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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第59話 兄との対立

翌日からクリークさんは積極的に動いてくれた。伝手を使って引退した紙職人を指導役として雇い入れ、手が空いて街に滞在していた魔法使いをギルドからの依頼という形で工場の建設に向かわせた。訓練所はかなり広くて土地もあまり気味なので、工場を一つ建てたところで大した影響は無いそうだ。その間俺も遊んでいたわけじゃ無い。まず保管してあった金貨二百枚をクリークさんに渡し、新人限定という条件で依頼を貼りだした後、職人に不純物の取り除き方を教えていた。常識だった自分の作業に、素人の俺が口を出す事に最初は難色を示した職人だったけど、実際に白くて頑丈な紙が出来た上がったのを見て手の平を返していた。


紙の原料採取の報酬は薬草採取と同程度に抑えていて、尚且つ新人限定の条件をつけているので、他の冒険者に取られる事無く多くの新人が依頼を受ける事が出来た。自分達の頃にそんな待遇が無かった冒険者の一部が不満を口にしていたようだけど、そんな事を言い出したらいつまで経っても変化が無いので、その意見は無視された。


「やっと冒険者らしい仕事が出来る!」
「ありがとうございます! 頑張って集めますね」
「森には魔物も居るだろうから気をつけてね。危なくなったら逃げるんだよ」


原料集めの依頼第一号になったリックとエイミーは、そう言って笑顔で森へと旅立っていった。まず彼等のような冒険者が原料集めを優先し、ある程度数を確保出来た後で本格的に工場が稼働する事になる。そして原料集めも平行して続けていくので、全部とは言わないまでも、かなりの数の新人が仕事を受けられるはずだった。


「ラピス君。感謝するよ。新人も生活出来るようになったし、ギルドも経費を浮かす事が出来た。勇者パーティーとしての活動に加えて、こんな面でもギルドで貢献してくれるなんて、本当に頭が下がる思いだ」
「お役に立てて何よりです」


感謝してくれるクリークさんには悪いけど、別に俺も善意だけで動いたわけじゃ無いから恐縮してしまう。このところ勇者パーティーの活動にかまけてギルドの仕事を蔑ろにしてた気がするし、これぐらい貢献しておいたらあまり悪評も立たないだろうと言う打算があったためだ。現役時代の事もあるし、やっぱり今でも人の悪意は怖い。自分のあずかり知らぬ所で悪評を立てられて居場所がなくなっていくのは、もう二度と経験したくない事だったからだ。


とにかく、後は口を出さなくても専門の人達が動いてくれるだろう。俺は普段と変わらず、真面目に仕事をやっていれば良いだけだ。少しの手伝いと自分への利益を両立できた事で、ギルドも少し働きやすくなるに違いない。


§ § §


――ルビアス視点


師匠達とベヒモスを下した事で、私は自分の強さに対してそれなりに自信を深める事が出来た。と言っても天狗になったりはしないし、するつもりも無い。あの戦いは全員が死に物狂いで戦ったし、師匠ですら怪我を負うほど激しいものだっただけに、生き残った事で何かを掴めたような気がしたのだ。


カリンとシエル――最初こそどこかぎこちなかった二人との関係も、何度か一緒に冒険する事で次第に打ち解けていき、今では同等の相手として接して貰っている。確か彼女達に教えて貰った言葉で言うところの――タメ口? で話せるまでになっていた。ディエーリアは最初から遠慮が無いので変わらずだが、信頼出来る仲間だと思っている。私としてはそんな彼女達と共にもっと一緒に戦い、さっさと魔境に踏み込みたい気分なのだが、私の立場がそれを許してくれなかった。王女として、そして勇者としての立場から、時々父上に顔を見せに行かなければならないのだ。馬車では時間がかかりすぎるのでシエル達に頼み込み、セピアを引き連れた私は王都まで戻ってきていた。


「ルビアスよ。其方の活躍で多くの民が元気づけられておる。これからも励むように」
「お任せください父上。ボルドールの民だけで無く、世界中の人間を安心させられるような勇者となって見せます」


戻ってきて早々に、私は父上に謁見する事になった。今回カリン達は私の私室に控えている。特に褒美などの話も無く、簡単に顔を見せるだけなので、面倒毎に彼女達を付き合わせる気は無い。一人謁見の間に進み出た私は久しぶりに再会した父上に励まされ、深く頭を下げてその場を後にした。居並ぶ貴族連中は、そんな私の事をネットリと絡みつくような視線で見つめている。女の体を欲望の道具程度にしか思っていないその目は、ハッキリ言って不快だ。以前から皆無だったとは言わないが、最近この手の連中が急激に増えてきたように思う。


第三王女と言う事もあり、王位継承権の低い私の事など見向きもしなかった連中なのに、勇者として名声を上げ始めた途端露骨に態度を変え始めた。大方私に取り入り、婿になるか嫁に迎え入れるかして自分の権力基盤を盤石にしたいんだろうが……馬鹿にされたものだな。あのような者等に取り込まれるのが嫌で師匠の元に弟子入りしたと言うのに、誰が欲にまみれた貴族社会に戻りたいと思うのか。そんな事を考えていると自然と足音が荒くなり、表情が険しくなっていたのだろう。すれ違うメイドや文官が怯えた目で傅くので、私は慌てて表情を改めた。


「ルビアス。随分とご機嫌斜めのようだな」
「兄上……」


廊下の先から声をかけてきた人物――長兄のスティード兄上は、相変わらず尊大な態度を隠そうともしない。金魚の糞のように付き従う貴族を後ろに引き連れて、自分の権勢を見せびらかすようにしているその様は、今の私から見れば滑稽としか思えない。人の世の権勢など、魔物の一撃で簡単に崩れ去る場合があるというのに……。正直仲が良いと言えぬ兄妹仲だし、出来る事なら顔を合わせるのも避けていたい相手だったが、話しかけてきたら無視も出来ないので、私は極力嫌悪感を表に出さないように平静さを心がけた。


「何かご用ですか?」
「用と言うほどでも無いが、一つお前に忠告をしておこうと思ってな」
「忠告……ですか?」


権力にしか興味のない兄上の忠告など、どうせ碌でもない内容に違いないと思った私の予感は、外れる事無く的中してしまった。とても人の上に立つ王族とは思えぬ下衆な顔で、兄上は醜悪な口を開く。


「調子に乗るなよルビアス? お前がどれだけ勇者として名を上げようが、最終的に国王になるのは私だからな。その辺りを勘違いしない事だ」


何を言うかと思ったら……くだらない。もともと王位になど興味もないし、私が王になれるなど考えた事も無い。大方最近名を上げ始めた私に対して脅威でも抱いているのだろうが、馬鹿馬鹿しい事だ。それに、もともと兄上は民草からも貴族からも人気など無いに等しいし、今更焦り始める意味が理解出来なかった。彼に従う貴族達は、あくまでもその肩書きが重要なのであって、彼自身に価値があるとは考えていないだろうに。そんな事すら理解出来ていないのだから、我が兄ながら情けない。


「ご心配なく。兄上と違い、私は王位に全く興味がありませんので。兄上はいつものように、安全な城の中で、大好きな宴を楽しんでいれば良いでしょう」
「な、なんだと!?」


今まで特に反抗する事無く、従順な態度を取り続けた妹からの言葉に、兄上はわかりやすすぎるぐらい動揺していた。昔なら面倒毎を避けるためにいちいち相手にしなかったが、今は違う。何度も死線を乗り越えている私からすれば、兄上や取り巻きの貴族が束になったところで脅威でも何でもない。それこそ暗殺者程度なら、何人纏めて相手にしても負ける気がしないのだ。


「わ、私が遊んでいるだけだとでも言うつもりか!」
「そう言ったつもりはなかったのですが……そう聞こえたのだとしたら、自覚されている部分があるのでは? うかうかしていると、マグナ兄上に足下をすくわれますよ」
「ぐっ……!」


次兄であるマグナ兄上と長兄のスティード兄上の仲が悪いのは周知の事実だ。二人は日々様々な貴族と接触を持ち、少しでも王位に近づくため自らの勢力を拡大する事に心血を注いでいる。連日どこかの家で飲み食いし、その結果国の屋台骨である民草からの支持を失うなど、滑稽を通り越して哀れでしかないのだが。痛いところを突かれたためか、餌を待つ魚のようにパクパクと口を動かす兄上に冷たい目を向け、私はさっさと歩き始めた。


「忘れるなよルビアス! 次の王は私なんだ! お前は黙って従っておれば良い!」


背後から投げかけられたその叫びに答えず、私は足早に自室へと急いだ。


§ § §


「疲れた……」
「お疲れ様です姫様」


自室に戻り、身を投げ出すようにベッドへと寝転んだ私に、セピアがさっそくお茶を入れようと準備に取りかかる。何も考えずそんな彼女を目で追っていたら、ソファに座るカリンが陽気に声をかけてきた。


「王女様も大変だねぇ。何かある毎に王都まで来なくちゃいけないんだから」
「それも面倒ではあるけど、兄上がな……」
「ああ……。一番上のお兄さんだっけ。次の王様になるのに必死だって、もっぱらの噂よね」


思い出したように、魔導書から顔を上げたシエルが一つ手を叩いた。王宮どころか他の街に住む彼女達にまで噂が広がっているとは、我が身内ながら情けない。


彼女達は私のパーティーメンバーという名目もあり、今では城の中で自由に行動する権限を父上から与えられている。それは他国の勇者でもあるディエーリアも同様で、彼女は当初、初めて入る他国の城にビクビクしていたようだが、今ではカリン達と同じように寛いでいた。


「でも怒らせて大丈夫だったの? 城に引きこもっているなら直接手を出す事はないと思うけど、そんな人って裏で手を回しそうじゃない?」
「一応警戒はしておくよ。もっとも、生半可な暗殺者などでは我々に敵うとも思えんし、あるとしたら行動に制限をかけてくる嫌がらせ程度だろう」
「ふーん。じゃあ特に心配する事もないね」


暢気にそう言うディエーリアに同意しながら、私も淹れられたばかりのお茶に手を伸ばす。しかし私が思っている以上に兄上が陰湿的だったと知らされたのは、この翌日の事だった。

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