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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第30話 晩餐会 その1

「ラピス殿。勝手に動き回られては困ります。こちらにも段取りというものがあるんですよ」
「申し訳ありません。以後、注意します」


部屋を抜け出したことで、ただでさえ仏頂面のスーパーホークが、更に深い皺を顔に刻むことになってしまった。彼には悪いと思うけど、やっぱり一番大事なのは自分と仲間の安全だから仕方が無い。スーパーホークに連れられて控え室に戻った俺だけど、急かされるように謁見の間へ赴くことになった。どうも俺の居ない間に謁見の時間が迫っていたみたいだ。皇帝の機嫌を損ねても面倒なので、スーパーホークを先頭にした俺達パーティーは全員が駆け足で急いでいる。さっき偵察した三階は完全に皇帝一家のプライベートな空間のようで、謁見は二階で行われるみたいだ。


「ここから先が謁見の間です。名前が呼ばれた後扉が開きますので、ルビアス様を先頭にして入室してください。私が案内できるのはここまでです」
「承知した」


仲間達の様子を窺うと、カリンとシエルはかなり緊張しているのか、多少顔が引きつり気味だ。皇帝――と言うより、国のトップと面会する機会が皆無だった彼女達には、緊張するなと言う方が無理だろう。ルビアスは流石に王女だけあって落ち着いている。体の硬くなった二人を解すように、その肩を揉む余裕があった。


「ボルドール王国、勇者ルビアス殿とその従者。入室します」


中から声が聞こえた。呼び出しと言うより報告のように聞こえたけど、細かいことには目をつむろう。ゆっくりと音も無く開けられる両開きの扉はボルドール王国の時を思い出させるけど、こちらには飾り気が全くない。重い音を立てて止まった扉の先には、左右に多くの人が壁を作るように立っている。ボルドールの勇者がどんな人間なのか、一目見ようとしているんだろう。


人々の視線が集中する中、ルビアスは堂々と胸を張って一歩を踏み出した。それに釣られるようにカリンが続き、シエルと俺も後に続く。剣こそ交わしていないものの、これは一種の戦い。外交という名の戦場なのだから、ルビアスが気合いを入れているのがよくわかった。彼女は皇帝を真っ直ぐ見据えて玉座まである程度近づくと、その場に片膝をつく。四人共が同じ姿勢だ。


「ようこそ、ルビアス殿とその従者の方々。歓迎しよう。余がこのレブル帝国皇帝、レブル五世だ」


皇帝を名乗った男は若く。まだ四十になったばかりに見える。黒を基調とした礼服を身に纏い、燃えるような赤い髪と、他者を威圧するような力強い目が特徴的な男だ。世襲で今の地位に就いた割には、随分覇気に満ちた人物のようだった。


「ご尊顔を拝し奉り、恐悦至極にございます、陛下。私の名はルビアス。ボルドール王国第三王女であり、勇者を名乗る者でもあります。こちらは我が従者である、カリン、シエル、ラピスです」


事前の打ち合わせ通り、ルビアスは俺達三人を従者として扱っている。普段はともかく、公の場所では立場をハッキリさせておかなければ、ルビアスが――引いてはボルドール王国そのものが侮られる事になってしまうので、それを避けるための処置だった。今回の謁見で話すのは代表者のルビアスだけで、俺達三人はただ頭を下げていればいい。そんな俺達を見定めるように、皇帝は一人一人じっくりと観察してくる。視線がルビアス、カリン、シエルと来て、最後に俺を見た時、少し皇帝が笑ったような気配がした。


「……うむ。皆、素晴らしい力量を持った一流の戦士達のようだ。ところで、ラピス殿は剣も魔法も使えると聞いているが、本職は僧侶なのか?」
「彼女はどの武器でも使いこなせる器用さを持ち、強力な魔法をいくつも使いこなしますが、本来は僧侶なのです」
「ふむ……僧侶……ね」


信じていないのは明白だけど、ただの挨拶でこれ以上突っ込んだ質問は憚られたのか、皇帝がそれ以上俺に対して疑問を口にすることは無かった。問題と言えばその程度で、二言三言ルビアスと皇帝が当たり障りの無い会話を交わして謁見は終了だ。控え室に戻った後は凝り固まった体を解すためか、カリンやシエルは柔軟体操を繰り返している。俺も色々突っ込まれたらどうしようと思っていただけに、ホッと一息つける。


「それにしても……ラピスちゃんが僧侶って」
「無理があるよね~」
「パーティーの中で一番腕の立つ後衛ですからね」


可笑しくてしょうがないと言うように三人は笑う。自分でもどうかと思っているだけに、反論どころか苦笑しか浮かばない。


「ところでこの後の予定はどうなってるんだっけ?」


ベッドに腰掛けて靴を脱ぎながらシエルに訪ねると、彼女はテーブルにあった予定表に目を通しながら答えてくれる。


「今晩は歓迎会――と言う名の晩餐会があるみたいだから、街に出るのは許可されないみたい。それで明日は国民に対するお披露目で、その次の日が模擬戦。最後に自由時間だって」
「お披露目とか自由時間はともかくとして、模擬戦て何? まさか俺達が戦うの?」
「いえ、違うみたい。戦うのはこの国の騎士や兵士で、招待された私達はそれを見てるだけのようね。退屈だろうけど自分でやらなくて良いだけ楽よね」


思わず胸をなで下ろす。ああ良かった。まさかこんな遠い国に来てまで見世物にされるのはご免だからな。他の勇者の力が見られないのは残念だけど、別に彼等と敵対しているわけでも無いし、妙な事になるくらいなら観戦だけしておけば良いさ。


「それにしても、私達が到着してすぐに歓迎会って、ひょっとして一つの国ごとにやるつもりなのかな?」


首をかしげるカリンにルビアスが答える。


「いえ、それはないでしょう。このような催しは頻繁に行うものではありませんから、普通は一度で済ませるはずです。予想ですが、他の国の勇者達は既に到着しているのではないでしょうか? 最後だった我々が到着したから、晩餐会も今日になったのだと思いますよ」
「そうなの? じゃあ他の国の勇者には会えるんだね。レブル帝国の勇者だけじゃないなら安心かな」


カリンはレブル帝国の勇者とひと悶着あったからな。出来るだけ顔を合わせたくないという気持ちはわかる。俺は少し会ってみたい気もする。あれだけキツいお仕置きを喰らった奴等が今はどんな顔をして俺と話すのか、興味深かった。


§ § §


晩餐会は立食式だ。かなり大きな広間の中にいくつかテーブルを置き、並べられた料理や酒を参加者が好きなだけ食べて良い。と言っても毒殺などの暗殺対策もあって直接手に取らず、最終的には係の人に言って取り分けてもらう形だけど。


やはりと言うか、ルビアスの予想したとおり、各国の勇者は既に到着していたみたいだ。壇上に上がった各国の勇者が皇帝によって紹介されていく。最初に現れたのはリュミエールの勇者フレア。彼女は俺と出会った時同様に和やかな笑みを浮かべ、人々に愛嬌を振りまいている。フレアの従者は彼女と似たような装備に身を包んだ五人組で、男が二人に女が三人だった。つまり六人パーティーと言う事になる。人数的には多くも無く少なくも無くと言ったところか。全員が神官だとしたら、誰が負傷してもたちどころに傷を癒やしてしまう回復特化なパーティーに違いない。


次に現れたのは海運の国バリオスから現れた勇者バンディットだ。漁業が盛んな国だけあって、バリオスの子供達は小さい頃から川や海で漁師の真似事をしているためか、全体的に日焼けしている者が多い。勇者であるバンディットもその従者も、健康的に日焼けした肌を惜しげも無く晒していた。彼等の礼服は半袖で、使っている布地も他の国より少なく、シンプルなデザインだ。彼等の格好を見てあからさまに見下した目を向けるレブルの貴族が何人かいるが、俺はスッキリしていて羨ましいとさえ思えた。ボルドールもあれぐらい楽な格好なら良いのに。


彼等の後に現れたのは、リザードマンの国ベルシスから現れた勇者アネーロだ。光の反射具合によっては金色にも輝いて見える黄色い鱗と、二メートル以上ある長身。そして丸太のように太い尻尾。盛り上がった二の腕から繰り出される一撃は、軽々敵を粉砕すると疑いようが無い。そんな彼と比べると多少劣るものの、一回り小さな体格の従者が二人従っている。リザードマンである彼等はそれが正装なのか、肩から腰にかけて守るお揃いの鎧を身に着けていた。ちなみに下は裸足だ。皮膚が分厚いから靴が必要ないんだろう。


その次に紹介されたのが俺達四人。全員若い女と言う事で侮られているのか、好色そうになめ回すような視線を向けてくる輩や、見下した態度を隠そうともしない輩が沢山居て、開始早々嫌な気分にさせられた。でも流石にルビアスは王女だけあって、そんな視線はまるで視界に入らないとでも言うように、フレア顔負けの笑顔を振りまいている。こう言う部分は俺達三人じゃ敵わないな。大したものだ。


そして最後に現れたのがレブル帝国の勇者達だ。以前はいかにもチンピラ丸出しの態度だったのに、すっかり大人しくなっている。皇帝の紹介にもちゃんとした礼儀で答えていたし、従者達も似たようなものだ。今の様子だけ見たら礼儀正しく、品行方正で、勇者を名乗るのにふさわしい人物に思えるけど――


「ひょっとして反省して心を入れ替えたとか?」
「まさか」
「ないない。腐った奴は死ぬまで腐ってるわよ」


カリンとシエルが辛辣だ。殺し合い寸前までいった彼女達だけあって、勇者達の変わりようが信用出来ないのだろう。まぁ、俺も概ね同意見だ。その理由は奴等の目。暗い炎を内に秘めた、復讐に燃える濁った目が原因だ。ねっとりと絡みつくようなその視線が、絶えず俺達に向けられていたからだ。


晩餐会の開始が告げられると参加者が一斉に動き出して、それぞれが目的の場所へと急ぐ。大体の行く先が各国の勇者か皇帝の周囲だ。勇者達に近づくのは彼等の人となりを観察するためと、力量を把握するため。皇帝の下へ行った連中は、単なるゴマすりだろう。


「ルビアス様、我が国の料理は如何ですかな?」
「その装備はミスリル製ですか? 流石大国であるボルドール王国の勇者。装備も一流ですな」
「美しい方ばかりでボルドール王国が羨ましい。しかし勇者としての力はどれほどのものか……」
「そんな細腕で我が国の勇者を破ったとは、とても信じられませんな」


群がってくる連中は身分を問わず大勢居て、褒めるの半分、貶すの半分と言ったところだ。そんな彼等に作り笑顔で愛嬌を振りきながらしばらく経った頃、俺達の下に一人の男が現れた。


「よう! あんたがボルドール王国の勇者だな。お初にお目にかかる。俺はバリオスの勇者バンディットだ。よろしく頼むぜ」
「……こちらこそよろしく。私はルビアスだ」


暑苦しいと言うか何と言うか、バンディットは押しの強い男のようで、周囲の人混みを強引にかき分けて現れた。彼の従者は二人の女性のみ。似たような顔なので姉妹なのかも知れない。健康的で魅力的な美人だけど、気の強そうな二人だ。挨拶もそこそこに、バンディットはこのお堅い雰囲気の晩餐会がお気に召さないのか、ルビアスに対して色々と愚痴を吐いている。最初は緊張気味だったルビアスも、話す内に打ち解けていき、次第に笑顔を見せるようになっていた。会って間もない相手にここまで打ち解けられるのは、バンディットの人柄のおかげだろう。


「ラピス殿……でしたね。初めまして。私はバンディットの従者をしているアヴェニスです。こちらは妹のエプシロン」
「これはご丁寧に。ラピスです」


差し出された手を握り返したその瞬間――アヴェニスの手に力がこもり、こちらの関節を決められそうになったけど、手首から先に力を入れてそれを防いだ。不発に終わった奇襲にアヴェニスが驚く暇も与えず、逆に俺は彼女の手首を極める。


「くっ!?」
「姉さん!?」


痛みのあまりその場に跪くアヴェニス。格好だけ見れば、アヴェニスが俺に跪いて握手を求めているようにも見えるだろうけど、実際はそんな生やさしい状況じゃ無い。悲鳴こそ上げないものの彼女の顔には脂汗が浮き出ているし、何とか逃れようと力の込められた二の腕はパンパンに張っている。このまま極め続けてへし折るわけにも行かないので、そろそろ勘弁してやるかと思ったその時、意外なところから助け船が来た。


「ラピス殿、その辺で勘弁してやっちゃくれねえか? 俺の妹は強い奴を見るとちょっかいを出さないと気が済まない性分でな。悪い癖だと思ってるんだが、何度言っても治りゃしない。失礼はこの通り詫びる」
「そう言う事なら……」


俺が手を離した瞬間、アヴェニスは飛び退いて手首をさすり始めた。余程痛かったのか、綺麗な眉が歪んだままだ。


「つう……。噂には聞いていましたけど、まさかここまでとは思いませんでした。完璧なタイミングの奇襲だったんですけどね」
「姉さん、何を考えているんですか!」
「だって、こんなに強そうな人を目の前にしたら、自分の力がどこまで通用するのか試さずにはいられないでしょう?」
「だからってこんな場所で……。ああ、もう。ラピス殿。私からもお詫びします。姉が失礼しました」
「いえ、お気になさらず。別に気にしてませんから」


彼女達から悪意は全く感じられない。これでこっちに害を与えるつもりなら容赦しなかったけど、要するに彼女は戦闘狂なのだ。三度の飯より戦うことが好きな変態さん。俺が現役の時にも少なからずこう言った連中はいた。時代が変わっても、この手の連中が消えることは無いらしい。ただ、彼等には共通して悪気が無い。純粋に力試しがしたいだけだから、俺も怒る気にならなかった。


「お詫びと言っちゃなんだが、ルビアス殿達を一度俺達の国に招待したいな。家は美味い魚と酒が自慢の国でね。生で食べる魚は独特の風味と食感が楽しめる珍味だぜ」
「考えておこう。そちらこそボルドールに来た時は是非私を訪ねてくれ。歓迎すると約束しよう」
「期待しとくぜ。名残惜しいが他にも挨拶回りがあるからな。この辺で失礼するぜ。二人とも、行くぞ」


この短時間でルビアスとバンディットはすっかり友達になったみたいだ。お互い勇者という会う機会は少ない関係だけど、ルビアスに新しい友達が出来たのは良かったな。

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