていたのに、何かが侵入した形跡も無い。たぶん俺の気配が色濃く残っているから、それらの生物は警戒して近寄ってこなかったんだろう。流石に埃はたまっているけど、それぐらいちょっと掃除すれば問題ない。臨時の宿泊施設としたら上等な部類だ。

さて、俺達がここに来た経緯を簡単に説明しよう。ストローム王国でのゴタゴタが片付いた後、街に戻った俺達はすぐに旅に出る準備を始めた。ギルドには長期の休暇願を出し、家の維持や資金をマリアさんとセピアさんに任せ、俺達は徒歩で竜の巣を目指して進んだ。そう、徒歩だ。今回は飛行魔法を一切使わず、自分達の足で歩く事にしたのだ。それもただ歩くわけじゃ無い。軽く走る程度の速度で体力が尽きるまで、延々と歩き続ける。武器や鎧を身に纏った上に荷物まで背負っているものだから、俺以外の面子はあっと言う間にバテてしまった。しかし体力や足腰を鍛えるために妥協はしない。何度も休憩を挟みつつも、頑として飛行魔法の使用だけは許可しなかった。最近は空を飛んで楽する事ばかり覚えていたから、気合いを入れ直す意味でも徒歩を選択した。

その結果がこれだ。四人とも旅装を解くのももどかしいのか、武器を外し背負っていた道具袋を降ろした途端、床に寝転んで動かなくなってしまった。

『…………』

無言の時が流れる。声をかけようとしたところ、シエルとディエーリアは既に寝息を立てていた。カリンとルビアスは起きているようだけど、うつらうつらしているので陥落するのも時間の問題に見える。

「やれやれ……」

このまま放っておいたら凍えて風邪を引くかも知れない。昼間はともかく、この辺りは夜になると結構冷え込むから、火を焚く事だけはしておかないと。肩を竦めつつ、俺は小屋の外へ出て積み上がった薪の置き場へ足を運んだ。

「良かった。まだ使えそうだ」

放置したままなので大部分は雨風に晒されて腐っていたり、虫が湧いて使い物にならなくなっていたけど、幸い全滅だけはしていなかったみたいだ。彼女達ほどじゃないけど流石に今は俺も疲れているから、一人で薪拾いするのは勘弁して欲しかったので、正直助かる。いくつか薪を持ったまま小屋へ戻ると、囲炉裏にくべて魔法で火をつける。パチパチと薪が爆ぜ少し煙が漂ってくきたが、それも暖かさが広がっていくのと同時に少なくなっていった。

その間道具袋から道中手に入れた肉と少しばかりの調味料を取りだす。塩を振りかけて串に刺した肉を炙ると、匂いに誘われたのか完全に眠りこけていた四人が目を覚ました。

「ん……いい匂い」
「……いつの間にか寝てたみたいね」
「食事の用意までさせてしまって、申し訳ありません師匠」
「美味しそうな匂い……そう言えば食べてなかったわね」

修行に来たのなら生活のために魔法の類いは極力使わず、自分の体だけを使った方が色々な面で鍛えられるけど、今から川まで水を汲みに行くのも面倒なので今回は魔法で済ませてしまおう。前に使っていたポットを水洗いし、お茶っ葉を入れてしばらく蒸した後、今か今かと待っている彼女達が持つそれぞれのカップにお茶を注いでいく。かなりの距離を歩き続けてきたから、最近はずっとこんな調子だ。それだけ体がエネルギーを必要としているんだろう。これなら全員強くなる事が出来そうだ。

「みんな、食べながらで良いから聞いてくれ。明日からの予定なんだけど」

肉にかぶりつき、咀嚼しながらだけど全員の目がこちらに向いた。それに一瞬たじろいだものの、一つ咳払いしてから話し始める。

「まず、明日からは現在地である小屋から出発し、更に山脈の奥を目指していく事になる。その分地形も険しく、住んでいる動植物や魔物もどんどん強さを増す」
「あの、ラピスちゃん」
「ん? どうしたの?」

カリンが手を上げて話を遮った。彼女はいまいち理解出来ないと言った態度で首をかしげている。

「住んでる動植物や魔物って言ったけど、動物と魔物はともかく植物が強いってどう言う事なの?」
「ああ、そこか。言ったままの意味だよ。ここから奥地に進んでいくと、植物も攻撃してくる場合があるんだ。食虫植物ってあるだろ? あれのデッカい奴。人間ぐらいなら一飲みに出来るのがいるんだよ」
「…………」

絶句するカリン。他の三人も口を開けてポカンとしていた。まあ驚くのも無理ないかな。普通に生活してれば絶対遭遇しない植物だし。

「……話を続けるよ。それで、そんな困難を突破しつつ最終的に目指すのは竜の巣と呼ばれる山脈の最奥。文字通りの意味で竜の巣だ。そこにはドラゴン達の王である竜王が居るから、俺は竜王と、みんなは竜王の配下と戦って強くなってもらう」

空気が変わった。みんなの目が点になり、肉に伸びていた手も空中で止まっている。呼吸すら忘れ、驚愕の表情でこちらを凝視する彼女達。小屋の中には薪が爆ぜるパチパチとした音のみが響いた。

「ちょっ、ちょっと待ってよ!」
「あ、動き出した」

真っ先に回復したのはディエーリアだ。彼女は俺に詰め寄り、唾を飛ばしながら俺の体をガクガクと激しく揺さぶる。

「正気なのラピスちゃん!? 竜王って、あの竜王でしょ!? 伝説上の存在なんでしょ!? 神様の次に力のある存在だから、勇者や魔王ですら勝てないって言われてるやつだよね!? そんなのが居るの!? しかも戦う気なの!?」
「お、おちついて……」
「これが落ち着いていられますか!」

竜王というのは、簡単に言うとドラゴンの中で一番強い個体の事だ。寿命が無限に近いと言われるドラゴンだから、ひょっとしたら俺が知らないだけで代替わりをしているかも知れないけど、俺が知る限り竜王は一匹しか居ない。彼やその配下のドラゴン達は一匹一匹が凄まじい強さを誇り、それこそ全盛期の俺でも危うくなるぐらいに強い。でも彼等はその強さのわりには、俗世に関わる気は一切ないようだ。年若いドラゴンだと活動的だけど、歳を取ったドラゴンはそれこそ身じろぎもしないで数十年、数百年を過ごす事も珍しくないそうだから、人間や魔族の争いには興味も持てないんだろう。

まぁ、それはともかく――

「てい」
「うっ!?」

興奮が収まりそうに無いディエーリアをひっくり返して抑え込む。するとようやく落ち着いたのか、彼女は降参だと言わんばかりに俺の腕をしきりに叩いた。

「落ち着いた?」
「落ち着いたって言うか……落ち着かされたって言うか……。息が出来なかったんだけど」

ジト目を向けてくる彼女をあえて無視する。

「彼等の強さは本物だからね。一月も竜の巣に滞在すれば、今とは比較にならないほど強くなれる事を保証するよ」
「師匠、その……危険では無いでしょうか?」
「そりゃ危険だよ。下手すりゃ死ぬしね。でも弱いまま魔族と戦い続ければ確実に死ぬんだし、みんなもそれぐらいの覚悟はしてるんでしょ?」

絶句したルビアスに笑顔を向け、俺はその場で立ち上がった。

「みんな、ここまで来たら覚悟を決めよう! せっかく強くなれる機会なんだ。仮にも勇者パーティーを名乗るなら、自分から危険に飛び込む気概をみせようじゃないか! 俺も出来る限り支援するからさ!」

「う……うん。そうだね。ちょっと怖いけど、ラピスちゃんの言うとおりだよ」
「ラピスちゃんが無茶するのはこれが初めてってわけじゃないし。仕方ないから付き合ってあげるわ」

カリンは頷き、シエルは肩を竦めながら同意してくれた。残る二人に目を向けると、どうやら彼女達も覚悟を決めたみたいだ。

「師匠、私も勇者の端くれ。そこまで言われて逃げるという選択肢はありません! 是非参加させてください!」
「やだなぁ~。怖くて嫌だけど……一人で留守番なんてもっと嫌だし。しょうがないから付き合うわ」

彼女達らしい返答に思わず苦笑する。でもこれで決まりだ。後は実際に竜王の元へ足を運び、ただひたすら戦えば良いだけだ。強くなった彼女達を見るのが今から楽しみだな。

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