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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第63話 潜入と混乱

魔境から魔物が溢れ、ストローム王国に雪崩れ込んだ情報は、当然俺の住むスーフォアの街にももたらされた。直接攻撃を受けていないからと言って無視出来る事態でもないので、ストローム王国に近い街は近隣を旅する人に避難を呼びかけ、駐留する兵士達はいつでも戦えるよう警戒態勢へ移った。そしてボルドール王国は援軍の派遣を決定。襲撃が起きた翌日には、即座に派兵可能な三千の兵士を城から出発させたようだった。

立場的に、本来ならそんな情報が俺に入ってくるわけがないんだけど、事態を重く見たグロム様が、真っ先に知らせるように配慮してくれたようだ。

「ギルドマスター。ルビアス達を待ってる余裕が無さそうなんで、とりあえず俺だけでも先に行ってきます」
「わかった。君が行けばストローム王国も心強いだろう。ルビアス様達は後から来るだろうから、あまり無理して一人で突っ走らないように。手が足りないならちゃんと周りの人間を頼るんだ。気をつけるんだぞ」
「解りました。仕事の事はよろしく頼みます。では」

知らせを受けた俺は、援軍へ向かう事をギルドマスターに伝えた後、大急ぎで家に帰ってマリアさん達に事情を説明した。リーナはまだ小さいので意味がわかっていないものの、マリアさんは随分驚いていたみたいで、戸惑いながらも送り出してくれた。

「とりあえず一ヶ月分のお金は預けておきます。家の事はお願いしますね。リーナ、お母さんの言う事を聞いて、良い子にしてるんだよ」
「家は任せてください。お気をつけて」
「ラピスお姉ちゃん、バイバーイ!」

空に浮かび始めると、大きく手を振って別れを告げるリーナに軽く手を上げ、俺は放たれた弓矢のように南の空へ飛び始めた。

そしてストローム王国に来たは良いものの、何処の街も厳戒態勢で人の出入りが厳しく制限されているため、肝心の魔族軍とストローム王国軍の居場所がなかなか掴めなかった。仕方なくストローム王国の王都を目指し、そこから軍勢が通った跡を確かめつつ移動したから、思ったより時間がかかってしまった。幸い軍同士がぶつかる直前に合流出来たけど、内心冷や汗ものだったのは内緒だ。

§ § §

「――とりあえず作戦はそんな感じで。後は臨機応変にいきましょう」
「むう…………」

俺が提案した作戦案に、国王様や周囲の将兵は難しい顔で黙り込んでいる。作戦案――それは簡単に言うと潜入と破壊。俺とフレア一行だけが闇夜に紛れて街に侵入してから敵の糧食に火をつけ、ついでに暴れて大混乱を起こそうというのだ。潜入は俺の魔法で空から。破壊も主に俺が担当し、フレア達には神聖魔法で敵の動きを鈍くして貰う。フレアは勇者だけあってリュミエル神の加護を強く受け、天啓も授けられる大神官クラスの力を持っているから、邪悪な存在の動きを抑制する神聖魔法を使う事が出来る。その魔法はかなりの広範囲に亘り、影響下にある魔物などは普段より少し動きが鈍くなるそうだ。

「範囲を広げると魔法の威力も弱まりますが、街に住む住民の皆さんが少しでも多く逃げられるためには、範囲を広げるしかありません」

手順としては、まず俺達は街に潜入する。次にフレア達を降ろして、俺だけで先に街門を破壊。間髪入れずに敵の糧食などに火を放つ。火の手が上がったらフレアが魔法を使って街を影響下に入れる。そして外で待機していた王国軍が雪崩れ込み、住民の避難と敵の追撃を阻止すると言う段取りだった。王国軍を全て待機させるのは無理なので、彼等は少数で街の近くに潜み、いざ事が起これば本体が到着するまで体を張って住民達を守る事になる。俺達同様、かなり危険な任務だった。

言うまでもなく、火を放つ事で起こった混乱の影響で、住民にも多数の死傷者が出るはずだ。しかしもとより全員助ける方法などありはしないので、出来る範囲で助けるしかない。国王様としても苦渋の決断だろうけど、正面から戦ったらもっと被害が大きくなるはずだ。

「……仮に軍対軍でぶつかった場合、どうなる事が予想される?」
「恐らく、行きがけの駄賃とばかりに、住民の多くは虐殺されるか、そのまま連れ去られる可能性が高いと思います。どの道このままでは肉の壁にされるだけ。それを考えると、ラピス殿の作戦に頼るほかないかと……」

誰に対する明確な質問でもないようだったけど、そんな国王様の呟きに、背後で控えていた将兵の一人が応えた。

「そうか……」

国王様としても、本当は一人も死なせずに助けたいんだろう。しかし、いくら元勇者である俺でもそこまで出来る力は無い。せいぜい犠牲者の数を少なくするのが精一杯だ。

「わかった。ならラピス殿の作戦案を採用しよう。決行は今夜。足の速い部隊だけを抽出し、救出作戦に参加させよ。ラピス殿、フレア殿。どうかよろしく頼む」
「お任せください」
「全力を尽くします」

少数だけでどこまでやれるかわからないけど、後は全力を尽くすだけだ。

§ § §

深夜。市壁の近くに身を隠した俺達は、息を殺して街の中の様子を窺っていた。街は深夜だと言うのに騒がしく、煌々とした灯りが夜空を照らしている。どうやら魔族軍は、普通の家庭なら年間を通して使うような油を、僅か数日で使い潰すつもりのようだ。そして街の中からは、微かに人々の悲鳴が聞こえる。

「魔族共め……好き勝手やっているようだな……」

同行しているストローム王国潜入部隊の兵士が悔しそうに呟く。気持ち的には今すぐ剣を抜いて切り込んでいきたいんだろうけど、この状況じゃそうもいかない。俺は後ろを振り返り、フレア達や兵士達に声を潜めて告げた。

「敵が寝てないのは予想外でした。夜陰に紛れて乗り込む予定でしたが、これは作戦を変更せざるをえません」
「具体的にはどうするのですか?」

小声で聞き返してくるフレア。俺は彼女の言葉に少し考え込む。

「そうですね…………。では、こうしましょう。大まかな流れは同じで、細部だけを変更するんです。俺とフレアさんのパーティーが街に潜入した後、最初に神聖魔法を使って貰えますか? 敵の目を集めて欲しいので。そしてある程度敵がフレアさん達に殺到してきたら俺が門を破壊しますから、兵士の皆さんはすぐ突入を開始してください。この際糧食に火を放つのは諦めます。速攻でいきましょう」
「そうですね。敵が寝ていないのなら、ある程度引きつける必要がありますし」
「了解した。それでいこう」

よし。後は実行に移すだけだ。俺は静かに息を吸い込むと、一瞬止めて精神を集中し、広範囲の探知魔法を使った。街の中には人間は勿論魔物や魔族で溢れかえり、数えるのも馬鹿馬鹿しい数になっている。もちろん俺もそんな事を調べたかったわけじゃない。俺は街の外に見張りがいないかどうかを確認したかったんだ。

「……街の外に見張りはいません。皆さんが移動を開始してから、二十分後に作戦を開始します」

頷いて兵士達は音も無く動き始める。彼等は体から装備に至るまで全身を黒く塗り、極力目立たないような姿になっている。装備も剣以外は革製で、音を消す徹底ぶりだ。物腰から実力を察する限り、一般の兵の水準よりかなり上みたいだ。王様も腕利きを集めてくれたみたいだな。

「上手く行くと良いんですが……」
「大丈夫ですよ。きっと上手く行きます」

不安そうにするフレアの手を取って、そう微笑みかけてはみたものの……俺もこの先の事を考えると憂鬱だった。きっとこの戦いで多くの人が死ぬ。俺やフレアがいくら敵の目を引くように暴れても、兵士の皆が体を張って頑張っても、逃げ遅れる人間は必ず出てくるからだ。しかもそれは、逃げる力の無い弱い人間ばかりになるはず。

俺は横に座るフレアにチラリと目を向けた。彼女は緊張のためか、体が細かく震えている。無理もない。勇者として魔物と戦う経験はあっても、人々が大量に殺される現場には立ち会った事がないはずだ。俺は大昔には何度となく見てきた光景だからそれほど動揺はないけど、彼女はそうはいかないだろう。

言葉もなく作戦開始時間を待つ俺達の耳には、街の中から聞こえる悲鳴と魔族の上げる不快な笑い声しか聞こえてこない。沸々と湧き上がる怒りを押さえつけながら忍耐を必要とされる時間が過ぎ、ようやく待ちに待った時間が訪れた。

「行きますよ。全員俺に捕まってください」

フレア達は飛行魔法を使う事が出来ないため、当然移動は俺に頼るほか無かった。フワリと浮き上がった俺達はあっという間に市壁を越え、馬鹿騒ぎを続ける眼下の光景を無視して街の中心地に降り立った。そこは噴水の湧く広場だったようだけど、今は見る影もなく破壊されている。水瓶を持った女性の像は顔の半分程から粉砕され、池の底には汚物が投げ込まれている。周囲には倒れたままピクリとも動かない多くの人間で溢れていた。突然現れた俺達に対して、酒に酔った魔族や単純な命令しか理解しない魔物はポカンと口を開けて眺めていたが、奴等が正気を取り戻すのを待ってやる義理もない。

俺から手を離したフレアは両手を胸の前に組み、一心に祈り始める。そして彼女のパーティーはそんな彼女を補佐するように、同じように祈りを捧げ始めた。

「光の神リュミエルよ! 邪悪な存在から人々を解き放つため、どうか力をお貸しください! 正義と光は我と共にあり! 破邪の光ホーリー・ライト!」

瞬間、彼女を中心とした光の波が街全体に広がっていく。間近で見ていた低級な魔物は光に接触した途端に昏倒し、魔族は痛みや苦しみでもあるのか、呻きながら胸を押さえて顔をしかめていた。しかし無事な魔物や魔族は即座に武器を取り、フレア達に襲いかかってこようとしている。そして魔法の発動と同時に飛び上がった俺は、街を一望出来る高度まで到達すると、三つの巨大な光球を生み出してそれぞれを門へ飛ばした。俺の手から放たれた光球は凄まじい速度で門へ激突すると、巨大な炸裂音と共に門やその周辺の市壁を粉々に吹き飛ばした。

さあ、いよいよ戦いの始まりだ。

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