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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第48話 覚悟

――カリン視点


「予定通り始めるわよ」
「まずは私ね。土の精霊よ、私に力を貸して」


精神を集中したディエーリアがそう呼びかけると、彼女の意志に従った土が盛り上がっていき、いくつかある坑道の出入り口を塞いでいく。これこそ彼女の得意とする精霊魔法。大地や大気に満ちている精霊の力を借りて何かの現象を起こす、とても便利な魔法だ。単純な攻撃力ならシエルみたいな普通の魔法使いが使う魔法の方が上だけど、精霊魔法は普通の魔法じゃ出来ないような使い方が出来る。例えばこの入り口を塞ぐ作業も、シエルなら一つ一つ自分で行わなきゃいけない。でも精霊魔法だと同時にいくつも塞げてしまう。ディエーリアが加入してくれたことで、私達の冒険は凄く楽になった。


「終わったわ。次、シエルお願い」
「ええ」


シエルが一つだけ残されたままの入り口に杖を向けて、精神を集中し始めた。


「氷のアイスストーム


シエルの言葉と共に、杖の先から氷のつぶてを伴った暴風が坑道の奥へ勢いよく流れ込んでいく。あっという間に入り口近くの岩肌が霜で覆われて、周囲の気温を一気に下げてしまった。こっちは良い天気で昼寝をしたくなるほどの陽気なのに、入り口からむこうは雪国のような極寒の地になっている。やがてそんな穴の中から、こちらに向かって何かがのそのそと這いずってくるのが解った。


「来たわ! ファイアリザードよ!」


まるでその通りだとでも言うように、坑道の奥からファイアリザードは大きな口を開けてこちらに顔を向ける。咄嗟にシエルを抱えて、私とディエーリアは入り口付近から大きく跳躍した。直後に奔る一本の火炎。それは入り口から大きく伸びて、もう少しで森の木々にまで引火するところだった。邪魔者がいなくなった事に安心したのか、ファイアリザード達はゆっくりとした動きで坑道の外まで這い出てきた。その数は全部で五匹。


「行くよ!」
「援護する!」
「氷のアイスアロー!」


手近なファイアリザードに斬りかかると、奴等は緩慢な動きでそれを避けようとする。やっぱり! 寒さで動きが鈍くなってる!


「はあ!」


口を開けてこちらに噛みつこうとしたファイアリザードの首目がけて、勢いよく振り下ろした剣が弾かれた。硬い! 普通に攻撃したんじゃ駄目だ。私は瞬時に魔力を剣に込めて、再び剣を振り下ろした。すると今度は何の抵抗もなく首を両断できた。次の目標と切り結ぶためにすぐにその場を離れる。すると私と入れ違いに跳んできた数本の氷の矢が、私に気を取られたファイアリザードの頭に命中した。


「カリン後ろ!」


振り返ると、私に鉤爪を振り下ろそうとしている二匹のファイアリザードが居た。でもディエーリアの放った矢はその内一匹の頭に命中して瞬時に絶命させる。私は慌てること無く目の前を通り過ぎる鉤爪をやり過ごし、逆に踏み込んで下から奴の頭を貫いた。


「これで最後! 氷のアイスランス!」


シエルが再び放った魔法で残りの一匹は氷の槍に胴体を貫かれ、痙攣しながら動かなくなった。勝負は一瞬。あっという間の出来事だったけど、これで依頼は終わりかな? 私は剣についた血糊を草で拭った後、鞘にしまい込んだ。


「後は坑道の調査と、ファイアリザードの死体から証拠になる素材を集めるだけだね。怪我も無く終わってホッとした――」
「危ない! みんな、跳んで!」


ディエーリアの叫びに問い返すことも無く、危険を本能で察知した私達は全力でその場から跳び退いた。直後、地響きを立てて巨大なものが目の前に降ってきた。いや、これは――降ってきたんじゃない。降りてきたんだ!


「……ドラゴン」


呻くように言ったシエルの言葉に、私とディエーリアはそれが何なのかやっと理解出来た。上空から目の前に降りてきたそれは、シエルの言うとおり間違いなくドラゴンだった。緑色に輝く鱗と巨大な体躯。大きな翼に鋭い鉤爪。ドラゴン――言わずと知れた最強の魔物。高い知性と強靱な肉体で、生半可な冒険者や魔物じゃ束になっても敵わない存在。なんでそんな奴が私達の目の前に?


「……ファイアリザードの死体を食べてる?」


お腹が空いていたの? 野良のドラゴンに遭遇するなんて、かなり低い確率だと思うんだけど、ファイアリザードが好物だったのから飛んできたのかな? ドラゴンは私達三人なんて気にもしていないのか、仕留めたばかりのファイアリザードの死体を、その巨大な口で貪るように食べている。凶悪な牙がいくつも生えるその口に一囓りされると、ファイアリザードの体はまるでケーキのスポンジのように簡単に引き裂かれていた。囓って食べる――たったそれだけの行為なのに、ドラゴンが持つ顎の力の強さを思い知らされた私は戦慄した。


「……落ち着いて。ゆっくりと後退しましょう。幸いあれは幼竜みたいだから、知能は低いし体も小さい。食欲優先で食べるのに夢中になってる間は大丈夫なはずよ」


ささやくようなシエルの言葉に、私とディエーリアは黙って頷いた。ゆっくりと、静かに、呼吸すら控えめにして後ずさっていく私達。せっかく討伐したファイアリザードを食べられてしまうのは残念だけど、命には代えられない。死んでしまうより依頼失敗で罰を受けた方がマシだ。


「あと少し……」


ジリジリと後退を続けた私達のすぐ後ろには、もう森の木々が生い茂っている。あそこに飛び込めばドラゴンから見つからないはず。やっと助かると安心しかけたその時、ファイアリザードを食べていたドラゴンはふいに頭を持ち上げて、ギロリとした視線を私達に向けた。マズい!


『!』


何も言わずに私達は左右に散った。間髪を入れず、ファイアリザードの火炎なんか比べものにならない炎の奔流が、私達の立っていた場所をなぎ払った。ブレスに晒された木々はあっという間に燃え上がり、周囲に引火していく。あ、危なかった! 直撃してたら一瞬で灰になってたよ。


「グオオオォォッ!」


ドラゴンは私達を敵と見なしたのか、それとも新しい獲物に決めたのか、咆哮を上げながら戦闘態勢を取った。反射的に私達は武器を構え、それぞれが最適の位置取りをするために散る。この状況から逃げるのはもう無理だ。森に飛び込んでも周囲の木々ごと燃やされるし、シエルの魔法で飛んで逃げてもすぐに追いつかれる。生き残るためにはコイツを殺すしか無い。幸い相手はまだ幼竜だ。成竜ならともかく、私達にも勝機はある。


「やるよみんな!」
「ええ!」
「もう! しょうがないなぁ!」


とにかく速攻だ。奴にブレスを吐く暇を与えたら駄目だ。あれを吐きながらグルリと一回転されたら、回避のしようがない。私は全身に魔力を流して強化した脚力で、一気にドラゴンへと突っ込んだ。


「ガアアッ!」


ファイアリザードなんて比べものにならない、圧倒的な圧力で迫る鉤爪。頭を下げてギリギリで躱し、私はドラゴンの腕へと切りつけた。


「くっ!?」


硬い手応えに思わず剣が手から離れそうになる。それを我慢して力尽くで剣を振り抜くと、ドラゴンの腕から血しぶきが飛んだ。魔力を通した鋼の剣でこれなんだから、呆れるほど防御力が高い。ドラゴンが最強の魔物と言われているのも、この鱗の堅さが大きな理由なんだ。


「ガア――グッ!?」


傷を負わされて怒り狂ったドラゴンが、牙を剥いて私に噛みつこうとしたその瞬間、ディエーリアの放った矢が奴の右目に突き刺さった。絶叫を上げて倒れ込むドラゴン。流石にどんな生物でも眼球を潰されたら痛いに決まっている。


「特大のを喰らいなさい! 氷のアイスランス!」


詠唱を続けていたシエルが生み出した氷の槍は、さっきファイアリザードを仕留めたものの倍以上大きく鋭い。それが合計三本。彼女の杖が振り下ろされると氷の槍は勢いよく空中を滑り出し、のたうつドラゴンに殺到した。


「グッギャアアッ!!」


一本が後ろ足に命中。一本が左腕の付け根を抉り、最後の一本はドラゴンの翼を貫いた。立ち上がりかけていたドラゴンが仰向けに倒れ込み、地響きを立てる。このチャンスを逃すわけも無く、私は再び斬りかかった。ディエーリアとシエルもとどめを刺そうと大技の準備に入る。最強の魔物であるドラゴンに勝てる――そんな一瞬の油断が隙を生んだのか、私達は次の瞬間何かによって弾き飛ばされた。


「ぐはっ!?」
「ぎゃん!」
「きゃああ!」


私達は残らず木に叩きつけられた。背中を強く打ったからなのか、息が上手く吸えない。左右には杖を離したシエルと、弓を手放したディエーリアが苦しんでいる。いったい何が起きたのかわからずドラゴンの方に目を向けると、そこには振り回されたドラゴンの尻尾が揺らめいていた。あれが当たったの!? 完全に死角からだった。仰向けに倒れたドラゴンの下敷きになっていたから見えなかったんだ。尻尾とは言ってもそこはドラゴンのもの。太さは丸太ぐらいあるし、長さも数メートルある。あれで勢いよく叩きつけられたのだから、大ダメージを受けたのも当然だ。


「グルルル……」
「うぐ……」


ドラゴンは殺気の籠もった目でこちらを睨み付けている。体の至るところに深い傷を負い、体からはドクドクと血が溢れている。かなり追い詰めているみたいだけど、ドラゴン並みの防御力を持たない私達は今の一撃でガタガタだ。それでも私は諦めず、足下に転がっていた剣を手に取って静かに構えた。後ろではシエルとディエーリアが痛む体を我慢して、何とか立ち上がっていた。


「ガアッ!」


ドラゴンが口を大きく開け、こちらを一気に全滅させようとブレスを吐こうとしている。喉の奥が赤く光をともし、高温のブレスが吐かれようとしたその時、ディエーリアの鋭い叫びが響く。


「風の精霊よ! 奴の体を切り裂いて!」


瞬間、周囲の木々が激しく揺さぶられるほどの突風がドラゴンに襲いかかった。空気の層で生み出された風の刃はドラゴンの体を切り刻み、喉元で出かかっていた炎を逆流させる。自分の炎を顔面で浴びる形になったドラゴンはブレスを止め、嫌がるように激しく首を左右に振った。そんな隙を見逃すはずが無い。


「やあああっ!」


ここが勝負所。後のことなんか考えずに、私は残された魔力を全身に巡らせて勢いよく駆け出した。猛烈な風の影響でドラゴンは思うように動けない。それでも唯一自由になる首だけで、走り寄る私を一飲みにしようと牙を剥いた。


「氷のアイスアロー!」


背中から放たれた氷の矢が私を追い越す。それは奴の唯一残された左目に命中し、今度こそ全ての視界をドラゴンから奪い去った。絶叫するドラゴンの顔面に飛び乗った私は剣を叩きつけようとしたけど、奴はそれを防ごうと激しく首を振り回す。振り落とされそうになるのを必死になって堪える。体中が痛い。あちこちから血が滲んでいるし、打ったところが変な色に変色している。体力も気力も、もう限界以上に振り絞っていた。でも、ここでこの手を離したら全てが終わりだ。傷ついた私達に勝機は訪れない。生き残るためにも絶対負けるわけにはいかなかった。


「このおおおっ!」


無理な体勢なのは解っていたけど、片手でドラゴンにしがみつきながら剣を叩きつけた。ドラゴンの鱗が砕けて血が溢れる。


「ギャアアアッ!」


私を何とかして振り落とそうとするドラゴンと、残された力を使ってひたすら剣を叩きつける私。もうこうなったら気力の勝負だ。溢れた血が私の体や装備の色を変えていく。でもそんな事は気にならない。疲労でボンヤリしかけていた私は、ラピスちゃんの厳しい訓練を思い返していたからだ。


(そうだ。こんなの、あの訓練に比べたらなんてこと無い! 絶対に生きて帰ってラピスちゃんを驚かせてやるんだから!)


いつまでも彼女に保護される立場じゃいられない。だって私は彼女の仲間なんだから。仲間なら彼女の後ろじゃ無くて、横に並んで戦わなきゃいけないんだ!


「わああああ!」


絶叫しながら振り下ろした剣は、今までで一番深くドラゴンの頭に突き刺さった。それと同時に、飛んできた氷の槍がドラゴンの体に深々と突き刺さる。頭と体――その二カ所に致命傷を負ったドラゴンは、地響きを上げながらその場に倒れ込んだ。

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