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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第13話 力の差

――クリーク視点


リッチの攻撃は続いている。我々冒険者や兵士達は奴の攻撃の最中何度か反撃の機会を試みたが、その度に心を折られて、手ひどい反撃を喰らうことになった。リッチは余程我々をいたぶるのが気に入ったのか、手下の魔物共に一切手を出させず、自らの攻撃だけで我々にダメージを与え続けている。


「ぐはっ!」
「あぐっ!」


私の近くに立っていた付き合いの長い冒険者が、二人纏めて吹き飛ばされていく。地面に叩きつけられるのはこれで何度目だろうか? 荒い息を吐きながらなんとか上体だけを起こす。もはや考えることさえ億劫になってきた。リッチの奴め、ご丁寧にまだ無事な箇所を狙って、器用にこっちを攻撃してくるのだ。そのおかげで体は全身隈無く痛めつけられている。痛む体で踏ん張りながら周囲を見渡すと、もはや立っている者は一人もおらず、我々の戦闘力など皆無に等しい状況だ。後はリッチにトドメを刺されるか、生きたまま魔物共の餌にされるのかの違いでしかない。防衛作戦は事実上の失敗。後はなんとか街に残った連中が逃げてくれれば良い――そう思っていた時、突如横合いから巨大な火球が飛び込んできた。


通常の魔法使いが使う物より倍以上の大きさを誇るその火球は、我々がいたぶられる様を見て下品に嗤っていた魔物共のまん中に着弾し、凄まじい熱と炎を周囲に撒き散らした。その中には当然リッチも含まれている。


「グギャアアッ!」
「グルオオオッ!」
『むう?』


中心に居た魔物は骨も残さず燃え尽きたようだが、体に火がついた魔物は熱さに悶え、敵味方関係無く暴れ回った挙げ句に倒れ込む。そこに武器を手にした一団が切り込んでいき、魔物共は一時的な混乱に陥った。


「うりゃあああ!」
「冒険者舐めんじゃねえぞ!」


誰かと思えば先行していた足止め部隊だ。彼等は自分の任務が終わったにもかかわらず、危険を冒して我々の救出に駆けつけてくれたらしい。その気遣いに胸が熱くなる。


「みんな無事!? ギルドマスター!」
「シエル!」


私に肩を貸して立たせてくれたのはシエルだ。どうやら今の魔法は彼女が放ったらしい。一体いつの間に腕を上げたのか……。今のはアイアンランクの平均を大きく上回る威力を持った魔法だったぞ。


「なんとか死者は出ていないが、五体満足なものは一人も居ないはずだ。私のことは良い、とにかく倒れている者達を連れて、この場を離脱してくれ!」
「大丈夫よ。敵はアンデッドなんでしょ? なら今の魔法で――」
『――ふむ。なかなかの威力だが、私には傷もつけられんな』


炎の中に消えたはずのリッチは、何事も無かったかのように悠然と姿を現した。凄まじい熱量を誇る火球が直撃したはずなのに、リッチは少しも弱った様子がなく、その禍々しい姿は毛ほどの傷もついていない。自信を持って放った魔法が敵に対して何の痛痒も与えていない事実に、シエルは顔を青ざめている。


「うそ……火の属性は弱点じゃないの?」
「……奴は神官達の神聖魔法すら効果がなかった。シエル、もう一度言うぞ。みんなを連れて逃げるんだ」
『ふふふ……逃がしはせんよ。貴様等は一人残らず――む?』


こちらに攻撃を仕掛けようとしたリッチの腕が軌道を変え、自分の横に向かってなぎ払うような動きを見せた。黒い衝撃波は周囲で混乱する魔物を何匹も巻き込みながら放射状に広がっていく。しかしその波の一撃を、見事な身のこなしで躱した一人の戦士が、両手に剣を構えながらリッチに突っ込んでいく。


「カリン!」
「やああああ!」
『ぬう!?』


彼女の持つ剣が淡い光を放っている。あれは何だ? その剣を携えたカリンは、リッチを守るような動きを見せた魔物を即座に両断した。凄い! 彼女にあれほどの剣技はなかったはずだし、持っている剣も名剣や魔剣の類いではなかったはずだ。それにも関わらずあの強さ。リッチは魔法を使うのが主な戦い方だ。流石にここまで接近されてはどうしようもないはず。起死回生の奇襲攻撃で勝負あった――かに見えたが、カリンの振り下ろした剣はリッチに届かなかった。


「なっ!?」
『ふふふ……惜しかったな女』


カリンは確かにリッチの虚を突いた。シエルの魔法で湧き上がった爆炎。それを払って油断したリッチ。そこを狙い澄ましたかのように襲いかかったカリン。タイミングとしてはこれ以上ないほど完璧だったのに、あろう事か、カリンの剣はリッチがどこからともなく生み出した杖によって防がれていた。


『ふん』
「きゃあああ!」


骨だけの体のどこにそんな力があるのか、カリンはリッチが振り回した杖に弾かれて、小石のように吹き飛ばされていく。彼女を庇うためリッチの前に立ち塞がった冒険者達も、黒い衝撃波を受けて同様の運命を辿った。


「くっ! こうなったらもう一発――」
「いかん! 逃げろシエル!」
「――え? きゃあ!」


カリンが倒れた姿を見て激高したシエルが魔法を唱えようとしたが、リッチの一撃はそれすら許さず我々を打ちのめした。


我が身を省みず救出に来てくれた冒険者も、助けが来て希望の芽生えた冒険者も区別することなく地に倒れ伏している。もう駄目だ……。悔しいが、我々人間の力では、こいつに対抗する手段がない。もはや誰もが諦めきっているのか、倒れながら声も上げずにリッチを――自分に死をもたらす存在を見上げていた。


『ふふふ……。良いぞ。心地良い。命の危機から救ってもらうはずの希望が目の前でへし折れた絶望感、まさに極上の甘美よ。しかし……それもそろそろ飽きたのでな。新たな贄を求めて進ませてもらおうか』


骸骨は不気味に嗤う。いよいよとどめを刺す気だ。リッチが振り上げた杖の先に黒い光球――としか言いようのないものが灯り、それが次第に大きくなっていく。それがどんな種類の魔法なのかはわからない。しかし、今までの中で一番強力で、我々全員を確実に絶命させる威力を持っているのは疑いようがなかった。


『ではな。なかなか面白かったぞ人間共よ』


巨大な光球が迫る。死を感じた私はぎゅっと目を閉じ、次に訪れる衝撃について備えた。しかし――いつまで経っても衝撃は襲ってこない。恐る恐る目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。


「……ラピス君?」
「遅くなりました。ギルドマスター」


最近ギルドで雇ったばかりの新人、ラピス君の姿がそこにあった。後方で救護班を任されていた彼女が何故ここに? いや、それよりも、リッチが放った光球を片手で受け止めているのはどう言う事だ!? 彼女の剣の腕が私を上回ることは知っていたが、魔法の腕もずば抜けているというのか!?


『……むう? 何者だ小娘。我が術を受け止めるなど――』
「こいつの始末は俺に任せてください」


リッチの言葉を遮った彼女は、それだけ言うと手の平で受け止めていた光球を握りつぶした。我々全員を苦もなく殲滅する力を持ったリッチの攻撃が、文字通り握りつぶされたことに驚愕したのは、むしろリッチの方だったのだろう。


『なんだと? 小娘! なんだその力は!』
「……悪いけど、お前とお喋りする気分じゃないんだ。さっさと片付けさせてもらう」
『ほざけ!』


リッチの前身から黒い波動が吹き上がる。いよいよあの化け物が本気になったのか、受ける威圧感が今までの比じゃない。だと言うのに、ラピス君はまるでそよ風でも受け流すように、静かに髪を揺らしたまま動こうとしない。危険だ。いくらなんでも棒立ちのまま何とか出来る相手じゃない。まともに動かない体を引き摺って、なんとか彼女に逃げるよう手を伸ばしかけたその時、私の目の前から彼女の姿がかき消えた。


『ぬお!?』


リッチの驚く声が聞こえたかと思うと、今まで何をしても傷つけられなかったあの骸骨の姿が吹っ飛ばされているのが見えた。代わりにリッチが立っていた場所には蹴り足を振り抜いたラピス君の姿がある。リッチは地面をバウンドし、周囲に居た魔物を巻き添えにしながら転がっていく。まさか、ただの蹴りだけであれだけの威力があるのか? 先ほどまでの立場を逆転させたように、今度はリッチが地面を舐める番になった。骸骨の表情に変化などないはずなのに、奴が凄まじい怒りを秘めているのが理解出来る。


『お、おのれ! たかが人間の分際で、魔導を極めしこの我に手傷を負わせるとは! その罪万死に値する!』


激高したリッチが手に持っていた杖を地面に突き立てる。すると奴を中心にした広範囲に禍々しい魔方陣が浮かび上がり、そこから瘴気があふれ出す。黒い触手としか形容できないその物体が絶命していた魔物の死体に絡みつき、その姿をより醜悪で邪悪な形へと変貌させた。それと同時に、ただの死体が勢いよく跳ね上がる。生前とは比べものにならないような俊敏な動きで。


「アンデッド化……?」


ポツリと漏れた私の呟きに応えるように、リッチは呵々と大笑する。奴め、どうやらこの術に絶対の自信があるらしい。


「くそっ……!」


加勢したいのに体が言うことを聞かない。ラピス君だけ戦わせるわけには――!


「大丈夫です。そこで見ててください」


背中越しにこちらの気配を感じ取ったようにラピス君は静かに言い切る。そんな彼女と対照的にリッチは哄笑していた。


『クカカカカ! 復活した此奴等の力は生前の何倍にも膨れ上がっているぞ! いくら貴様が武勇を誇ろうが、これだけの数を一人で相手には出来まい! 歯がみしながら人間共が殺される様を眺めるが良い!』


一斉に動き出した魔物の死体。今まで苦労して倒した魔物が、そのまま奴の戦力になるなんて……! 迂闊だった。親玉がアンデッドだというなら、こんな事態は予想してしかるべきだったのに!


状況が圧倒的に不利になったと言うのに、ラピス君は少しも動揺した様子がない。彼女はキッと魔物共を睨み付けると、腕をスッと天に掲げる。


「消え去れ」


彼女がそう短く呟いた次の瞬間、我々の視界が一瞬にして白に染まる。それと同時に耳をつんざくような爆発音に鼓膜と全身が震えた。わけがわからず反射的に頭を抱え込んだ我々の上に、何処からか飛ばされてきた土埃が降ってきた。


「な……なにが……」


パリパリと大気が音を立てて鳴っている。時折走る稲光が、今この場で何が起こったのかを悟らせてくれた。稲妻だ。ラピス君が天から振らせた巨大な稲妻が強化された魔物共に降り注ぎ、一体残らず消滅させたのだ。文字通り影も形も残さずに。あまりに巨大な稲妻だったためか、地面がえぐれて焼け焦げている。これだけの威力の魔法は長い冒険者人生の中でも見た事がない。同じ魔法を使おうと思ったら、王家の宮廷魔道士が何十人も同時に、しかも長時間詠唱しなければ無理だろう。


もはや我々は驚くのを通り越して感情が追いつかない。正常に動いているはずの自分の目が取り込む情報を、疲れた頭が処理できずにいるのだ。ただただ呆然とするばかりなのは我々だけではなかったようで、さっきまで余裕綽々だったリッチはヨロヨロと二、三歩後ずさりしながら、動揺を隠せずにいる。


『馬鹿な……なんだこの力は……貴様は……貴様は一体……?』
「女の秘密を知ろうとするなんて無粋だぜ」


ラピス君は苦笑交じりにそう言うと、手に持っていた剣を構えた。何の変哲もなかったような安物の剣は、彼女の意思に応えるように白く神聖な光に包まれていた。あれは……さっきカリンが使って見せたような技だろうか? よくわからないが、ラピス君とカリンの技では、同じ系統でも威力が天と地ほどの開きがあるように見える。


身の危険を感じたリッチが杖を構えるが、ラピス君は無造作に、まるで危険など感じていないような態度でリッチに向けて歩き出す。


『く、来るな! 来るんじゃない! この私を誰だと思っている! 魔王様の力を授かりリッチとなった高位神官だぞ! お前ごとき小娘が軽々しく近づいて良い存在だと思っているのか!? ……ええい、来るなと言うのに!』


リッチの体から瘴気が膨れ上がる。また巨大な魔法を使うつもりか!? 杖の先に灯る光球は、さっきラピス君に防がれた物の倍以上の大きさになっている。聞かずとも解る。あれがリッチの全力。掛け値無し最大最強の力。それをラピス君にぶつけるつもりなのだ。


『死ねい小娘!』


杖から放たれた光球は、周囲を黒く染めながら猛然とラピス君に迫る。しかし彼女は正面から迫る脅威に対して、避けるどころか勢いよく突っ込んだ!


一閃――彼女の振るった剣の一撃が光球を真っ二つに切り裂く。驚愕に固まるリッチが次の行動を取る暇も与えず、奴の懐に潜り込んだ彼女は、そのまま腕を振り抜いて奴の体を両断してしまった。


ドサリ――と、軽い、あまりにも軽い音を立てて崩れ落ちるリッチの体。あれだけの猛威を振るった死霊の王は、一人の少女の手によって葬られた。


『……く……馬鹿な……口惜しや……まさか……こんな力を持った人間が存在するなど……魔王様……も、申し訳……』


サラサラと、まるで砂で作られていたかのようにリッチの体は崩れ落ちた。後に残されたのはリッチだった砂の山と、地に伏したまま呆然としている我々だけだ。ラピス君は天を見上げてふう――と息を吐くと剣を収め、何処か少し悲しそうな顔で我々一人一人の治癒をしていく。


「…………」
「…………」


誰も何も話さない。いや、話せない。あまりにも桁違いな力を見せつけられた衝撃と、命の助かった安堵感がごちゃ混ぜになり、何を話して良いのかわからないのだ。


「お待たせしましたクリークさん」
「ラピス君……」


私の体に添えられた彼女の手から暖かい力が体中を駆け巡り、見る見るうちに傷が癒やされていく。この、高位の神官ですら簡単にできないような癒やしの術と言い、先ほど見せた大魔法と言い、一体この娘は何者なんだろうか? そんな恐れにも似た感情が伝わったのか、彼女は寂しそうに微笑む。何故かはわからない。しかし、このまま何も話せなければ、彼女は我々の元から去ってしまう――そんな直感めいた閃きに突き動かされて思わず手を伸ばしたが、何を言えば良いのかわからず言葉が出てこない。気ばかり焦って何も出来ない自分がもどかしく、悔しげに唇を噛みしめた時、援軍は意外なところからやって来た。


「ラピスちゃん!」
「わっ!?」


全員の治療を終えた彼女に飛びついたのは、カリンとシエルの二人だった。彼女達は他の冒険者がラピス君に抱く畏怖にも似た感情など全く感じないのか、彼女の体を遠慮なく調べ回している。


「どっか怪我してない!? あんな不気味な奴に蹴り入れたりしたら、綺麗な足に傷がついちゃうでしょ!」
「見ててハラハラしたよ! いくら強いからって、あんまり無茶したら駄目だってば!」
「二人とも……」


普段と変わらない二人の様子に、ラピス君にあった陰りがスッと消えるのが解った。……うん。我々の命は確かにラピス君に助けてもらったが、どうやらラピス君の心はこの二人が救ったらしい。ようやく働き始めた頭を振り、私は疲れた体で立ち上がる。


「ラピス君」
「クリークさん」


私の後ろには彼女に治療してもらった冒険者や兵士達が集まっている。強面な連中が神妙な顔をして集まったものだから、彼女は多少戸惑ったようだ。そんなラピス君に向けて、我々は深々と頭を下げた。


「えっと……ギルドマスター?」
「ありがとうラピス君。君のおかげでみんなの命が助かった。君の力がなければ、間違いなくこの場の全員が死んでいたはずだ」
「ありがとな嬢ちゃん! おかげで助かったぜ!」
「本当にありがとう! 君が来てくれなかったら今頃どうなってたか……」


口々に感謝を述べられ、戸惑いから喜びの表情に変わるまで、それほど時間はかからなかった。良かった。ひょっとしたら彼女の力が強すぎて、他の冒険者には受け入れられないのかと思ったが、どうやら杞憂に終わりそうだ。街に被害も出ず、冒険者や兵士の中から死人は出ていない。本当に奇跡と言って良い最良の結果をもたらした美少女は、喜び感謝する人々に揉みくちゃにされて笑顔を浮かべていた。


一件落着……と言いたいところだが、私は滅びゆくリッチが最後に口にした言葉がどうにも引っかかっていた。魔王様――と、確かに奴はそう言った。三百年前勇者の手によって討たれた魔王。まさかと思うが、それが復活しようとしているのだろうか?


「これは……一度調べてみなければならんな」


宴会だ、祝勝パーティーだと盛り上がる連中に苦笑を浮かべつつ、私は一人、そんな事を考えていた。



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