勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第27話 密偵

――影 視点


私は影。本名など随分前に捨てて、ただ影とだけ呼ばれている密偵だ。ルビアス様が城を出ることになったため、王から直々にルビアス様の警護と情報収集を行うように命じられている。彼女はほとんど身一つで城から出たと思っているようだが、仮にも王族が、そんな自由でいられるはずがない。当然俺のような監視はつけられている。あと何人か俺のような者が居るので、二十四時間ずっとだ。


ルビアス様がスーフォアの街に着いてから、しばらく彼女の生活を観察していた。と言っても、訓練所と城を往復し、何も用事が無い時は自主練だけという単調なものだから、監視するこちらとしては楽なものだが。


そう、その訓練所での訓練内容だが、あれは私が想像していたものより遙かに厳しい内容だった。過酷な環境に生徒を置き、体力や気力を限界まで追い詰める。倒れても魔法で無理矢理癒やし、逃げ出すことさえ許さない。精鋭と言われる王都の騎士団でもあそこまで厳しくはないだろう。


ルビアス様が初訓練の時、高重力下でゴーレムの一撃をまともに食らった時は、生きた心地がしなかった。ラピス嬢の噂を聞いていはいたが、まさか王女相手に大怪我をさせるとは思っていなかったのだ。そんな私の常識を木っ端微塵に打ち砕くように、ゴーレムの拳はルビアス様の骨や歯ごとぶっ飛ばしてしまった。


思わず飛び出そうとした私は、次の瞬間体が凍り付いたように動けなくなった。殺気だ。上空から訓練所全体を監視して、こちらには気がついていないはずのラピス嬢から、殺気の籠もった視線を向けられたのだ。


いつから気がついていた――? いや、あれはきっと、最初から我々の存在に気がついていたんだろう。その上で、何者かを理解した上で監視することを許し、手を出さないように釘を刺したのだろう。


影から王女を守る任務を与えられているだけに、私も腕には自信がある。しかし彼女に睨み付けられただけで理解出来た。あれは根本的に何か違う。まともな人間がいくら努力しようとも、どうにもならない存在なのだと。恐怖を感じたのもあるが、彼女がルビアス様に害意を持っていないのもわかったので、それ以後、私達密偵が訓練中に手を出すような事はなくなった。


そうやって日々努力を重ね、ルビアス様は目に見えて強くなっていく。話に聞いただけなら、どうやったら短期間で生徒を強く出来るのか疑問だったのだが、こんな過酷な状況なら嫌でも強くならざるを得ないだろう。弱いままだと死が待っているのだから。


ある日、そんなルビアス様がラピス嬢から冒険者の依頼を一つ、任されたようだった。最近この街の周囲で被害を出している盗賊、それを他の冒険者と一緒に討伐してこいと言うのだ。同行する冒険者は二人。どちらもラピス嬢の愛弟子と言ってもいい、彼女の同居人達だ。わずか二人でレブル帝国の勇者達を倒した彼女達が一緒なら、たとえラピス嬢が同行していなくても、ルビアス様は無事に帰れるだろう。


しかしここで一つの問題が発生した。シエルと言う名の魔法使い、彼女はラピス嬢の弟子だけあって、なんと飛行魔法が使えるらしい。我々密偵の足は速いが、いくらなんでも空飛ぶ相手に追いつけるほどじゃない。どうやって後をつけたら良いのか頭を悩ませていたところ、問題があっさり解決した。どうもルビアス様達は空を飛ばず、歩きで移動するらしい。メイドのセピア経由でもたらされた情報だから間違いは無いはずだ。


なんでも、一般的な冒険者としての経験を積ませると言う理由で歩きらしいが、私はそれだけが理由ではないと判断した。ラピス嬢の事だから、我々密偵が追いつきやすいように歩きにしてくれたのではないだろうか? 彼女ならこちらが何も言わなくても、それぐらいの気遣いはしてくれそうだ。


ルビアス様達が街を出てから数日が経つと、ようやく目的の森が見えてきた。ルビアス様と冒険者の二人は上手くやっているようで、談笑などして特に問題も無い様子だった。地図で確認してみると目的の森は意外と大きく、大きな街程度ならスッポリと入ってしまいそうな規模だ。ここに盗賊団が潜んでいるとしたら、見つけるのに随分苦労するだろう。


どうやって見つけるつもりかと思っていたら、シエルという名の魔法使いが何かの魔法を唱え始めた。するとしばらくしてから、彼女を中心に一瞬だけ魔力が膨れ上がったような感覚の後、何かが体を突き抜けていった。一体何が起きたのか確認する暇など無かった。なぜなら、今さっき目の前で談笑していた三人の内一人――冒険者のカリンが、剣を抜いてこちらに迫っていたからだ。


「――!」


声を上げる無様は晒さないが、内心驚愕を禁じ得なかった。咄嗟に身を翻した私の背後から足音が迫る。なぜ感づかれた!? 気配は完全に断っていたはずなのに! 木々の間を迷い無く進んでくることから考えて、何らかの方法でこっちの位置を把握したとしか思えない。影となって護衛する私がルビアス様の前に姿を晒す訳にはいかない。なんとか逃げ切って――!?


「動くな!」


いつの間に回り込んだのか、カリンが正面で剣を構えている。咄嗟に脇を抜けて逃げだそうとしたものの、そんな隙は全く見当たらない。ラピス嬢ほどではないにしても、この女も十分強い。少なくとも私の歯が立つ相手じゃないようだ。彼女はこちらが何者か解っていない。下手をすると盗賊の仲間と判断されて殺される危険性がある。私は慌てて両手を武器から離し、敵意のないことを表した。そんな彼女が油断なくこちらを見つめている間に、背後から二人分の足音が近づいてくる。どうやらルビアス様とシエルの二人が追いついてきたらしい。まったく、こんな失態を犯すとは……。


§ § §


「つまりお前は、私の護衛であり、セピアとも連絡を取り合っていたと言うわけだな?」
「さようです殿下。殿下が城を出たその瞬間からずっと、影ながら殿下をお守りしておりました」
「…………」


ルビアス様の表情が曇る。当然だ。彼女は完全に自立した生活を目指して王城を後にしたのだから、護衛兼監視されていたことが解って面白いはずがない。カリンとシエルの二人は、そんなルビアス様を心配そうに見ている。


「……お前以外にもまだ何人か居るのか?」
「はい。詳細な人数は申し上げられませんが、複数人とだけ」


ルビアス様がふいに目線をシエルに向けると、彼女は首を左右に振る。


「私の探知魔法の範囲じゃ彼以外確認できなかったわ。範囲外に潜んでいるのか、ここに来ていないのかのどちらかね」


探知魔法!? なんだそれは。聞いたことも無いぞ! 名称から察するに、周囲にいる人間の居場所を探るものだとは思うが……。まさか、ラピス嬢の弟子になれば、そんな魔法すら使えるようになるのか!? それではどこに身を隠そうが、全く意味が無くなってしまう。密偵の商売あがったりだ! そんな私の驚きを余所に、ルビアス様は何事かを考え込んでいたようだ。


「今更追い返すわけにもいかんな。お前も父上に報告する義務があるだろうし……。よし、お前、このまま私達についてこい」
「!?」
「隠れてこそこそされるのは性に合わん。ならいっその事同行していた方がマシだ。お二人はどう思いますか?」
「私は構わないよ。ルビアスちゃんに敵意がないなら問題ないし」
「私も。彼が援護してくれるなら楽になると思うしね」


ありがたい事にルビアス様は私の同行を許してくれた。もう居場所がバレてしまった身としては、開き直って護衛を務められる分状況が好転したと考えるべきだろう。それにしてもこの二人……いくらルビアス様から気安くするように言われたとは言え、ちゃん付けで名前を呼ぶとは……。恐れを知らぬと言うか、豪胆というか。私にはとても真似できそうにないな。


§ § §


私を仲間に加えた一行は森の中を迷い無く進んでいく。これもさっきシエルの話していた探知魔法の恩恵なんだろうが、これは一般の冒険者からみて普通ではないと思う。一応今回の旅はルビアス様に一般的な冒険者としての経験を積ませるもののはずだったんだが、その辺二人はどう考えているのだろうか?


「言っておくけど、本当ならこんなに簡単じゃないわよ。普通のパーティーなら、まず斥候役の一人が周囲を調べながら慎重に進んでいくの。長い時間をかけて少しずつね。そして敵の見張りを見つけたら一人を残して全滅させる。その後はそいつに案内させるか、口を割らせるかして、ようやく敵の本拠地に到着するのよ」
「なるほど。それで、口を割らせるというのは具体的にどう言う……?」
「殴ったり蹴ったり? 魔法で口を割らせる方法もあるみたいだけど、シエルは出来ないって。ラピスちゃんなら知ってるかもね」
「おお! 師匠は流石ですな!」


三人の少女が和やかに拷問について語り合っているその様を見ながら、私はルビアス様の将来が心配になった。このまま彼女をラピス嬢の下に置いて大丈夫なんだろうか? 何か良からぬ知識を頭に詰め込んで、王を卒倒させるような事態にならないだろうかと、不安になっていた。


「そろそろね。ここからは慎重にいきましょう」


突然立ち止まったシエル。どうやら彼女が探知した敵が近くに居るらしい。


「先に手順を確認しておくわ。話せない距離にいる場合のやり取りは全て手で行うわよ? まず進めはこう。止まれがこれ。敵の数は指を立てて、五人から先は指を折りたたむ。攻撃開始の合図はこれで、戻って来いがこれ」


実際に手を変化させながら次々と合図を出すシエル。ルビアス様は自分でやってみながら、覚えようと必死になっている。


「そんなに焦らなくても良いから慎重にね。じゃあいくわよ」


シエルの号令と共にパーティーは前に進み始める。隊列はカリン、ルビアス様、シエル、私の順番だ。カリンはなるべく音を立てないように一歩ずつ確実に進んでいく。彼女は通りにくそうな場所では草木を切り払い、後続が歩きやすいようにしている。こう言った行為は慣れっこなのだろう。


やがて私達の前には一つの小屋が姿を現した。中からは人の気配が感じられる。あれが盗賊団の見張り小屋なんだろうか? しかし見張り小屋という割には誰も外に出ていない。ひょっとして盗賊団ではなく、木こりの休憩小屋か何かではないのか? 私と同じ疑問を感じたのか、カリンは一つ頷くと、慎重な足取りで小屋に近づいていった。壁に耳を当てて音を確認し、ドアの付近で罠を確認する。そして彼女は行きと同様、慎重に素早くこちらに戻ってきた。


「……寝てる。中は盗賊が三人」
「私が周囲の警戒。カリン達三人は入り口から入って、一気に奴等を片付けて」
「わ、わかった」


カリンが剣を抜き、同時にシエルが杖を構えた。ルビアス様は少し緊張した様子で剣を構え、カリンのすぐ後ろにつく。私は二人とシエル、どちらも援護できるようにその中間だ。カリンがドアノブに手をかけてゆっくりとドアを開いていく。驚くべき事に、鍵の一つもかけられていないようだ。物音を立てず、呼吸さえ抑えめにして小屋の中に入ると、そこにはいびきをかきながら眠る男女三人の盗賊の姿があった。


素早く駆け寄りカリンが剣を振り下ろす。と言っても斬り殺したわけではない。剣の腹で盗賊達を殴りつけ、行動できなくしたのだ。寝ていた三人の内二人は一瞬目が覚めたようだが、頭にコブを作って再び意識を失った。残る一人は何が起こったのか解らぬうちに、カリンに拘束されて終わりだ。


「な、なんだてめえ等は! 何しやがるんだ!」
「黙りなさい。こっちの質問に答えるなら命は取らないであげるわ。お前の仲間は何人居るの? 本拠地の場所は? 見張りの数は?」
「言うわけ無いだろうが! 仲間を売るような真似――がっ!?」


容赦なく殴りつけたカリンの一撃に、強気な台詞を吐き続ける盗賊の口の動きが止まった。尋問は素人だろうに、なかなかの手際だ。カリンが質問を続ける間に、私達は気絶した盗賊達を拘束して身動き取れないようにしていく。隠し武器の類いを警戒して、下着以外は全て剥ぎ取り、体の力が入らないよう海老反りにしたまま固定する。それを近くの木に縛り付けるのだ。


「カリン、何か解った?」
「うん。敵は残り十人ぐらい。誰も誘拐はしてないって。それにこっちの二人。ラピスちゃんが言ってた詐欺師の二人組みたい」


盗賊はカリンの足下で気絶している。どうやら全ての情報を吐かせたらしい。それに詐欺師というのは、街で金をだまし取った二人組の事だろう。


「カリンさん。人質と言うのは?」


今回の依頼書に明記されていなかった人質の存在に、ルビアス様は首をかしげている。無理もない。彼女は盗賊団を金や物を盗む集団と認識しているようだからな。そんな彼女に、カリンが言いにくそうに説明してくれた。


「えっとね、盗賊団って言うのは人からお金や物を奪い取るだけじゃなくて、人そのものを誘拐する場合があるの。身の代金目的だとか慰み者にするだとか理由は色々あるみたいだけど、今回みたいな依頼の場合、奴等ごとそんな人達を殺さないように注意しないといけないのよ」
「そんな事が……私の認識不足でした。まさかそこまで外道な集団とは……」


ルビアス様は怒りに震えている。まるで今にも拘束した盗賊達に斬りかかりそうな雰囲気だ。


「落ち着いてルビアス。今ここで殺さなくても、コイツらは遠くないうちに死刑になるわ。この国じゃ盗賊は縛り首――王族のあなたが知らないはず無いでしょ?」
「そう……ですね。失礼しました。先を急ぎましょう」


カリンが盗賊から聞き出した情報によると、奴等の本拠地はここからすぐの距離にあるらしい。見張り小屋から本拠地までの距離が遠ければ見張りの意味が無いだろうから、それ自体は当然だろう。そして敵の本拠地は岩で出来た洞窟の奥にあるらしい。洞窟自体は一本道なので、迷うことはないとの情報だが、どこまで信じられたものか。


やがて盗賊の情報通り、奴等の本拠地が見えてきた。洞窟の出入り口には二人の盗賊が座り込み、欠伸をかみ殺している。まるでやる気の感じられない見張りだが、私達にとっては幸運だった。


「さて、さっきの盗賊が本当の事を言ってる保証なんて無いしね。ここは安全策をとろうか」
「と、言うと?」
「もちろん火攻めよ」


ルビアス様の疑問に答えたのはシエルだ。彼女は盗賊団の本拠地を火攻めにするつもりらしい。彼女達の作戦はこうだ。まずカリンとルビアス様が二手に分かれ、それぞれが入り口近くに貼り付く。そしてシエルが遠距離からの魔法で二人の見張りを始末し、入り口近くに火球を打ち込む。ここで重要なのは入り口近く――であって、洞窟の中ではない。洞窟の中に火球を打ち込んだりしたら、最悪人質などが死ぬ可能性があるからだ。それらの確認を取れないうちに無茶は出来ない。そして洞窟の入り口に火の手が上がれば、当然盗賊達は慌てて飛び出してくる。そこを左右から挟み撃ちにしようと言うのだ。


「ルビアスは初の実戦だから、あなたはルビアスの補助について。全員の準備ができ次第、私が攻撃を始めるわ」
「わかった。ルビアス様、行きましょう」
「あ、ああ」


流石に緊張しているようだ。息を殺して配置についた彼女は、さっきからしきりに手を握ったり広げたりと忙しい。いかんな。このままではまともに戦えるかどうか。


「ルビアス様」
「な、なんだ?」
「訓練通りやればなんの問題もありません。ルビアス様は盗賊など足下にも及ばない実力を身につけていますから。私から言える助言はただ一つ。躊躇するな――です」
「躊躇……」
「躊躇すれば自分だけでなく味方の命も危険にさらします。自分や味方を助けるために敵は殺す。そうシンプルに考えてください。そうすれば戦えます」
「……わかった。助言、感謝する」


少し、ほんの少しだけ緊張が解けたようだ。私はそれを確認した後、シエルに向かって手で合図を送った。すると次の瞬間、彼女の隠れている茂みの奥から二つの氷の矢が飛んできて、狙い違わず盗賊達の頭部に突き刺さった。ゆっくりと崩れ落ちる盗賊達。間髪入れず飛来した火球が洞窟の入り口に着弾し、派手に火柱を上げる。


「な、なんだ!? 何が起こった!」
「火を消せ!」
「駄目だ! これじゃ丸焼きになる! 外に逃げろ!」


奥から盗賊達の荒々しい足音が聞こえてくる。私は剣を抜き、いつでも飛びかかれる準備に入った。


「行きますよ! ルビアス様!」
「ああ!」


先頭の盗賊が姿を現した瞬間、飛び出してきたカリンが素早く首を刎ね飛ばす。胴体から噴き出た血の噴水で後続の盗賊達が怯む。そこに剣を抜いた私達が襲いかかった。


「はあああ!」


ルビアス様が上段から構えた剣を一閃させると、それを見た盗賊は剣で弾こうとして失敗し、肩口から体の中央付近までをバッサリと切り裂かれた。


「てめえ!」
「よくも!」


逆上した盗賊がルビアス様に斬りかかろうとするが、瞬時に私が切って捨てる。あっという間に半数がやられて、盗賊達は戦意を喪失しているのか、背を向けて逃げ始めた。そこに再びシエルの魔法が殺到する。ほぼ真上から生み出された氷の雨は彼等の体を細かく切り裂きながら、体中に無数の傷をつけていく。いつの間に飛び上がっていたのか、シエルは地上に降りてくると、探知の魔法で周囲の様子を探り始めた。


「これで全員みたいね。洞窟の中に人の気配は無いわ」
「じゃあこれで終わりだね。ルビアス、初めての実戦はどうだった?」
「……無我夢中でした。情けないことに、今頃になって手が震えています」


返り血を拭うことさえ忘れ、ルビアス様は震える手を二人にかざしてみせる。しかし二人はそれを笑うことなく、安心させるように肩を叩いた。


「最初は誰でもそんなものよ。ルビアスは良くやった。ちゃんと敵を倒して、やるべき事をやったのよ。自信を持ちなさい」
「そうだよ。私の時よりずっと上手くやってるんだから」
「……ありがとうございます」


相手が盗賊とは言え、やはり人の命を奪う行為は精神的な負担が大きい。ここはすぐにでも休ませてあげたいところだが、状況がそれを許さなかった。カリンとシエルの二人が短剣を取りだし、絶命した盗賊達に近寄っていったからだ。


「……二人とも、何をするつもりなんですか?」


死体となった盗賊に何の用があるんだろうとルビアス様は考えているに違いない。しかし私には彼女達が何をするつもりなのか、瞬時に理解出来た。ルビアス様が何を言っているのか解らないという風に、カリンが可愛く首をかしげる。


「何って剥ぎ取りだよ? 魔物を倒せば解体して素材をとって、人間だと耳を切り取って持って帰るの」
「み、耳ですか!?」
「うん。だって証拠も無しに討伐したって言っても、ギルドは信用してくれないでしょ?」
「それはそうですが……」


ルビアス様が青くなっている。温室育ちの彼女には想像も出来ないことなんだろうが、今の彼女達の対応は冒険者だけでなく、私を含む一般的な戦闘職にあるものなら常識的なものだ。例えば戦場。名だたる敵将なら首や剣など、一目でそれとわかるものを持ち帰れば手柄と認められる。しかし名も無い兵士の首などいちいち抱えて戦っていられないので、耳を切り取って持ち帰るのだ。耳なら穴を空けて紐でつないだとしてもかさばらない。戦場での常識だった。


「ルビアスもやってみて。無理なようなら私達がやるけど」
「……いえ、私もやります。私も冒険者の端くれですから」


腰が引けた状態で、ルビアス様は短剣を片手に盗賊達の亡骸に近寄っていった。これを経験することによって、彼女も今まで以上に強くなれるだろう。しかし……やれやれ。まさか私がルビアス様とパーティーを組むことになろうとは。後で提出する報告書に何と書けば良いのやら。頭の痛い事だ。

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