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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第56話 ご褒美

目が覚めた俺は見知らぬ部屋に寝かされていた。左右に視線を向けると、ベッドの上で病人食を食べているカリンとイプシロンの姿がある。二人が食べている料理の美味しそうな匂いに釣られて身を起こすと、部屋に居たらしいシエルが俺に気づいたようだった。


「ラピスちゃん、目が覚めたの?」
「うん。そうなんだけど……ここは?」
「ここは王城の中にある傷病兵用の部屋よ。傷は完全に治ってるけど、体力が元に戻るまでは寝かせておけってティティス様が」


待機していたメイド達が、ベッドの上にカリン達が食べているものと同じ食事を持ってきてくれたので、礼を言いながらそれに手を伸ばす。この国だからてっきり生魚かと思ったのに、滋養をつけるために肉主体の料理が用意されていた。どちらも好きなので文句も言わずに口に運ぶと、この国独自の調味料によって調理された独特の味が舌を楽しませてくれた。食べながら俺が気を失った後の事をシエルに聞くと、彼女が大体の事情を説明してくれた。


あの後、海に沈みかけた俺は地元の漁師に助けられて、城まで運ばれたらしい。津波で街が飲まれる寸前だった時、魔剣を使って止めた場面を多くの人が見ていたようで、気を失った俺はそれこそ女神のように崇められていたらしい。


「女神って……」
「老若男女関係無く大人気よ。事情を知らない人達からすれば、ベヒモスの一件は全然知らないでしょうからね。突然やって来て津波を防いでくれた謎の女の子――それがとびっきりの美少女だと知ってからは、さらに人気に拍車がかかったみたい」


ゲンナリしている俺とは対照的にシエルは笑っていた。俺としては必要以上に注目される事態を避けたいんだけど、彼女はそんな事情知らないからな……。仕方ないか。


城に担ぎ込まれた俺は、ベヒモスとの戦いで重傷を負ったカリン達と共にこの部屋へ連れてこられて、治癒士によってあっという間に傷の治療をしてもらったみたいだ。あの戦いに参加した全員が何らかの負傷をしていたけど、誰一人死ぬことが無かったのは最上の結果と言えるかも知れない。


「そう言えば、ディエーリアは?」
「ああ、あの娘は……」


ここに居ない彼女が気になって聞いてみると、所用で外していると答えが返ってきた。成り行きでベヒモスと契約することになったディエーリア。四大精霊の一角と契約して、精霊使いとしては頂点に到達したと言っても過言じゃ無い彼女。そのベヒモス関連の事情もシエルから聞くことになった。


「ベヒモスと契約したは良いんだけど、呼び出すことが出来ないみたいなのよ」
「……どう言う事?」


意味がわからず首をかしげる。ちゃんと契約してたはずだよな? 俺もこの目で見ていたし、失敗したようには感じなかったんだけど……。


「正確には、呼び出せるけど使役するレベルに無いんだって。彼女が万全の状態で呼んだところで、現界出来るのはほんの一瞬だけ。力の行使をする暇も無く精霊界に帰ってしまうんだって言ってたわ。だから、当分魔力量を上げる修行を続けないと、ベヒモスを使えるようにはならないでしょうね」
「それはなんとも……」


言っちゃ悪いけど宝の持ち腐れ状態だ。それどころか、少量とは言え常に魔力をベヒモスに吸われ続けているために、今までよりマイナスになったと言ってもいい。腕を上げるため、当分は厳しい状態が続くだろうな。


「よう! 目が覚めたかラピス嬢!」


騒がしく部屋に入ってきたのはバンディットだ。彼はズカズカと大股で俺のベッドに近寄ったかと思うと、予備の椅子を引き寄せて断りも無く俺の側に腰掛けた。


「元気になったかい?」
「おかげさまでね。バンディットはどうなの?」
「俺か? 俺は大した怪我もしてなかったしな。お前さんやカリン達に比べれば、かすり傷みたいなもんだ」


そう言って陽気に笑うバンディットだけど、それが謙遜なのはよく知っている。なぜなら彼は、俺が瓦礫の山から飛び出した時、誰よりも前に出てベヒモスにかみ殺される寸前だったからだ。


「それより……」


と、少し真面目な顔でバンディットは俺に向き直った。そしてジッと俺の目を見た後、ガバッと勢いよく頭を下げた。


「えーと……バンディット?」
「今回のこと、改めて礼を言わせてくれ、ラピス嬢。カリン達にはもう礼は言ったんだが、お前さんにはまだだったからな」
「別に気にしなくて良いよ。こっちも良い経験になったし」


強敵と命を賭けたギリギリの戦いは、戦士として、魔法使いとしての実力を大きく伸ばす切っ掛けになる。魔境での魔族との戦いやドラゴンとの戦い、そして今回のベヒモスとの戦いを経て、ルビアス達は随分成長するはずだ。それに俺も久しぶりに本気を出して戦ったので、錆び付いていた勘を取り戻すことが出来た。滅多に得られない機会を得て、こっちが礼を言いたいぐらいだ。


「それに……バンディットには謝らないといけないことがあるんだ」
「謝る? 何をだ?」
「魔剣ザンザスの事だよ。津波を止めたまでは良いけど、力尽きて海の中に落としちゃったから……」


あの時は剣を握る力も無かったと言っても、愛用の剣を海の中に捨てたも同然なんだ。まして魔剣となったらその価値は計り知れない。頭を下げようとする俺を止めたのは、他ならぬバンディットだった。


「ああ、その事なら気にしなくて良いぜ。あの後すぐに回収出来たからよ」
「え!? 海の中に沈んだのに?」
「まぁ、海の中と言っても浅瀬だからな。気がつかなかったか? お前さんが落ちた場所は、せいぜい水深二メートルってとこだったんだぜ」


全然気がつかなかったな……。でも良かった。俺のせいで彼の愛剣が無くならなくて。ホッとしたのも束の間、バンディットは何かイタズラを企む子供のような笑顔を浮かべている。そんな雰囲気に不穏なものを感じた俺は、思わずベッドの上で後ずさる。


「な、なんだよ?」
「いやなに、今回のことでお前さんの名声はかなりのものになるんじゃないか? なにせ体を張って津波を止めたんだから。名乗り出たらボルドール王国の聖女ってな具合に、あっという間に人気者間違いなしだぜ」
「……勘弁してよ」


目立って良い事なんて何も無いのは、前世からの経験で嫌と言うほど思い知っている。今回の俺はルビアスのお供というあまり目立たない立ち位置で頑張ってきたというのに、これじゃ今までの努力が帳消しじゃないか。


「と言っても、姿を見せたのは一瞬だったからな。城に担ぎ込まれてからは、色んな方面から問い合わせが来てるぜ。あの美少女は誰だとか、命を助けてもらった礼を言いたいとか。どうする? 名前を公表していいか?」
「絶対に止めてくれ」
「わかった。本人がそう言うなら黙っておこう。それはそれとして、回復してからで良いんだが、ティティス様ともう一度会ってもらえるか?」


そう言えばゴタゴタしてて彼女の事を忘れていた。薄情だと思われるかも知れないけど、あまり関わりの無い人だから仕方ない。


「バンディットみたいにお礼が言いたいとか?」
「それもあるが、謝礼金を受け取って欲しいって言ってたぞ。あれだけ国に貢献してくれたんだ。まさかタダで帰すわけにはいかないってな」
「そんなに気を遣わなくても良いんだけどな」


もともと謝礼目当てで戦ったわけじゃ無い。わけじゃないけど……くれるというなら貰うつもりだ。なにせ相手は女王様だからな。普通の金持ちより遙かにお金を持っているはず。沢山持ってる人から少しぐらい分けて貰うのは、別に悪い事じゃないはずだ。


「まあそう言う事なんでな。とりあえずゆっくり養生してくれ」


それだけ言うと、バンディットはサッサと部屋を後にした。彼も彼で色々と忙しいのかも知れないな。とりあえず空腹が満たされた俺は、久しぶりに訪れた昼寝の機会を逃すつもりなど無いので、これ幸いと毛布を被って横になった。


§ § §


バンディットと話をした数日後、旅支度を調えた俺達は、最初にティティス様と話した部屋を再び訪れていた。部屋に居るのは主であるティティス様とバンディットのパーティー、そしてルビアス率いるボルドール王国の勇者パーティーだ。


「さて、改めて礼を言わせてもらおう。勇者達よ。ベヒモス討伐に力を貸してくれて、本当に感謝している。特にラピス。其方には多くの民の命を助けて貰った。何度感謝してもし足りんぐらいだ。心から感謝する」
「あ、頭を上げてください。もうお礼は十分ですから」


突然起立したティティス様に深々と頭を下げられたら、流石に俺も恐縮してしまう。


「本来なら国を挙げて感謝の宴でも開きたいくらいなのだが、本人の希望とあってはそうもしかんしな。代わりと言っては何だが、出来うる限りの褒美を用意させて貰った」


ティティス様がテーブルにあったベルを軽く鳴らすと、心地良い音色が広い部屋に響き渡り、何人かのメイドさんがお盆にのった何かを運んでくるのが見えた。それらは一つずつ俺達の前に置かれ、順番に掛けてあった布を剥ぎ取られていく。


「まず金銭での謝礼として、一人当たり金貨二百枚を用意させて貰った」
「にひゃ――!?」
「すご……」
「ひええ」


大金に縁の無い三人――カリン、シエル、ディエーリアが絶句している。ゴールドランクの依頼を受けても、一度に金貨二百枚も稼げる仕事なんて無いしな。彼女達が驚くのも当然だ。そんな中、王女様であるルビアスは平気な顔をしていた。流石だ。


「少ないとは思うが、ベヒモスの事を公に出来ない以上、国庫から出すわけにはいかなかったのでな。妾の個人的な資産から捻出するしかなかった。申し訳ないが、金銭はこれで我慢して欲しい」
「いえ、十分です」
「そうですよ! 金貨二百枚なんて大金……! 凄いなぁ……」
「装備の新調をしても余裕があるわね。これは良いものをもらったわ」
「何に使おう? とりあえず美味しいもの食べたいな」


三人とも、お金に目が眩んで女王様の前だって事を忘れてないか? 金貨の袋を抱えてニヤけているのは、身内として少し恥ずかしいぞ。そんな彼女達の様子を見て、ティティス様は怒るどころか苦笑していた。良かった。寛大な人で。


「それだけでは足りぬだろうから、一つ魔道具を用意させて貰ったよ」


そう言ってティティス様が差し出したのは、一つの模型だった。小さな家屋の形をしている精巧な模型。手に取って窓から中を覗いてみると、小さいながらもいくつかベッドがあり、キッチンや風呂まで備え付けられている。これだけ見事な作りは名のある名工の手作りなんだろうか?


「それは魔力と引き換えに巨大化する本物の家だ。結構な魔力を必要とするので、余程魔力に余裕のある者にしか扱えないが、其方らなら大丈夫だろう」
「これが家なんですか!? 凄い。そんなの聞いたこと無い!」


俺の現役時代にもお目にかかったことの無い魔道具だ。こんな便利なものがあったなら、あの時もっと楽に戦えただろうに。


「不要になったら魔力を抜くことで元のサイズに戻る。おまけに巨大化中は結界で覆われているために、生半可な攻撃を通さないほど防御力に優れている代物だ。其方等の冒険に役立ててくれると嬉しい」
「ありがたいですけど……それならバンディット達に渡した方が?」


俺がチラリと彼に目を向けると、バンディットは苦笑しながら肩を竦めた。


「俺達のパーティーは魔法が苦手って言ったろ? そんなの持ってても使えないんだよ。だったら有効活用出来る奴に渡した方が良い」
「……そう言う事なら、ありがたく頂戴します」
「そうか。受け取ってくれて感謝する」


謝礼と、予想もしていなかった便利な魔道具を受け取った俺達は、城の中庭に待機させていた自前の馬車に乗り込んで、ティティス様やバンディット達の見送りを受けていた。行きはともかく、帰りは馬車ごと飛行魔法で帰る予定だ。一応帰りも格好をつけた方が良いのかとルビアスと相談したけど、ティティス様が気にしていないのなら問題ないと言う結論に落ち着いた。


「重ね重ね感謝するぞ、勇者達よ」
「俺からもだ。今度は本当に何も無くても遊びに来てくれ。いつでも歓迎するぜ」
「カリン殿、今度手合わせする約束、忘れないでくださいね」
「海産物などをご馳走したかったのですが……。みなさんにも予定がありますしね。またの機会と言う事で」


本当なら観光を楽しみたかったところだけど、流石に仕事を休み続けているからな。そろそろギルドにも訓練所にも顔を出し辛くなってきている。あまり遊んでいられないと言う俺の主張を受け入れる形で、俺達は観光を放棄して帰ることになった。そんな俺達を見送ってくれるのは、ティティス様とバンディット達一行だ。


「こちらこそ、ありがとうございました」
「お世話になりました。いただいた魔道具は有効活用させていただきます」
「えっと、また来ますね」
「今度は純粋な観光で」
「また会いましょう」


徐々に高度を上げていく馬車に、ティティス様達が手を振ってくれている。窓から身を乗り出してそれに応えるカリン達を落ちないように押さえながら、俺は手綱を一つ振るって空中を滑り始めた。海運国バリオス――本来の目的である海産物を楽しむ時間は無かったけど、別に二度と来られないわけじゃないしね。楽しみは今後に取っておこう。


「さ、明日から仕事頑張らないと」


一ヶ月以上休んでるからな。ギルドのみんなにお土産を配って謝らないと。少し憂鬱になりつつ、俺は馬車の速度を上げていった。

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