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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第31話 晩餐会 その2

次に俺達に声をかけてきたのは、ベルシスの勇者アネーロだった。ただでさえ体格が良いのに、人間種では表情の読めないリザードマンでもある彼とその従者は、ただ立っているだけで周囲の人間を威圧しているようにも思える。当然戦闘と縁の無い貴族は話しかけることすら遠慮して、彼の回りには武官ばかり集まる事になっていた。そんな彼が俺達に話しかけてきたのは、別に興味があったからではなく、たぶん周囲の人間の煩わしさから逃げるためだったんじゃ無いかと思う。


「失礼。ボルドール王国の勇者、ルビアス殿で間違いないか? 私はベルシスの勇者アネーロだ。お初にお目にかかる」
「初めまして。私はボルドール王国の勇者ルビアスです」


リザードマンには握手の習慣が無いのか、差し出されたルビアスの手を遮り、自分の両手を拝むように顔の前に組んで一礼した。ルビアスも戸惑いながらそれに従う。


「これは我等リザードマンにとって挨拶の作法なのだ。悪く思わんでくれ」
「国や人種によって礼儀作法が違うのは当然のことだと思います。私は気にしていませんよ」
「ありがたい。ルビアス殿は気持ちの良い御仁のようだ」


そう言った彼の尻尾が左右に振られ、周囲の人間が慌てて避けていた。まるで犬のようだけど、あれは機嫌が良いと言うことなんだろうか? いまいち読めないな。


「ルビアス殿やその従者は、私が見たところかなりの実力者のようだ。それほどの力、まだお若いのにどうやって身に着けたのだ?」


ルビアスの視線がチラリとこちらに向く。


「師匠が良いのです。毎日死の寸前まで追い詰められる訓練を繰り返していたら、いつのまにかこうなりました。それでも師匠には遠く及びませんが」
「なるほど。命の危険を感じるほどの訓練か。後学のためにも、一度この目で見てみたいものだ」
「我が国を訪れることがあったら、是非スーフォアの街を訪ねてください。訓練所で生徒がしごかれている様子を見れば、一目で納得いただけると思います」
「大変興味深いな。我が国にも訓練所ならぬ練兵場が新たに造られたが、他の国がどうなっているのかは見た事が無い。機会があれば是非お邪魔するとしよう」


ルビアスとアネーロが談笑している間、俺達三人も彼の従者と仲良くお喋りしていた。驚いたことに従者の一人は女性だったらしい。言われてよく観察してみると、確かに隣の従者より少し体格的に劣っているようにも見える。その分鱗の艶が良く美しく見えた。本当に微妙な違いなので凄くわかりにくい。


「ベルシスからレブル帝国まで来ようと思ったら、かなりの時間がかかったんじゃないですか?」
「そうですね。片道で二ヶ月以上かかりました。船や馬車を乗り継いだり、時には歩きで移動したりと。大変な旅でしたが、その分色々と勉強になる事もありましたから、出発前より成長した実感があります」


パーティーの紅一点、スイレイと言う名のその女性は、そう言って力こぶを作ってみせる。筋肉が盛り上がった腕はパンパンに膨らみ、血管がいくつか浮き上がっている。この腕で武器を振り回したら、生半可な魔物では相手にならないはずだ。


リザードマンと言うのは種族的にあまり魔法が得意じゃ無いらしく、アネーロ率いる勇者パーティーですら全員が武器を振り回す前衛と言う、攻撃力に偏ったパーティーみたいだ。じゃあ回復はどうするのかと心配になったけど、その辺は彼等も考えているらしい。


「我が国のポーションは高性能ですから、常にそれを持ち歩いているんですよ。小さな傷なら数滴舐めるだけで治り、骨折などでも問題なく回復します。普通のポーションは一瓶飲み干さないと無理ですけど、舐めただけで治るなら優れものでしょう? それにポーションを節約できるなら色々と恩恵もありますし」


確かにそうだ。冒険で厄介なのものを上げていくと、魔物との戦いや探索などが上位に入るだろうけど、実は取捨選択も上位に食い込むと思う。と言うのも、いくら訓練でつよくなっても、持ち運べる荷物には限界があるからだ。大きめの道具袋を背負おうが、両手が塞がるほど荷物は運べない。いざという時武器を取れないし、背中が重すぎるとバランスを崩してこけてしまう可能性もあるからだ。何も無いところでこけるなら特に問題も無いい。しかし、それが魔物に襲われている最中だったら? ダンジョンで罠を回避する時だったら? まず命に関わると思って間違いない。それを避けるためにも、冒険者に限らず、旅慣れた者は荷物を最小限に纏めるのが鉄則だった。


そんな条件下で、数滴舐めるだけで傷の回復するポーションがあれば、どれだけ道具袋がスッキリするか。空いたスペースに食料や水、魔物の素材を沢山入れられるはずだ。派手さは無いけど地味に助かる――ベルシス製のポーションは、彼等パーティーにとって強い味方になっているに違いない。


そこそこ実のある話をした後、彼等は皇帝に挨拶をするため席を離れていった。そして入れ替わりに入ってきたのがリュミエールの勇者フレアだ。彼女はその親しみやすい人柄もあって、晩餐会が始まってから周囲に人垣が途切れることが無かった。でも向こうの方から会いに来てくれたみたいだ。


大勢の人を引き連れながら歩く姿は、まるで信者を従えた神官か何かに見える。彼女と話した人達は、この短い時間ですっかり彼女の虜になっているようだった。


「初めましてルビアス様。私はリュミエールの勇者フレア。お目にかかれて光栄です」
「初めまして。私はボルドール王国の勇者ルビアス。こちらこそ聖女と名高いフレア様とお話しできる機会に恵まれ、感激しております」


がっちりと握手を交わすルビアスとフレア。それにしても――聖女? 彼女はそんな呼ばれ方をしていたのか。まぁ、自然と人を魅了するカリスマ性に、親しみを感じる笑顔。体から自然と発している神聖さに加え、俺の背後をとるほどの実力者ときたら、聖女呼ばわりも当然かなと思える。俺もスーフォアの街の一部でそんな呼ばれ方をしているようだけど、中身がこれだけから聖女とはほど遠いしな。


ルビアスといくつか言葉を交わした後、フレアは俺に視線を移してニコリと微笑んだ。


「昼間はどうも。まだお名前を聞いていませんでしたね。改めて名乗らせていただきます。私はフレアです」
「ラピスです。先ほどはろくに挨拶も出来ず、失礼しました」


彼女の差し出された手を握ると、ほんのりと暖かい体温が伝わってきた。しかも剣を持って戦う割には手が柔らかい。剣ダコの一つもない事から、彼女の戦い方を何となく推測することが出来た。たぶん彼女は魔力を全身に巡らせて戦うタイプのはず。ある程度の魔力を持っていればカリンのように全身を強化させながら戦うことが出来るので、やりようによっては自分の力を何倍にも膨れ上がらせることが可能だ。リュミエールの神官も兼ねているなら魔力も多いはずだろうし、この考えでほぼ間違いないと思う。


「貴女がラピスさんでしたか。お噂はかねがね」
「あまり良い噂じゃないと思いますけど、例えばどんな話を聞いていますか?」


話の種にそう質問してみた。他国に広がる俺の噂――興味深くあるけど、聞くのがほんの少し怖い気もする。でも放っておいたら夜も眠れなくなるし、今聞いて精神の均衡を保つ方を優先させよう。フレアは少し首をかしげて思い出すような素振りを見せた後、少し言いにくそうにしながら話してくれた。


「そうですねぇ……。まずは、剣に頼らず、格闘技だけであらゆる敵を倒すとか……」


嘘だな。そんな噂ならフレアが言いにくそうにする必要が無い。たぶん彼女は俺に気を遣って、ソフトな表現に言い換えてくれているんだ。


「……本当はどんな風に言われてるんですか?」
「え? ええと……剣も使えない熊のような大女で、下手に逆らえば両手で口を引き裂かれるとか……」


やっぱりか。ガクリと膝の力が抜けそうになったのを必死で堪える。熊のようなって……。確かに素手で戦ったことはあるけど、俺の何処を見たらそんな評価に繋がるんだ? どっからみてもただの美少女だろう!


「他には……?」
「気分次第で魔法を放ち、既にいくつかの村や街を焼き尽くしたことがあるとか……。そんな事してませんよね?」
「あるわけないでしょう! 完全に嘘ですよ! 風評被害もいいとこだ!」
「で、ですよね。私も変だなぁと思ってたんです。きっと貴女の活躍を妬んだ人が、悪い噂を振りまいていたんでしょう」


怖いな。人の噂って本当に怖い。本人の知らないところで、やってもいない事実が積み上げられていってる。こんなんじゃ下手に他国とか行けなくなるぞ。


「でも、数は少ないけど良い噂もあるんですよ? 街を救った英雄だとか、傷ついた人を癒やす慈悲深い人だとか」
「そ、そうですか」


慰めるように言われても、生返事しか返せない。俺としてはそっちの噂が広まってほしかった。今更悔やんでも仕方ないけど。


「ラピスさん。そんな噂が広がっているからと言って、リュミエールを悪く思わないでくださいね。住んでる人達は良い人ばかりですから」
「ええ、わかっています。今のでリュミエールに悪い印象を持ったりしませんよ。安心してください」
「良かった。ではそろそろ失礼しますけど、お昼に約束したお茶の話、忘れないでくださいね」


そう言えば、昼間顔を合わせた時にお茶をするって約束してたな。ただの社交辞令だと思ってたのに、彼女は本気だったらしい。


「もちろんです。声をかけてくだされば、いつでもご一緒しますよ」
「はい、ではその時はこちらから声をかけさせていただきますね」


手を振りながら去って行くフレアのパーティー。それを見送る俺は、なんだかドッと疲れていた。


「大丈夫ラピスちゃん?」
「うん。平気。精神的に疲れただけだから」


この晩餐会に参加した勇者達にも一通り挨拶を済ませたし、これでようやく終わりだと肩の力を抜きかけたその時、俺は突然感じた殺気に反応して後ろを振り向いた。


「お前は――」
「久しぶりだな。勇者ルビアスは初対面だが、それ以外は俺のことを覚えているだろう?」


誰かと思えばレブル帝国の勇者だ。奴め、どう言うつもりか知らないが、殺気を隠そうともせずに俺達を――正確には俺、カリン、シエルの三人を睨み付けている。まさかこんな場所で一戦やらかそうと言うんじゃ無いだろうな? やるなら受けて立つつもりだけど、まずは嫌味の一つでも言ってやらなければ。俺の変な噂が広がった原因の一つに、確実にコイツの存在が関係しているだろうから。


「もちろん覚えてるよ。氷柱の勇者だろ?」
「なっ!? きっ……貴様……!」


俺の言葉に一瞬で茹で蛸のように赤くなった勇者。こんな安い挑発に引っかかるなんて、頭に血が上りやすいのは相変わらずか。さっき大人しかったのは、単純に皇帝が側に居たからに違いない。思わず腰の剣に手を伸ばそうとした勇者は、流石にここじゃマズいと思ったのか、唇を噛みしめながら悔しそうに手を離した。


「……ここでは勘弁してやる。人の目があるからな。だか明後日行われる模擬戦では必ず叩きのめしてやる。以前の俺達と同じと思うなよ? 貴様等に卑怯な真似でやられた後、死ぬような努力を繰り返してきた力、見せつけてやるからな」


そんな脅しを受けたところでなんとも思わない。しかしコイツ、今聞き捨てならない事を言ったな。確か明後日の模擬戦はこの国の騎士達の戦いを観戦するだけのはず。何で俺達まで参加する流れになってるんだ? そんな疑問を口にすると、勇者はムカつく笑みを浮かべながらこう言った。


「そんなものは建前に決まっているだろうが。頭の悪い奴め。勇者である俺が公然と模擬戦を申し込んでお前達が断った場合、ボルドール王国がどんな目で見られるか考えて見ろ。受けざるを得んぞ」


腹が立つ事実だけど、言われてみれば確かにそうだった。油断した。少し迂闊だったな。国の看板を背負っているルビアスにとって、試合を申し込まれて断る選択肢は無い。たとえ俺が断っても、彼女は一人で戦うはずだ。そうなれば彼女の護衛でもある俺は自動的に参戦することになってしまう。俺が悔しそうにしたことで少しは気が晴れたのか、勇者は勝ち誇ったように嗤った。


「二日後を楽しみにしておけ。生きているのが嫌になるぐらいの大恥をかかせてやる」
「大丈夫じゃ無いか? 俺なら自殺ものの恥をかいてるお前がピンピンしてるんだ。恥をかいたぐらいで死んだりしないって」
「き、貴様……! くそっ! 覚えてろよ……!」


吐き捨てるように言って勇者はこの場を後にした。それと同時に、晩餐会にも終わりの時間が訪れたようだ。皇帝が晩餐会の終わりを宣言し、人々が三々五々に広間を後にしていく。俺もそんな人波に紛れながら、面倒な事になったと頭をかいていた。



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