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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第64話 接触

――デイトナ視点

「な、何だ!?」

自分を襲った不快な感覚と、街中に響き渡る爆音に驚いて飛び起きた俺は、慌てて窓を開けて外を確認する。すると、俺の滞在する元領主の館から見える位置にあったはずの門が、綺麗さっぱり無くなっている事に気がついた。

「敵の襲撃か!? だが、人間共の軍はまだ到着まで時間があったはずだぞ。――おい!」

後ろを振り返り、控えていたはずの部下を呼ぶ。すると俺のベッドの近くには全裸に剥いた人間の女共と同じように、倒れ伏す部下の姿があった。駆け寄って胸ぐらを掴み、無理矢理引き起こすと、部下は苦しそうに息を荒げていた。

「どうした!?」
「デイトナ様……敵の攻撃です。先ほど街全体に光が奔り、急に体全体がだるく……全身に悪寒を感じています……。恐らく敵の魔法……それも神聖魔法かと……」
「チッ!」

役に立たない部下を投げ捨て、俺は剣を片手に屋敷の出口へと急ぐ。俺の滞在する街に攻撃を仕掛けてきたって事は、俺に喧嘩を売ったのも同じだ。舐めた真似をした人間共は一人として生かして帰さん。男なら嬲り殺しにし、女なら楽しんでから魔物の餌にしてやる。怒りにまかせて屋敷を飛び出そうとした俺だったが、一人の女の出現で足を止めざるをえなかった。

「チッ……! ラクスか」
「一人で楽しもうったって、そうはいかないよデイトナちゃん」

とっくに寝てるかと思ったが、コイツもコイツで馬鹿騒ぎをしていたみたいだな。手の先にこびり付いた血は、まだ生乾きだからな。

「敵が来たんでしょ? それも街全体に効果を及ぼすような魔法の使い手が。もしかして勇者じゃないの?」
「さあな。誰だろうが関係無い。俺は俺の邪魔になる奴を殺すだけだ」
「なら私も行くわ。アンタが勝とうが負けようがどうでも良いけど、どんな奴が来たのかは確かめておきたいからね。ひょっとしたら私の楽しめる相手かも知れないし」
「……好きにしろ」

どのみち俺にコイツを止める力は無い。前回失敗した俺への目付役ってのもあるが、実力で遠く及ばないからな。放っておく他なかった。

屋敷を飛び出した俺は、不快な気配の中心地に向けて急いだ。通りには身動きの取れなくなった魔族や魔物が少なくない数倒れている。これだけ広範囲に、しかも同時に部下共を行動不能に陥れるとは、敵はかなりの手練れのようだ。おまけに門があった方角がヤケに騒がしい。大方混乱に乗じて人間共が乗り込んできたんだろう。不愉快だが、今は見逃してやる。この魔法を使った奴を見つけ出して始末してから、ゆっくりと殲滅してやるさ。

「いや~っ、凄いね! ここまでうちの軍が被害を受けたのって初めてじゃないの!?」

何が楽しいのか、ラクスは興奮気味に周囲を見渡している。ビビるなとは言わんが、もう少し緊張感をもってやれないのかこの女は。敵は勇者である可能性も高いんだぞ。忌ま忌ましそうな表情を隠しもしない俺に気がつくと、ラクスはヘラヘラと神経を逆撫でするような笑みを浮かべる。

「緊張してるのデイトナちゃん? 大丈夫だって! 私が居るんだから、危なくなっても助けてあげるよ!」
「いらん! 自分の事ぐらい自分で何とかする!」
「あ、そう」

いちいち不愉快な女だ。さっさとこんな国を墜として、一刻も早くトライアンフ様の元へ戻りたい。だがその前に、目の前の敵を叩かなくてはな。俺は自分の足に力を込めると、横を走るラクスを無視するように速度を上げた。

§ § §

――ラクス視点

私がトライアンフ様から受けた命令はデイトナの監視及び情報収集だ。デイトナが前回接触した勇者達の力量は、何となく予想出来る。五人の内四人は問題にならない程弱い。四人がかりでデイトナ一人を追い詰めるのが精一杯なら、この先放っておいても脅威になんかなり得ない。でも残りの一人、ラピスとか言う女は別。今じゃ魔族以外使う者の居なくなった飛行魔法や、多くの魔物を瞬殺する強力な攻撃魔法。それに加えて殺気だけでデイトナをビビらせる使い手と来れば、一応警戒に値する敵。でも――と、私は思う。ボルドール王国とか言う国の勇者パーティーなら、わざわざ他国の、それも遠方の戦いに首を突っ込むとなんて思えないから、遭遇する確率はかなり低そうだ。用心深いトライアンフ様は念のために私を同行させたけど、今回は空振りに終わりそうね。

「それにしても……」

チラリと横を走るデイトナを見る。この男ほどわかりやすい魔族は居ないわね。欲望に忠実で、自分より弱い者は虫けらのように扱ったかと思うと、強い者には媚びへつらうか関わろうとしなくなる。頭の中まで筋肉で出来てそうな単純馬鹿だ。せめて私が敬愛するトライアンフ様の百分の一でもいいから、思慮深くなれないものかしら?

「居たぞ! あいつ等だ!」

敵を発見したらしいデイトナが更に速度を上げながら剣を抜く。さては問答無用で攻撃するつもり? 少しは相手と会話して駆け引きを楽しめば良いのに。ため息を吐きながらその背を追いかけ、惨殺される予定の人間がどんな奴か見てみようと思ったその時、勢いよく走っていたデイトナの足が急に止まった。それこそ地面に足をめり込ませるような勢いで。

「ちょっ、ちょっと何!? いきなり止まって」

そう言ってデイトナの顔を覗き込むと、この馬鹿はわかりやすく顔色を変化させていた。怒りではなく、怯えの方に。コイツがこれだけプレッシャーを感じる相手が敵に居る? そう思ってデイトナと対峙する連中に目を向けると、そこには数人の女が立っていた。

大半はリュミエル神を崇める神官の格好をしているから、さっきの魔法もコイツらの仕業に違いないわ。一人だけ明らかに違う力を感じるけど、後の神官は雑魚同然。きっとコイツがこの神官達のリーダーで、一番強いに違いない。厳しい目つきでこちらを見るその女からは、魔族や魔物が苦手にしている神聖な気が溢れていた。私ぐらい高位の魔族になるとあまり影響はないけど、デイトナ程度の魔族なら、その影響で力が衰えるかも知れない。なかなか厄介な敵みたいね。でも、一番の問題は突然現れた私達――それもデイトナを見て驚いている女の方だ。

「お前は……前に会った事があるな」
「ラピス……だったか。お前がいるって事は、ボルドール王国の勇者パーティーもここに来ているって事か?」
「名乗った覚えもないのに俺の名前を知ってるのか? 有名になったもんだな。生憎だけど、ボルドールからここに来たのは俺だけだ。でも、その代わりにリュミエールの勇者であるフレアさん達も居るからな。戦力的には前回とそんなに差は無いぜ」

そう……この女がラピスなのね。なるほど。これじゃ確かにデイトナがビビるわけだわ。ただ立っているだけなのに、その体からは人間と思えないほど膨大な魔力が漏れ出している。本気を出した私ほどじゃないけど、そこらの雑魚魔族なら瞬殺されるわね。おまけになぜかリュミエールの勇者まで来てるし。ここでコイツらを始末すれば後が随分楽になるはずなんだけど……ちょっと面倒かも。まったく、運が良いのか悪いのか。判断に困るわね。でもまぁ、出会ってしまった以上、やる事は決まってるわ。

「デイトナ。アンタはそっちに居るリュミエルの勇者達を相手にしなさい。こっちのラピスって女は私がやるわ」
「なに!? 何を勝手に決めてやがる!」
「アンタじゃ相手にならないから言ってるのよ。それとも実力の差も判断出来ないような馬鹿なのかしら?」
「くっ……!」

悔しそうに歯を食いしばりながら、殺気の籠もった目を私に向けた後、デイトナはフレアとか言う女に向き直った。……面倒くさい奴。

「仕方ねえ。お前で我慢しといてやるよ。せいぜい俺を楽しませて見せろ」
「楽しむ結果にはなりませんよ。なぜなら、貴方はここで討たれるからです」

スラリと剣を抜いたフレアが構え、取り巻きも呪文の詠唱に入った。なら、今度は私の番ね。

「組み合わせも決まった事だし、アンタはアタシとやりましょうか? そこそこ強いみたいだし、楽しい戦いになりそうじゃない?」
「良いぜ。どちらにとって楽しいかは、身をもって知る事になるだろうけどな」

言うわね、この人間。まあこれだけ力を持っていれば、魔族に比べて圧倒的に弱い人間の中でいい気になるのも頷ける。人生初の壁が現れた途端死ぬ事になるなんて、敵ながら哀れだわ。ニヤリと笑う私とラピスはほぼ同時に空へと飛び上がり、挨拶代わりの魔法をぶつけ合った。

――フレア視点

上空でラピスさんとさっきの女魔族の戦いが始まった。女魔族は見ただけで解るほどかなりの力を持っていたようだけれど、ラピスさんなら問題なく倒してくれるでしょう。その間私は目の前の――デイトナとか言う魔族に集中しなければ。

「チッ! 生意気に剣なんぞ構えやがって! お前等雑魚に俺の相手が務まると思ってんのか?」
「弱い犬ほど良く吠えるとは、よく言ったものですね。そんなに私が怖いんですか? なら、大人しく降伏しなさい。せめてもの慈悲として、苦痛無く首を落として差し上げますよ」
「ほざけ小娘!」

挑発に乗ったデイトナは、地面が爆発したような踏み込みで一瞬にして距離を詰めると、私に向けて鋭い剣の一撃を振り下ろしてきた。瞬時に魔力を前進に巡らした私は、それを紙一重で避け、反撃に下からすくい上げるような一撃を放つ。

「ちっ!」

剣の切っ先をギリギリで交わすデイトナ。再び振り下ろされる剣と迎え撃つ剣は激突し、激しい火花を散らせながら互いに弾かれた。私とデイトナは逃げる事無く、その場で足を止めて互いの体を砕かんと、剣の応酬を繰り返す。剣の腕はほんの少しデイトナが上のようですね。しかし私に焦りはありません。私の剣から発するリュミエル神の神聖な気が、ギリギリで身を躱すデイトナの体を次第に蝕み始めていたのですから。

「糞が! なんなんだこりゃ! 体がだるくなって来やがる!」

その言葉に自然と笑みがこぼれた私に、デイトナは気がついたようです。

「てめえ! 何かやりやがったな!」
「何か? 最初からですよ。私が使った破邪の光の影響で、貴方は普段より力を封じられている状態なのです。その上私の剣から溢れる神の気に当てられているものだから、徐々に力が削られているのですよ。気がつきませんでしたか?」
「な!? クソッタレが!」

万全の状態で正面から戦ったら、今の私ではデイトナに勝てなかったでしょう。でも今この条件下なら私の方が圧倒的に有利。この魔族には多くの人の命を奪ったその罪、身をもって償って貰います。剣を振るう度、スラム時代の荒んだ精神状態に戻りつつある自分を頭の何処かで自覚しながら、私は一撃毎に殺気を強くして剣を振るう。ラピスさんの力を借りる事無く、デイトナは私が倒します。

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