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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第40話 ゼルビスの勇者

――ディエーリア視点


私の名前はディエーリア。大陸中央で隆盛を誇る大国、ボルドールの真北にあり、共和制という他とは違った政治体制の国、ゼルビスに住むエルフの一人よ。最近は魔王が復活したとか各国で勇者が現れたとか色々騒がしいけど、ゼルビスだけはそんな騒ぎから無縁だった……はずなのに、なんでかわからないけど、いつの間にか私は勇者として祭り上げられてしまった。


「今すぐ辞退させてください議長!」
「落ち着きたまえディエーリア。あまり興奮するから可愛い顔が台無しじゃないか」
「私の顔なんてどうでも良いんです! なんで私が勇者になっているのかを聞いてるんです! 私はあの時、確かに辞退するって言ったじゃ無いですか!」


私の剣幕に議長が気まずそうに顔を逸らせる。この人はいつもこうだ。何か問題が起きれば、何とか出来そうな人に丸投げして自分は知らん顔を決め込む。無責任すぎる態度だけど、なぜかそれで上手く議会をまとめ上げている。それぐらい要領が良くないと議長なんて役職は務まらないのかも知れないけど、今はただ腹が立つだけだった。


事の始まりは数日前。ボルドール王国からもたらされた情報からだった。魔王が復活したのは周知の事実として各国は受け入れているようだけど、全ての国が魔王討伐に本腰を入れているわけじゃない。中にはゼルビスのように、一応対策はしてますよと言うポーズを取りながら、他の国に問題解決を図ってもらおうという魂胆の国もある。我が祖国ながら情けない……。それはともかく、新たにもたらされた情報で、流石にゼルビスの首脳陣も無視していられる状況じゃないと悟ったみたいだった。


そして急遽開かれた武闘大会。国中から官民問わず人が集められ、賞金を賭けて勝抜戦のトーナメントが行われたわ。私も一応軍に所属していたし、安月給で厳しい懐事情だったから、あまりよく考えずに参加してしまった。それが運の尽きだったとも知らずに。


ハッキリ言って、私の実力は参加者の平均の中で、中の上に過ぎない。それなのに勝ち上がってしまった。まかり間違って優勝してしまった。それもこれも、二つの要素が絡んだから。まずは運。私は昔から妙に運が良くて、特にクジ引きとか賭け事とかは、意識しないでも当たりを引いたり予想を的中させたりしていた。今回勝ち上がったのも運の要素が大きい。対戦相手が私より格下だったり怪我をして辞退したりしていたから、あまり派手な怪我もせずに勝ち上がることが出来た。そして第二に、これが総当たり戦じゃなく、トーナメント方式なのが大きな理由だ。


大会を主催した評議会は、勇者になるべき人間はあらゆる面で生き残る力が必要だとか主張して、運も勇者選抜の重大な要素と思ったみたいだ。でもそのおかげで――いえ、そのせいで、私みたいな中途半端な実力を持つエルフが優勝してしまった。今でもハッキリ覚えている。元気よく盛り上げようとする司会の横で、顔を引きつらせたまま賞金を抱えている私と、しらけきった観客達の目。そしてまばらな拍手。これだけ祝福されない勇者の誕生シーンも無かったに違いない。


「ではディエーリア選手、優勝の喜びを何か一言!」


風の魔法で増幅された司会の声が会場中に響き渡る。それはつまり、私がボソボソと消え入りそうな声で話した言葉も会場中に伝わることを意味していた。


「えっと……。すいません。勇者になるの、辞退します」


涙目でそう宣言した私は、驚愕の表情でこちらを凝視する司会や観客から逃げるようにその場を後にした。そして体調不良を理由に休むこと二日。そろそろほとぼりも冷めたかなと外に出た私の目に飛び込んできたのは、町中に貼り付けられた勇者誕生のビラだった。


「な……な……なに……これ……?」


ビラには確かに私の名前と、毎日鏡で見ている顔と同じものが描かれている。うわ~。これ書いた人は絵が上手だな……と、現実逃避したのも一瞬で、私はこの国の最高意思決定機関である評議会に怒鳴り込んだ。普通なら一般人がそんなところに突撃しても、つまみ出されるか取り押さえられるかの二択なのに、幸か不幸か、勇者になったばかりの私は顔パスで通れてしまった。そして議長の部屋に乗り込むなり、叫んだのが冒頭の部分だ。


「とにかく! 私は勇者なんて絶対嫌ですよ! 魔王討伐なんて、死にに行くようなものじゃないですか!」
「しかしだな、一度公正な手段で決めてしまったものを、ハイそうですかと却下するわけにはいかんよ。君もゼルビスの国民なら解るだろう?」
「う……」


ゼルビスの政治体制は共和制で、他の国のように絶対権力者がいないぶん、法律がその代わりを果たしている。法律の前には誰でも平等に扱われる。老若男女。役職や他国の者であっても、ゼルビス国内では法律が絶対だった。一度議会で勇者選出の方法が決められて、正式な手順を踏んで選ばれた私は、もうこの国唯一の勇者になってしまっている。本人の意思とは関係無く。でも私は自殺志願者じゃないし、いくら法律で決まっていたからと言っても、出来もしないことをやれというのは無理がある。なんとか粘って打開策を見つけないと!


「じゃ……じゃあ、せめて強い人と一緒に行かせてください! 最低でもトーナメントの準決勝以上に勝ち進む猛者と一緒じゃないと、私なんて魔物の餌にしかなりませんよ!?」


勇者に選ばれたことを覆せないなら、せめて自分の身ぐらいは守りたい。具体的には肉の壁が欲しい。ついでに私に変わって敵を倒してくれるなら最高だけど、流石にそこまで高望みするのは無茶だと思う。でも議長は私の素晴らしい提案に乗っかってくるどころか、再び目を逸らしただけだ。


「……君に言われるまでも無く、君だけを勇者として送り出すのは無茶だと思っているよ。だから私達も実力者達に協力を呼びかけたんだ。君と一緒に魔境に踏み入り、魔王を倒してくれと」
「そ、それで? 返事は?」
「……全員に断られた。あんな運だけで勝ち上がったような女の下につくのはご免だと言われてね」
「なんでよ!? そこまで嫌うことないでしょ! 私だって好きで勝ち上がったんじゃないっての!」


運が良いから勝ち上がれたのに、その運のせいで協力者がゼロになった。これは運が良いと言っていいの? 絶対違うよね。


「流石にこのままじゃ死にに行かせるようなものだからな。そこで私達も手を考えた。もう君が勇者として扱われることは動かせないが、君の命を預けられる人材を見つけたんだよ」
「命を預けられる……? どう言う事?」
「君も聞いたことは無いか? ボルドール王国に出来た訓練所を。その中でも参加した者の実力を飛躍的に伸ばしている教官がいることを。我々はそこに協力を取り付けたのだ」


その噂……聞いたことがある。最近各国で急速に増えている訓練所と言う施設。名称こそ違うものの、このゼルビスにだってそれは存在している。多少の参加費を払えば誰でも講習が受けられて、今まで以上の実力を身につけられる施設だって話だ。その中でもボルドール王国に出来た訓練所第一号の教官の中に、化け物みたいに強い人が居るらしい。リッチに率いられた魔物の群れをたった一人で殲滅したとか、レブル帝国の勇者を素手で半殺しにしたとか、眉唾物の噂ばかりだけど、そんな噂が流れるぐらい優れた教官なんだろう。


「要するに、そこに通って勇者にふさわしい実力を身に着けろって事? でも、他の人も同じ訓練をしているんでしょ? それで勇者になれるなら、そこら中に勇者が溢れてないとおかしいじゃない」


当然の疑問だった。訓練所に通ったぐらいで勇者になれるなら誰も苦労しない。それこそ魔王が複数人どころか、百人居たって何の問題も無いような戦力が整ってしまうことになる。つまり訓練所で出来る事は、一定水準の戦士や魔法使いを作り上げるだけで、それ以上ではないはずだ。


「君の言うことはもっともだ。その点私達にも抜かりはない。君が通うのは確かにボルドール王国の訓練所だが、あるパーティーにも参加してもらう。腕利きの冒険者のね」
「パーティー? 顔も知らない人間とパーティーを組めって言うの?」


嫌な予感しかしない。軍人をやってるからそこそこ男勝りな部分はあるけど、私が今の仕事をなんとかやっていけているのは、軍隊という規律正しい組織に属しているからだ。それを……野蛮な冒険者とパーティーを組めだなんて! 心底嫌がっている私を、議長が呆れたように見上げている。


「ディエーリア。君は少々冒険者に対する偏見が強いな。彼等はその全てが野蛮で粗野というわけじゃないぞ? 中には品行方正を絵に描いたような人物もいるだろうし、不正を許さない高潔な人物もいるはずだ」


議長の言うことは正しいけど、一般的な冒険者のイメージは、大体私が考えるものと同じだと思う。冒険者とは――日々の糧を稼ぐために危険な仕事も構わず受ける。そして常に死と隣り合わせの生活だから、命というものを軽く考える傾向があり、粗野で下品な奴が多い。軍人にも傭兵にもなれない半端者の集まり――と言うイメージだ。と言っても、私は直接冒険者と関わり合いになった事が無い。街で見かける彼等の行動を見てそう感じただけだ。


「なんだね? その疑わしい目は。確かに私は女性から蔑むような目で見られるとゾクゾクする性癖の持ち主だが、今は嘘なんか言っていないぞ」
「この変態親父……」


国政を司る議会。それをまとめる議長と言う立場のエルフがこんな事を口走ったら、普通なら辞職勧告される事態だと思う。でも議長は、私と話す時にいつもこんな本気だか冗談だかわからない言葉を口にしてくる。それもこれも議長が私に――姪である私に心を許しているからだ。


「君が冒険者を毛嫌いしているのは知っている。なのでこちらとしても、見た目で悪人だと解るような人間と組ませるつもりはない。彼女達の身元はゼルビス、ボルドールの両国政府が保証しているのだから」
「政府が保証!? ただの冒険者を? いったい何者なの?」
「彼女達こそボルドール王国の勇者パーティーだ。王家の第三王女であるルビアス殿下を旗頭に、最近急速に力を伸ばしてきた冒険者の二人が加わっている。そして最後のメンバーこそ、君が通う訓練所の教官であるラピス嬢だ」


王女!? いや、そこはもちろん驚きだけど、勇者パーティー!? 勇者パーティーなんて威信を賭けて国が送り出す最精鋭のはずでしょ? なんでそんなとこに私みたいな中途半端なのが参加できるのよ!? 戦力的にも申し分ないし、身元もしっかり保証されているけど、ハッキリ言って場違いも良いところだ。近接戦は苦手で、出来る事と言ったら遠距離からの弓での攻撃と、いくつかの精霊魔法が使えるだけ。足手まとい以外の何者でもない。わざわざ恥をかきにいくようなものじゃない!


「ことわ――」
「もちろん断るなど不可能だぞ。これは君が生き残るために最善の方法だからな。それに、これはこちらから申し込んだ提案なのだ。向こうは好意で受け入れてくれたというのに、こちらの勝手で取り消すなど失礼極まりない」
「ぐっ……!」


被せ気味に却下された。流石議長。長い付き合いだけあって、私が何を言うか完全に読まれてる。


「ディエーリア。君もいい加減覚悟を決めたまえ。トーナメントで勝ってしまったのは確かに運の要素が強いが、運だけで勝ち残れるほどあれは生やさしい戦いじゃなかったはずだぞ。あれは君の実力あっての勝利なのだ。自信を持ちたまえ。そして我々に見せてくれ。強くなった君を。我々を喜ばせてくれ。君を選んだことは間違いじゃなかったと。そして見返してやれ。君を見捨てた連中を」


そう言った議長の顔は真剣だった。さっきまでのふざけた気配などどこにもなく、そこにはこの国をまとめ上げる責任ある男の姿があった。


「……はぁ」


ため息が漏れた。ここまで言われて、ここまでお膳立てをされた上で断るなんて、流石の私も出来るわけがない。そこまで愛国心があるわけじゃないけど、私のせいでゼルビスが侮られるのだけはご免だった。ゼルビスの勇者は逃げ回ってばかりで、ボルドールの勇者の後を金魚の糞のようにくっついて歩いていただけ――なんて言われないようにしないと。


バシッと両手で自分の頬を叩く。よし。もう覚悟は決まった。その厳しい訓練に行って、噂の教官に一から鍛えてもらおう。国の恥にならないように、せめて勇者と呼ばれるだけの実力を身につけないと。


「わかりました。やります」
「おお! そうか。行ってくれるか!」


立ち上がった議長は私の手を取って激しく揺さぶる。望まずに勇者になった私だけど、決まったからには頑張ろう。決意も新たに、私はボルドール王国へと旅だった。

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