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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第84話 魔族の協力者

――アネーロ視点

「ふむ……居るのは解っている。さっさと出てきたらどうだ?」

ギルドマスターに見せてもらった地図。事件が多発しているその場所近辺に潜むであろう魔族挑発するように、この三日我々はゆっくりと目立つように何度も何度も往復していた。近くの住民に対する聞き込みや、巡回する兵士の何人かにも話を聞いていたので、我々の行動はかなり目立っていたはずだ。下っ端の兵士は我々勇者パーティーに色々と聞かれて困惑していたようだった。彼等には気の毒な事をしたが、私の狙いは上手くいったようだ。

私の呼びかけに応じて暗がりから出てきた人数は二十人ばかり。その大半は邪悪な気配を隠そうともしない魔族だったが、少数ながら人間も混じっていた。この国の騎士――それもかなり上の身分の者が身に着ける高級な鎧を纏った男達は、こちらに対して殺気を放っている。

「やはり思った通りか」

事後処理のみを下っ端の兵士にやらせ、捜査や取り締まりをまったく行っていないのは、彼等を思うように動かせる立場の者が悪事に荷担しているとしか思えなかった。どうやら当たって欲しくない予想が当たったようだ。彼等の様子を見るに、特に操られている様子も無い。大方、金でも掴まされたか、それ以上の魅力ある提案にあっさりと転んだのだろう。しかし……他人事ながら愚かな事だと思う。魔族が約束を守る保証など何処にも無いし、用が済めば殺されるだけだろうに。一時の快楽を求めて人生を破滅させるなど、愚か者のする事だ。

「……お前の仕業か?」

騎士の一人がこちらを睨み付けながらそう呟いた。

「はて? 言っている意味がわからんな」
「この状況はお前の仕業なのかと聞いているんだ!」

彼の指さす場所には、魔族達が忌ま忌ましげな表情で佇んでいる。ああ、なるほど。隠蔽か変身か魔法に詳しくない私には判断が付かないが、いずれかの魔法の効果を打ち消されているこの状況を、私や仲間の仕業と思っているらしい。だから誤解は解いておく事にしよう。

「この街全体を覆う神聖魔法の事なら、私の仲間が発動させたものだと説明しておこう。我々の目的はただ一つ。街に潜む魔族を見つけ出し、一人残らず殲滅する事。もちろん魔族に協力する人間も同様に排除対象だ」

背中に背負った剣をスラリと引き抜くと、スイレイ達従者も同様に武器を構えた。それを見た男達も反射的に身構える。

「魔族に与して何をしていたのか、強引にでも口を割らせてやろう。覚悟するんだな」
「ほざけ! この人数相手に勝てるつもりか!? おい、やるぞ!」

リーダー格の騎士がそう言うと、男達は一斉に襲いかかってきた。私に向かって来たのは、さっきの騎士を含めて十人ほどの魔族達。自前の槍を挨拶代わりに振り回すと、それを剣で受け止めようとした者が何人か吹き飛ばされる。しかし当然攻撃を躱しつつ、こっちに殺到してくる者が何人も居た。私は槍を振り抜いた勢いを止めるどころか加速させ、その場で一回転してみせる。

「が!?」
「ぎゃ!?」

隙だらけだと思ったのか、無防備に飛び込んできた男達が尾の一撃をまともに受けて、体を折り曲げながら吹き飛んでいく。リザードマンには尻尾がある事を失念していたのか、完全に不意打ちされた形だ。一瞬で半分以上の戦力を減らされ男達に動揺が走った。そこを見逃さずに距離を詰め、再び手にした槍を振るう。

「おおお!」

リザードマンである私の一撃を防げる者は少ない。耐え上げられた戦士であろうと、人間とリザードマンでは腕力に大きく開きがあるし、それがたとえ魔族であっても同じ事だ。まして私は以前と違い、魔力で全身を強化している状態で戦っている。生半可な実力者では正面に立つ事すら難しいはずだ。

武器がへし折れ、骨の折れる音が薄暗い路地に響く。チラリと視線を後ろに向ければ、スイレイ達も連中相手に暴れ回っているところだった。あの様子なら放っておいても問題ない。

「ば、馬鹿な! こんな……!」

実力差が激しすぎて、まともな戦闘すら成立していないこの状況に、リーダー格の騎士は狼狽していた。彼等の傍らに立つ魔族の二人も戦意を失っているのか、後方を気にしながらジリジリと後ずさっている。ふむ……逃がすわけにはいかんな。

「チッ! こんな化け物とやってられるか!」
「後はお前だけで何とかしろ!」
「お、おい! 俺を裏切るつもりか!?」

捨て台詞を吐きながら逃走に移った魔族達。しかしそれは数歩も進んだところで失敗に終わった。回転しながら飛来した槍が奴等二人を纏めてなぎ倒したのだ。

「え――え?」

一瞬の出来事に呆然とする騎士。そんな彼は槍を投げた私の接近に気がつく事無く、顔面を殴りつけられて地面に転がった。

「アネーロ様。こちらも終わりました」
「ご苦労。では生き残りを逃げないように拘束しておくように」
「承知しました」

見れば、スイレイ達も残りの連中を殺すか戦闘不能にするかに成功したようだ。どうやらこれがこの周辺で事件を起こしていた連中の全戦力らしい。

「大した強者もいなかったようだな。魔族の中でも下っ端がここに回されたのかもしれん。さて……」

私は気絶したままの騎士に歩み寄り、その胸ぐらを掴んで強引に立たせると、張り手をかまして無理矢理意識を覚醒させた。

「な……え……?」
「目が覚めたか? では質問だ」
「く……苦し……!」

この男、見た目も雰囲気も間違いなく人間。その人間が魔族とつるんで一体どんな悪事を働いていたのか、洗いざらい吐かせる必要がある。既に犠牲者が何人も出ている上に、他にも表に出ていない被害者がいるかも知れない以上、コイツに優しくしてやる必要など欠片も無かった。

「さて、では貴様に問おう。一体魔族達とどんな悪事を働いていたのかを」
「し、知らん! 俺は何も――」

何か寝言を言いかけた男の頬を殴りつける。それだけで歯が何本か飛び、男の顔面はあっと言う間に膨れ上がった。

「嘘を言うなら痛い目を見るだけだ。どのみち貴様はここで捕らえられ、後で法の裁きを受ける事になるのだから、言い訳をするだけ無駄だぞ。もっとも、痛い目に遭うのが好きな変態だというなら黙秘を貫くと良いが」
「ひっ……!」

弱者をいたぶり欲望を満たす小者は自分の痛みには過剰に反応するのが一般的なのか、拳を振り上げただけですっかり怯えてしまっている。

「どうする? 話すか?」
「話します! だから殴らないでくれ!」

騎士が話した内容は胸くその悪くなるものだった。奴等の行っていた悪事とは、簡単に言えば人さらいと強盗だ。この近辺を自分の管轄にしている騎士は魔族に命じて、金を持っていそうな家や、年頃の若い娘を拐かしていたそうだ。そして仕事上知り合った裏の世界の人間を通じて、自らの私腹を肥やしていったらしい。もちろん被害を受けた人々は国に被害を訴えて助けを求めた。しかしそれは、ことごとく目の前の男によって握りつぶされていたようだ。

「なぜお前にそれほどの力がある? そして、魔族とはどこで知り合ったのだ?」
「お、俺の家は伯爵家なんだ。だからこの程度の犯罪、無かった事にするのは簡単だ! 魔族達は俺の家の力を見込んで、向こうから接近してきたんだ!」

男を掴む手に自然と力がこもる。この程度の犯罪だと? 何の罪も無いのに、ある日突然理不尽な暴力によって財産を奪われ、何処とも知らぬ場所に売り飛ばされていった者達に対して、この程度だと? 戦闘中より遙かに強烈な殺気を放つ私に、男は戸惑いを隠せないで居た。

「な、何を怒っているんだ? 被害が出たからって、所詮は平民じゃないか。あんたには関係無い話だろう? そうだ! 俺をこのまま逃がしてくれるなら、アンタにはまとまった金を渡すと約束するよ! どうだ? それで手を打たないか!?」
「…………」

この男……本当に、心の底から少しも自分がやった事を悪いと思っていない。コイツにとって平民とは、搾取して虐げられるのが当たり前の存在なのだろう。そんな態度がまったく理解出来ず、いっそ不気味ささえ感じさせる。これが本当に人間なのかと疑いたくなる。男は黙り込んだ私が悩んでいると思ったのか、更に言葉を重ねてきた。

「な? な? 悪い話じゃ無いだろ? ちょっと見逃してくれるだけで、目の眩むような大金を手に入れる事が出来るんだぜ? そうすりゃ勇者なんて面倒な事しないで、遊んで暮らせる生活が手に入る――」

男の言葉は途中で遮られた。怒りにまかせて放った私の拳が、男に残った歯を根こそぎ砕きながら、男を壁まで吹き飛ばしたからだ。ズリズリと力なく壁に寄りかかった男は、糸の切れた人形のように、その場に倒れ込んだ。

「私は金目当てで勇者を名乗っているのでは無い。この力を人助けに使うためにやっているのだ。貴様のようなゲスと一緒にするな!」

完全に気を失った男を見ながら、私はそう吐き捨てた。それにしてもこの国……思った以上に魔族が蔓延っているようだ。おまけに魔族だけで無く、奴等に協力する人間が少なからず存在するらしい。

「これは……単純に魔族だけ排除して終わりと言うわけにはいかなそうだな」

今回魔族を排除したところで、完全に膿を出し切るのは難しいだろう。それこそ長い時間をかけて不正をタダしていくしかない。しかしまぁ、それはこの国の為政者達の仕事だ。我々が出来るのは、あくまでもその手伝いだけ。

「アネーロ様。生き残りの拘束、完了しました」
「よろしい。では衛兵が到着次第、他の地域へ加勢にいくぞ」

他の地域の仲間達はどうなっているだろうか? 彼等の心配をしながら、衛兵の到着を今か今かと待ち続けるのだった。

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