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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第32話 模擬戦

各国の勇者が揃ってお披露目となるだけに、集まった人の数も凄いものだった。ここは帝都にある城近くの広場。本来は軍を集結させるのに使う場所のようだけど、有事で無い普段は、今回のように国民を集めて催し物が行われる場所のようだ。そりゃそうか。いくら軍事国家と言っても、何の娯楽も催しも無いとなると、流石に国民の不満がたまるだろうしね。


そんな場所で俺達――各国の勇者を始め、皇帝や主立った貴族が立っているのは階段状に設けられた貴賓席だ。バルコニー型だと近くに居る人達が見えないため、階段状の形にされている。こっちからも向こうからもよく見える造りだ。人々は並んだ俺達を物珍しそうに指さしながら、周囲の人と忙しく会話を交わしている。そんなざわつきがある程度続いた後、皇帝がスッと壇上の前に現れた。途端に静まり返る国民達。よく訓練されているのか、それとも絶対的な権力者の機嫌を損ねる事を恐れているのか、微妙なところだな。


「今日、皆を集めたのは他でもない。魔王復活の兆しが見られるこの時に、各国の勇者達がレブル帝国を激励するために集まってくれたので、その勇姿を一目見せようと、このような席を設けた。魔物の力が増し様々な被害が出ている昨今、少しでも日々の励みにして欲しいと思ったからだ。我が国だけで無く、これ程多くの勇者達が居れば、魔王など恐るるに足らず! 必ず平穏な生活が戻ってくると約束しよう! 皆も安心して日々の勤めを果たすが良い!」


皇帝の言葉が途切れると人々は熱に浮かされたように喝采を上げた。飾り物と化した俺達勇者パーティーも愛想笑いでそれに応える。あまり実のある演説とも思えないけど、これだけ人々が熱狂すると言う事は、レブル帝国の状態は思った以上に悪いのかも知れない。でなければ他国の勇者が現れたことにここまで熱狂しないだろう。


「……軍事国家だからな。色々と不満がたまっているんだろうぜ」


俺の横に腰掛けていたバンディットが小さな声でそう漏らす。うん。やっぱりこれを見て出てくる感想はそうなるよな。となると次に彼等がやりそうな事は大体予想がつく。何か大きな手柄を立てて大々的に発表するんだろう。その考えを裏付けるかのように、皇帝の話は続いた。


「我が国の勇者バルバロスよ! ここに!」
「はっ!」


皇帝の言葉に反応して、レブル帝国の勇者が前に出る。すると人々の熱は増して、耳に痛いぐらいの歓声が上がった。それにしても……あいつの名前バルバロスって言うのか。何回か会って戦ってもいるのに、名前すら知らなかったな。バルバロスは普段の憎たらしい顔を引っ込め、まるで本物の勇者のように爽やかな笑顔を浮かべながら人々に手を振っている。粗暴な態度を取るのは自国の国民の目が無い所だけなのか? いかにも小悪党って感じで好きになれないな。


「数日後、このバルバロスは魔王討伐のため魔境に出発することになる。各国の勇者に先駆けての出発だ! 皆も誇るが良い!」


再び湧き上がる国民達。誰がどんな順番で魔境に入ろうと勝手だと思うけどな。それぞれのパーティーが自分の力量を把握しつつ、確実に生きて帰れる手段を残して少しずつ進める範囲を広げていく。そうしなければ魔物の溢れる土地ではあっさりと全滅する事になる。命を省みずに魔王討伐を目的とするなんて、ただの暗殺者と変わりが無い。まぁ、考え方なんて人それぞれだし、皇帝やの考えが正しいと思う人も居れば、俺の考えが正しいと思う人も居るんだろう。


その後は皇帝による演説の再開だ。いかにレブル帝国が優れているのか、バルバロス達勇者パーティーが勇気に溢れているのか、聞いている方が馬鹿らしくなるぐらいに持ち上げ続けていた。俺達を含む各国の勇者達は、表面上こそ穏やかだったものの、内心はウンザリしていたに違いない。そんな拷問のような時間が一時間ほど続いた後、ようやく式典が終わり俺達は解放された。


まるでこの城に到着した時の様子をそのまま再現したかのように、俺達パーティーはソファに身を沈めて身動きもしない。本当に退屈で苦痛しか感じない時間だったな。


§ § §


退屈なお披露目会が終わった翌日、俺達は練兵場へと足を運んでいた。周囲には大勢の騎士や兵士が立ち並び、騎乗した騎士や長槍を持って隊列を組んだ兵士などの姿もある。これで行進でもしたら軍事パレードそのものだろうけど、今回は小規模な模擬戦をするだけなので、そこまで大げさな話じゃ無い。


皇帝を一番上にした貴賓席は上から立場の重要な者が座るらしく、皇帝の次に貴族、そしてその一段下に俺達他国の勇者が座る形だ。なので話し声がよく聞こえる。皇帝はともかく、貴族達のしょうもない噂話や人の陰口とか、目の前の光景と何の関係も無い情報が否応なく耳に飛び込んできて、早くも憂鬱な気持ちになり始めていた。


「なかなか練度が高いですね」
「全体としての動きは流石軍事国家と言ったところかな。個の能力はボルドール程じゃないけど」


始まった模擬戦を見たルビアスがそう漏らす。隣国の王女として、ルビアスは招待された勇者の中でも一番熱心にこの模擬戦を見ているのかも知れない。今の所険悪――とまではいかないものの、あまり良好とは言えない両国だけに、ひょっとしたら将来交戦する機会が訪れるかも知れない。何か一つ弱点でも見つけられればそれだけ有利に戦えるから、目を離すわけにはいかないんだろう。


もっとも、圧倒的な個の力を集めれば軍隊を圧倒する事も可能だ。例えば昔俺とパーティーを組んでいた魔法使いのソルシエール。彼女の大規模攻撃魔法は俺以上の威力を持っていたから、やり方次第では魔法一つで千人規模の軍隊を殲滅する事だって出来ただろう。俺の横に座るシエルでも、今の実力なら百人ぐらいまとめて倒せるかも知れない。数か質か――どちらも良し悪しがあるから、どちらを優先するかは国によって違うと思う。その点このレブル帝国は完全な前者だ。徴兵して数を整え、集団での戦闘方法をひたすら訓練している。いったい何処と戦うつもりなのか知らないけどね。


小一時間ほど続いた模擬戦は終わり、次に始まったのは腕自慢による一対一の試合だった。こんな所に出てくるだけあってそこそこ戦えるようだけど、それでも少し前のカリンに敵わない程度の腕前だ。腕の立つ冒険者が一人居れば蹴散らせると思う。あまり参考にもならず、真新しいものも発見できずで、退屈のために欠伸をかみ殺すのに必死だった。それは周囲の勇者達も同じらしく、アネーロは腕を組んだまま微動だにしないし、バンディットに至っては堂々と船を漕いでいた。唯一まともに見ていたのはフレアぐらいか。


最後に出てきた騎士の一人が相手の剣を跳ね上げて喉元に剣を突きつけると、相手が降参して試合が終わった。やっと終わりかと安心したのも束の間、バルバロスのパーティーが
現れて皇帝に一礼する。


「陛下。私から提案があるのですが、聞いていただいてよろしいでしょうか?」
「……許す。申してみよ」
「では失礼して」


そこでバルバロスは大仰な仕草で貴賓席を見回した。いちいち芝居がかっていて面倒な奴だな。それに奴の目的なんて最初からわかっている。俺達と模擬戦をやりたいだけだから、探す振りなんかしなくても良いのに。やがてバルバロスは視線を一点で止めて指さした。当然その先には俺の姿――ではなく、ルビアスの姿があった。


「ボルドール王国の勇者ルビアス殿。私と貴女で試合をしてみるのはいかがです? 両国の勇者の力、人々に知らしめる良い機会だと思いませんか?」


俺じゃ無くてルビアスを指名した? 何を考えてるんだコイツは。アイツと俺達三人が揉めた時、彼女は居なかった。無関係なのになぜ指名する必要があるんだ? 指名されたルビアスは既にやる気に満ちた目で俺を見る。まるで主人の命令を待つ犬のように。


「……師匠。受けようと思うのですが、かまいませんか?」
「その前に。細かいところを聞いておいた方が良い。アイツ一人で戦うなら後ろの連中は必要ないからな。不意打ちでもされたらたまったもんじゃない」
「承知しました」


ルビアスはすっくと立ち上がり、気負いも無くバルバロスを見返すと、静かな口調で不敵な挑戦を受けた。


「試合をするのは構いませんが、突然のことなので少々戸惑っております。なのでいくつか確認させていただきたい。よろしいか?」
「構いませんよ。どうぞ」
「では。戦うのは私と貴殿の一対一で、他に誰も参戦しないのかと言う点が一つ。勝ち負けは誰がどのような方法で決めるのかが一つ。この二点を明確にしていただきたい」


なんだそんな事かと言わんばかりに、バルバロスは肩を竦める。その人を小馬鹿にしたような態度に、いちいちイラッとさせられる。


「戦うのは当然一対一です。ただし、順番にと言う注釈が付け加えられますが」
「順番……ですか?」
「はい。こちらのパーティーは四人。そちらも四人。つまりは勝抜戦をしようというのです。当然最初に戦うのは勇者である私と貴女の二人。後の順番はそれぞれが決めればよろしいかと」


ずいぶんと自信満々なんだな。あれだけ酷い目に合わされても心が折れないのは素直に凄いと思うけど、戦いとなったら実力がものを言うんだ。正直言って、当時のカリンに勝てなかった奴が今のルビアスに勝てるとも思えない。どこに勝算があって勝負を仕掛けてきたのか、理解に苦しむ。


「あと、勝敗の決着は相手を戦闘不能にすることでいかがです? 気絶するか戦えないほどの傷を負う。若しくは自ら降参する――この三つさえ決めておけば問題ないかと。審判などと言う無粋なもの、真剣勝負には邪魔でしか無い」
「……良いでしょう。その条件で受けて立ちます」
「よかった。流石はボルドール王国の勇者だ! この挑戦を受けていただけて感謝しますよ。陛下、ルビアス殿の賛同も得られたのでさっそく始めようと思うのですが、よろしいでしょうか?」
「よかろう。貴様の力、存分に見せつけるが良い」


皇帝の言葉に爽やかな笑みを浮かべて一礼したバルバロスの目は、奴の本性を現すように濁って見えた。


§ § §


貴賓席から練兵場へと移動した俺達パーティーは、四人集まってどんな順番でいくのか相談を始めていた。勇者であるルビアスの一番は変わらないとして、後の三人はどうしたものか悩みどころだ。


「ラピスちゃんが二番手になったら、それだけで試合が終わっちゃうよね。せっかく遠くの国まで来たんだし、私も少しは出番が欲しいんだけど」
「私も。退屈だから少し体を動かしたいわ」
「ええ……じゃあ俺が最後で良いよ」


と言っても、ルビアスの活躍次第でカリン達の出番は無いかも知れない。バルバロスの実力が以前と同じなら勝負にならないし、少し腕を上げた程度で歯が立つほどルビアスは温い訓練をしていない。放っておいても俺達の勝ちだ。


順番も決まり、ルビアスとバルバロスが剣を向いて向き合う。既に戦いは始まっていて、場には戦闘時特有の緊張感が満ちていた。審判も何もないものだから、開始の合図すらないのだ。


「いつでもどうぞ」
「では……まいる!」


先手を譲ったバルバロスにルビアスが正面から突っ込んだ。よし、普段の訓練通り出来ているな。一気に距離を詰めたルビアスが上段から一撃を加えようと剣を振り下ろすも、バルバロスは横に小さく跳んでそれを交わした。そして反撃の一撃を加えようと横薙ぎの一閃を繰り出したけど、それはルビアスの剣によってガッチリと止められてしまった。


力比べになるかと思ったその体勢は長く続かず、バルバロスのすくい上げるような蹴りをルビアスが躱して仕切り直しだ。再び踏み込むルビアスに、今度は大きく後退しながら魔法を放つバルバロス。飛んできたいくつもの炎の矢を剣で散らしながらルビアスは更に接近を試みる。しかし、バルバロスはそれを嫌がるように距離を保つ。


「ルビアス殿の剣は魔剣なのか? 魔法を切り裂いているが」
「大国の勇者ですからな。魔剣ぐらいは与えているでしょう」


観客席で観戦する貴族達の会話が漏れ聞こえた。もちろんルビアスの持っているのは魔剣では無い。魔力伝達力は高いものの、ミスリル製の普通の剣だ。あれはカリンと同じように、魔力を剣に纏わせて切り裂いているに過ぎない。ルビアスの魔力コントロールはまだ
カリンほどでは無いから、剣の性能に助けられているのは事実だけども。


まるで追いかけっこのような戦いが続き、誰も彼もがヤキモキし始めた頃、逃げ回っていたバルバロスは急に足を止めた。何かするつもりなのかを警戒してルビアスの足も止まる。


「いやいや、やはり強い。流石ですよルビアス殿」
「……どうも。しかしバルバロス殿。あまり消極的だと、皇帝陛下の不興を買うのでは無いですか?」


遠回しに、逃げるな戦えと言うルビアスに、バルバロスはいつか見たようなムカつく笑顔を向ける。


「ご心配なく。小手調べは終わったので、たった今から全力を出させてもらいますよ。ああ、先に言っておきますよ。一瞬で終わっても恥ではありません。私が強すぎただけですから」
「何を言って――」


そうルビアスが言いかけた時、バルバロスの雰囲気が一瞬にして変化した。手足どころか全身の筋肉がメキメキと音を立てるように膨れ上がり、体格が大きく変化していく。それに釣られるように頭髪や目の色まで変色し、一瞬の間にバルバロスは別人のような姿になっていた。そして奴からは、まるで魔物のような邪悪な気配が漂っている。戦っていたルビアスはもちろん、カリン達や他の国の勇者までがその変化に驚きを隠せなかった。


「そ、それはいったい……」
「これこそ我が国秘蔵の技術。肉体面だけで無く精神面ですら元の何倍にも強化できる優れた技術ですよ。強化の秘術――強化術とでも言いましょうか。ま、どの程度の変化なのかは身をもって体感してください」
「くっ!」


膨れ上がる闘気にルビアスが怯む。そんな彼女を嘲笑うかのように、バルバロスは勢いよく地を蹴った。

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