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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第51話 女王ティティス

国境沿いに到着した俺達は、地上に馬車を降ろして陸地からバリオスに入国した。関所には俺達を歓迎するためか、バリオス側から訪れた何人もの人が待機していた。歓待するための文官や、護衛を務める騎士や兵士、そしてそれらの人員を食わせるための荷馬車など、結構な大所帯だ。こんな形で他国に入国するのはレブル帝国の時も経験していたので、それほど俺達に驚きは無い。ただ一人、ディエーリアだけは初めての体験に興奮していたようだけど。


ボルドール王国と違って、バリオス国内は随分のどかな印象を受けた。砂漠ほどでは無いにしろ、空気が乾いて日差しが強く感じられる。そのおかげなのか、街道沿いに生えている草花も成長が早いらしく、ボルドールと比べて随分背が高い。そして街道にはところどころ兵士が数人常駐している小屋があり、何かあった時にすぐ対処出来るような備えがされていた。これのおかげでバリオスは非常に治安が良く、他国に比べて盗賊や魔物の被害が少ないらしい。ボルドール王国には無いシステムなのでルビアスはしきりに感心して、同行していた文官に熱心に質問していたみたいだ。


時々街道をすれ違う商人や冒険者も日焼けしている人達が多く、やはり服装は半袖半ズボンの比率が高かった。明るく笑顔で挨拶をしてくる彼等からは、この国がとても平和なんだという実感が持てた。


レブル帝国の時と違って、馬車での旅は平穏そのもの。魔物も盗賊も現れなければ、時間に遅れることも無い。国境を越えて約三週間、いくつもの街を経由した俺達は、ようやくバリオスの王都クサントスに到着した。


「長らくの旅路お疲れ様でした。ここが我等の王都、クサントスです」


同行していた文官は、どこか誇らしげに胸を張りながらそう教えてくれた。彼は同時に街の案内役まで買って出てくれたのか、王城に行くまでの間、こちらが口を開かなくても馬車の中から詳しい説明をしてくれる。


「ラピスちゃん! 海だよ海!」
「うん。大きいね」
「あれが……海なのね。書物で読むのと実際見るのとじゃ大違いだわ」
「湖より大きいんだよね?」
「これが全部塩水なのですか……。塩に困ることは一生無さそうだ」


俺達五人の中で海を見た事があるのは俺だけだ。カリン達は初めて見る海に大はしゃぎで、まるで子供のように喜んでいる。海から届く独特な潮の匂いに最初は戸惑った彼女達も、今じゃすっかりそれを楽しんでいる様子だ。


クサントスは大陸の一番東端――つまり海に面した位置に存在している。街自体が港街と言う事もあって、東に目をやると漁船や商船、それに客船と言った、多くの種類の船が停泊しているのが見えた。そして港もかなり大きい、小さな街ならそれだけでスッポリと収まりそうな港は大きく三つのスペースに別れていて、魚などの卸売りをしている市場と、商船が積み荷を積み卸しするための貨物港、そして客船が出入りする普通の港がある。それぞれの港では、筋骨逞しい海の漢達が日焼けした肌を晒しながら、流れる汗もそのままに忙しく働いていた。そこにはボルドール王国に無い熱気が感じられる。


「ここは大陸中の港と繋がっていますから、他国の船もひっきりなしに出入りしているのですよ。皆様もバンディット様との面会が済み次第、一度遊覧船に乗ってみては如何ですか?」
「乗りたい!」
「私も。川での小舟はともかく、海で船に乗るのは未経験だしね」
「ボルドール王国は内陸国ですからね。国民のほとんどは船どころか、海すら見た事無い者ばかりですし」
「私も未経験かな。所属してたのは海軍じゃなかったし」
「じゃあ用事が済んだら皆で乗ってみよう」


もちろん反対の声なんか上がらない。俺の提案に全員一致で賛成だ。港を通り過ぎた後、馬車は王城へと続く一本の道を進んでいく。ここは大通りらしく、クサントスでも有力な商店が所狭しと肩を並べているようだ。


「商店の大きさこそボルドール王国に及びませんが、種類の豊富さなら負けていないと思いますよ」


確かに彼の言うように、とにかく色んな種類の商品が店の軒先を飾っている。海運国だけあって、遠く離れた土地の文物も入ってくるんだろう。なんて言うか、ここに居れば退屈と無縁で居られる――そう感じさせる街だった。


「そしてあれが王城です。皆様にはこの後、女王陛下にご挨拶していただき、その後でバンディット様と面会していただきたく思います」


そう。今更ながら驚いたんだけど、どうやらこの国の王様は女性らしい。彼女の名前はティティス。まだ三十手前と言った若さながら、前王である父から今の地位を引き継ぎ、立派に国を切り盛りしている女傑らしい。この国の太陽のように明るい性格と親しみやすい人柄で、国民からの人気も非常に高いんだとか。おまけに美人ときているので、男性から――特に若い男性からの支持は圧倒的みたいだ。


「では正門をくぐります。皆様は少しの間、馬車の中でお待ちください」


§ § §


城の中へ入った俺達は、先ほどの文官に案内されながら貴賓室へと通された。一応国賓待遇と言う扱いなので、用意された部屋はとても広く、備え付けられている調度品も見ただけで豪華だと解るものばかり。だだ――


「なんて言うか……統一感が無いわね」
「そうだね……」


呆れたようにカリンとディエーリアが呟いた。海運国だから他の国の文物が手に入りやすいのはわかる。それを訪れた客にも知って欲しいのも解る。しかし、だからと言って何でもかんでも並べれば良いと言うものじゃないはずだ。南から取り寄せたらしいサボテンの横に、雪だるまの置物を飾られても感想に困ってしまう。どうやら俺は、この国の人達の美的感覚と相容れないらしい。すぐにメイドさん達が複数現れて、お茶だのお菓子だのを用意してくれたけど、どうやら酒の類いは無いみたいだ。別に飲みたいわけじゃ無いから良いけども。


部屋で寛ぎ始めてから小一時間ほど経った頃、戻ってきた文官に連れられて、俺達は女王の下に挨拶に行くことになった。いつかの帝国みたいに順番待ちをさせられることは無いみたいで、俺達は城の中に設けられた小さな庭へと案内された。城の中にポッカリと空いたスペースには小さな庭園が設けられている。吹き抜けの上には天井の代わりにかなり大きな天幕が張ってあり、下の人間を強い日差しと雨風から守ってくれそうだ。四方も壁の類いから遠ざかっているので、とても風通しが良い。たぶんこれは、風通しと暗殺、両方の対処のためなんだろう。そして中庭の中央には一つのテーブルがあり、妙齢の女性が腰掛けて、優雅にお茶を楽しんでいた。


「ここは……」
「ここは妾の私的な庭でな。ごく限られた者しか入ることが出来ない場所なのだ。気に入ってくれると良いのだが」


俺の呟きに応えたのは、一人座っていた女性だ。案内してきた文官はその女性に一礼した後、俺達をテーブルの方へと誘う。たぶんこの女性がティティス女王陛下なんだろう。俺達は一斉にその場に跪き、深く頭を下げる。


「失礼しました。ティティス女王陛下でいらっしゃいますね? 私は――」
「よいよい。そんな硬い挨拶は抜きで良い。さあ、長旅で疲れているだろう? そんなところに跪いていないで、こちらに座って寛いでくれ」
「では、失礼して……」


代表で挨拶の口上を述べようとしたルビアスを制止して、ティティス様は気さくな感じで俺達に席を勧めた。一瞬顔を見合わせたものの、断るのも失礼なので大人しく席に着くと、どこからかメイドさん達が現れてあっという間にお茶の支度をしてくれた。柱の陰にでも隠れていたのかな?


「では改めて名乗らせてもらおう。妾がこの国の女王を務めるティティスだ。我が国の勇者の招待に応じて、遠くボルドール王国からわざわざ訪ねてくれたこと、礼を言う」
「勿体なきお言葉です、陛下。私はボルドール王国第三王女にして勇者を名乗る、ルビアスと申します。こちらから、戦士のカリン、魔法使いのシエル、僧侶のラピス、そして弓と精霊魔法の使い手にしてゼルビスの勇者であるディエーリア。以後、お見知りおきください」
「ふむふむ。みな、話に聞いたとおり腕の立つ者ばかりのようだ。頼もしいことよ。それにしてもボルドール王国の勇者とゼルビスの勇者が一緒に行動しているとはな。何か深い理由でもあるのかな?」


女王ともなると、間者などの報告で立場的に他国の情報を得ることは難しくないと思う。そんな彼女なら、俺達とディエーリアが共に行動していたのはとっくにご存じだったんだろうけど、その理由まではわからないはずだ。事情を知っているルビアスが、正直に話したものかどうか、困ったようにディエーリアを見た。するとディエーリアは一つ頷いて、自分の口で説明を始めた。


「それには理由があります。私は――」


賞金目当てで闘技会に参加し、間違って優勝した挙げ句、仲間も集まらなかったディエーリア。自信を鍛えるのと仲間を得る目的を同時に果たすためにボルドール王国へとやってきた経緯を聞いたティティス様は、とても面白い話を聞いたと大笑いしていた。ディエーリア自身は自分の恥をさらすようで少し恥ずかしそうにしていたけど、ティティス様の笑いからは嫌なものを感じない。ただの失敗談として捉えているようだ。


「なるほどな。そんな経緯で仲間になったのか。人の縁とは奇妙なものよな」


当初に比べて、場の雰囲気は随分柔らかくなっている。ディエーリアが狙ってやったのか不明たけど、これも彼女のおかげだ。お互いに口の軽くなった俺達は、続けて旅の間の出来事や、リッチや魔境での戦い、そして訓練所の訓練内容など、時間を忘れて長々と話し込んでいた。そしてふと気がつくと、ここに近寄ってくる複数の気配があった。敵意も殺気もは無い。でも念のためと思って視線だけを向けると、見た事のある人物達がこちらに近づいてきている最中だった。


「よう! 久しぶりだな」
「お久しぶり! 元気にしてた!?」
「ご無沙汰しています」


誰かと思えば、俺達が身の国に来る切っ掛けを作った人物――バンディット達勇者一行だった。後で面会する予定だったのに、女王陛下との謁見中になんでわざわざ? これは何か事情がありそうだな……。

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