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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第85話 ラピス突入

――バンディット視点

作戦開始の時間になった途端、街全体が神聖な空気に覆われた事を、俺達一行は肌で感じていた。

「兄さん」
「ああ、わかってる。いよいよ始まったな」

不測の事態に備え、俺達は予め人が多く集まる中心街で周囲を警戒していた。王の側に潜み人質を殺すような手段に出る魔族ならともかく、街を混乱させる程度の力しか持っていない魔族なら、人通りの多い場所で暴れるのがせいぜいだと思ったからだ。なるべく当たって欲しくないそんな予想は、残念な事にすぐ的中してしまった。なぜなら俺達の目の前で、突然異形の姿に身を変えた奴等が何人も現れたからだ。

「お前等が魔族だな? 人様の街で悪巧みしやがって! タダで済むと思うなよ!」

俺がそう叫ぶと、何事か理解していなかった周囲の人間が魔族の存在に気がついたようだ。そして悲鳴を上げると慌てて逃げていく。露店を倒したり手に持った荷物を墜としたり、果ては転んだ人間に躓いて更に二次被害が発生したりと散々だったが、とにかく無関係な人間をこの場から逃がす事には成功したようだ。

「……逃がすためにしては被害が大きいような気がするんだけど」
「細かい事を気にするな! それより今は魔族の相手だ!」

妹達からの細かいツッコミは置いといて、俺は剣を抜き放って魔族に対峙した。奴等の方も俺を無視して周囲の人間を攻撃しようなんて考えは無いんだろう。もしそんな事をすれば、容赦なく背後から斬り倒すだけだからな。

敵の数は十にも満たないが、数で言えば俺達の倍以上になるために、奴等の顔には薄笑いが浮かんでいる。自分達の勝利を確信しているんだろう。……まずはその認識から改めてやらないとな。

「たかが人間の冒険者風情が大きく出たな! 魔族と人間では一対一でも負けるはずが無いのに、この数の差をどう覆すつもりだ?」
「ひょっとして援軍を期待してるのか? だとしたらそれは間違いだぞ! お前等三人だけじゃ、俺達相手に何分ももたないからな!」
「自分の迂闊さを後悔しながら――」

何やら口々に喚いている魔族達だったが、俺はそんな声に一切応えず、一気に踏み込んで喋り駆けている魔族を一刀の下に斬り捨てた。

「なっ!?」
「は、速い!」
「お前等が遅いんだよ!」

動き始めたのは俺だけじゃ無い。俺が飛びかかるのと同時に妹達も動き出し、手近な魔族にそれぞれの武器を叩きつけていた。一瞬のうちに数人を倒されて魔族達は驚いているようだが、俺達も内心驚いていたところだ。話に聞いた魔族の強さは凶悪そのもので、こんなアッサリ倒せるとは思っていなかったから、拍子抜けしたと言っても良い。これは自分達が強くなったのか、それともコイツらが思ったより強くなかったのかのどっちかだろう。どっちにしろ俺達のやる事に変更はない。他に被害が出ないうちに、一人も逃さず殺すだけだ。

「ば、馬鹿な……!」

魔族はここにきてようやく実力差を理解したのか、既に逃げ腰になっている。だが逃がさない。その為に俺達ははるばるストローム王国まで来たんだから。

「はっ!」

気合いと共に全身に魔力を纏わせる。あまり多いと言えない俺の魔力は一瞬体から炎が燃えたようにあふれ出したが、すぐにそれを体内へと押さえつけた。無駄な魔力消費を抑えつつ、尚且つ長期戦に備えての魔力運用。ベヒモスとの戦いで色々と経験した俺は、今必要なのは爆発的な攻撃力より、高いレベルで戦い続けられる自力だと結論づけたのだ。だから派手さには欠けるが、強さは前より上がっているはず。そんな俺が、今更魔族の数人相手に手こずる理由が無かった。

「ぎゃあ!」
「うがあっ!」

それは戦いと言えるものではなく、蹂躙と言った方が相応しいだろう。悲鳴を上げながら倒れていく魔族達。まともに剣を合わせる事も出来ず、一気に総崩れした魔族は我先にと逃げ出した。しかし俺達は、情け容赦なくその背に剣を突き立てていく。一人でも逃せば無力な人々に対してどんな報復をさせるか解ったものではない。情けは無用だった。

「兄さん。こっちは終わりました」
「こっちも終わり。この辺一帯の魔族は掃討したみたい」
「ご苦労さん。じゃあここはやってくるはずの兵士に任せて、俺達は他の援護に回るぞ」

ここには大して脅威になる敵は居なかった。しかし、その分他の場所に強敵が現れている可能性がある。勝利の余韻に浸る間もなく、俺達はその場を後にした。

§ §  §

作戦開始の時間が来た。と言っても屋敷の中に踏み込むのは、俺を除くとバッカスとその他数名だけで、まとまった戦力と言うわけじゃ無い。最初屋敷の中に突入するのは俺だけで行うつもりだったんだけど、バッカス達がどうしても同行させて欲しいと懇願してきたので、やむなく折れた形になった。

「何度も言うけど、人質の救出だけをやってくれれば良い。戦うのは俺に任せてくれ」
「わかってる。決してアンタの足を引っ張ったりはしないさ」

屋敷に潜む魔族との実力差は俺に言われるまでも無く痛感しているのか、バッカス達が無茶をする気配は無い。この分だと放って置いても大丈夫か……。最悪の場合は彼等を庇いながら戦う事も覚悟していたから、それだけは回避出来そうで安心した。

彼等から視線を逸らし、目の前にある屋敷を見上げる。神聖魔法が街中を覆っているので、この屋敷も例外なくその範囲に入っているというのに、中からは不気味な静けさしか感じられなかった。

(諦めたか? それとも弱体化し過ぎて逃げ出す元気も無いとか……? それとも、この程度の事態は慌てるまでも無いって事なんだろうか? いずれにしても、油断はしない方が良さそうだ)

こういう時の俺の勘は当たる。少なくとも俺が思っていた以上に、屋敷に潜む魔族は力を持っているようだ。

「……行くぞ」

バッカス達が無言で頷くと同時に、俺は持っていたハルバードを一閃させて門を閉じる鍵を切り裂いた。小さな金属音を響かせながら静かに開いていく門の隙間に体を滑り込ませ、一気に走り寄った玄関ドアをバラバラに切り刻む。バッカス達が突入したのを確認した後、俺は飛行魔法で飛び上がり、二階の窓を勢いよくぶち破った。

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