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勇者のやり直し~世界を救った勇者は美少女に生まれ変わる

小林誉

第12話 死霊の王

――クリーク視点


足止め隊が頑張ってくれているおかげか、こちらに向かって来る魔物は随分数を減らしているようだ。体のあちこちを負傷した魔物は十や二十じゃきかないぐらい多い。彼等の頑張りで時間を稼いだ我々は、万全とは言わないものの、ある程度の戦力を整える事が出来ていた。


まず、ただの平地だった地形を魔法で隆起させて、狭い合間に魔物の大軍を誘い込む準備を始めた。そして合間を抜けた正面には街の兵士達がバリケードをいくつも並べて壁を作り、文字通りの壁役を務める事になっている。バリケードは完全に塞いでしまわずジグザグに配置されていて、魔物の通り道としている。これは数を減らしつつ隊列を縦に伸ばすための処置だ。ワザと作られた通り道を通っていると左右の高台から攻撃されて、魔物達が数を減らしていくという寸法だった。


目論見通り魔物達は誘い込まれていく。高台には、街は勿論他のギルドからも参加した冒険者達が攻撃態勢を整えて、攻撃命令を今か今かと待っているところだ。そんな彼等に頼もしさを感じながら、私は腰にぶら下げていた剣をすらりと抜き放ち、勢いよく振り下ろす。


「攻撃開始!」
「おっしゃぁー!」
「やってやるぜ!」
「ぶちかませー!」


猛る冒険者は各々の攻撃方法で魔物の群れに攻撃を開始した。いくつもの魔法が飛び交い、炎上、爆発、凍結、串刺し、色とりどりの魔法が飛び交う様は美しい光景だったが、そこから生み出される破壊は地獄の様相だ。そこに弓や投石、投げ槍などで追撃をかけられては、さしもの魔物の群れも大混乱に陥った。それでも後ろから押された者は前に進むほかなく、仲間の死体を乗り越えてバリケードの先へと逃げていく。そこに待ち構えていた兵士達が槍を突き出し、次々と死体を量産していく。


しかし魔物もやられてばかりではない。前が詰まると判断した者は冒険者達が陣取る丘まで登って襲いかかってきたし、仲間の死体に突き立ったままの槍を引き抜いて投げ返してきた魔物まで居る。オーガーが兵士の槍を巨大な棍棒の一薙ぎで蹴散らしたかと思えば、空いた穴からゴブリンやコボルトなどが突破してきて、手近な兵士に襲いかかっていく。


一時間は経っただろうか? 戦いは熾烈を極めた。予め交代制にしていたおかげで、負傷者は素早く後送できる段取りが組まれていたから死者こそ出ていないものの、それも時間の問題かと思われた。


「このままでは……」


剣を振る力も次第に衰えてきている。周囲の冒険者は額に汗や血を滲ませ、荒い息を吐きながらも戦うのを止めていない。既に体力は限界以上に使っているだろうから、気力だけで持たせているのが現状だ。魔物は半分程度減らせているはずだが、それでもまだ半分だ。しかも敵の親玉は無傷で残っているのだ。このままでは、何かの切っ掛けで戦線が一気に崩壊しかねない――私がそう思った時、最悪の予感が的中した。


「ギルドマスター! あれを!」


冒険者の一人が指さした方向に目を向けた私は思わず天を仰ぎ見て、自分の運の悪さを嘆きたくなった。魔物達の後方に毛色の違う者が一体だけ存在している。一目見ただけで解るような瘴気の溢れ方。見た者の心臓を鷲掴みにするような圧倒的なプレッシャーと存在感。禍々しい骸骨の形相と、いくつもの妖しい光を放つ指輪を身に着けた骨だけの指。そして夜の闇より深い暗黒のローブ。間違いない。あれこそは――


「リッチだ……」


死霊の王とまで呼ばれる凶悪な魔物の姿が、私達の目の前に姿を現したのだ。


「神官達に連絡! 手はず通りにやるぞ!」
「了解!」


伝令役の冒険者が、負傷した体に鞭打って後方へと駆けていく。今回敵の親玉がアンデッドと解った時点で、協力してくれた各協会の神官達を回復役として使わず、リッチに対する切り札として扱う事になっていた。味方の回復よりも攻撃としの神の奇跡を優先する――この苦しい状況も、ただリッチを倒すためだけに我慢した結果だ。ゆっくりと近づいてくるリッチに反応し、自然と体が二歩三歩と後ずさるのが解った。冒険者達はカチカチと歯を鳴らし、体を小刻みに震わせながら怯えている。数々の強敵と戦ってきた私でさえこうなのだ。周囲に居るアイアンクラスの冒険者達がこうなるのは無理もないことだった。しかし私達の仕事は神官達が詠唱を終わらせるまでの時間稼ぎ。何としてでもこの化け物を足止めして、神聖魔法の完成まで持たせなければならない。


私は奥歯を噛みしめて、大声で味方を鼓舞する。


「怯むな! ここで我等が踏ん張らねば全てが終わる! 魔物を倒し、その素材を持ち帰ることこそ冒険者の本分! あの骸骨を倒して一攫千金だ! 意地を見せて見ろ!」
「おおおおお!」
「あの指輪は俺がもらう!」
「魔物を倒すのが冒険者だ! 負けるわけねえだろ!」


冒険者達に再び生気が戻る。ジリジリと、亀の歩みのように近づいてくるリッチを気にしながら、死力を尽くしてて剣を振り、槍を突き、矢を放っていく冒険者。押され続けていた戦線を押し返す勢いで奮戦している。よし、これならいけると思った次の瞬間、リッチがその骨だけの腕を無造作に振るったのが見えた。黒い衝撃波としか言いようのないものが猛然とこちらに迫ってくる。声を上げる暇などなく、多くの冒険者が反射的に身を躱した正にその場所に、黒い衝撃波が突き刺さった。


黒い波が視界を埋め尽くす。直撃は確実に避けられたと言うのに、悪寒と吐き気が収まらない。あまりにも濃い瘴気に当てられて体が拒絶反応を示しているのだ。ドサドサと倒れる冒険者達。私は地面に突き立てた剣に寄りかかることで何とか耐えているが、後一撃あんな攻撃をされたら耐えられる自信はない。しかし無情にもリッチは腕を振り上げ、再び同じ攻撃を行おうとしていた。


もう駄目だ! 私がそう諦めかけた時、一条の光が天から降り注いで辺り一帯を白く染めた。暖かで柔らかい光に包まれていると、自然と体の中から活力が出てくる。今まで受けていた傷も癒え、体力も戻ってきている。これは――神聖魔法だ。何人もの神官が宗派の垣根を越えてそれぞれの神に祈り、邪悪を退け、味方を癒やす神聖な魔法。私達が必死で時間稼ぎをした甲斐あって、ようやく詠唱が終わったのだ。並のアンデッドなら光に触れただけで消し去ってしまう強力な神聖魔法なら、流石のリッチもただでは済まないはず――誰もがそう思って顔をほころばせた次の瞬間、光の中に佇むリッチは、無造作に腕を振るった。


パキンッ! と、乾いた音を立てて光が砕け散る。まるで跳び回る虫でも払うかのように、絶対の自信を持って放たれた神官達の神聖魔法は、リッチに何一つダメージを与える事無く消え去った。


「…………」
「…………」


誰一人言葉もない。さっき芽生えた意地や希望など、目の前の圧倒的存在に対してまるで無力と思い知らされた。もう勝ち目などない。長い時間と膨大な人員を使えば、この目の前に居る化け物は討伐できるだろう。しかし、ここに居る人間――私達冒険者や兵士の一団は確実に殺される。


絶望に墜とされた私達は、もはや抵抗する意思すら持ち合わせていなかった。踏み潰される羽虫が、頭上にある人間の巨大な足を見上げるような気分で、ただリッチの異様な姿を眺めるほか術がない。


『……なかなか面白い術だったが、この程度で私を止めることは出来んぞ』
「喋った!?」


アンデッドが喋る――奴等は意味を成さないうめき声を上げるだけで会話など出来ないと思い込んでいた。常識では考えられない事態に驚愕する私達を小馬鹿にするように、リッチは嗤う。


『何を驚く? リッチとはもともと高位の神官か魔法使いだ。言葉を操るぐらい造作もない。それより貴様等、状況が解っているのか? 自分の身を心配した方が良いぞ』


そう言うや否やリッチは再び腕を振り下ろす。さっきと全く同じ黒い波が私達に襲いかかり、再び何人もの冒険者が吹き飛ばされた。体を襲う激痛と悪寒に立っていられない。そこら中から苦痛の声が上がるが、何故か死者は一人も出ていないようだ。おかしい。これだけの攻撃を連続で食らっているのだから、犠牲者が出ないはずがないのだ。現に我々の立っていた土台はあっさりと砕かれているのだから。


『簡単には殺さん。貴様等の苦痛と絶望こそが我が供物。せいぜい美しい音色で鳴くが良い。絶命するまでの短い時間を楽しめ。それが貴様等の感じる、人生で最後の感覚になるのだからな』


無情にも振り上げられる腕の先に灯る黒い光。私はそれを、ただ怯えて見つめるしか出来なかった。


§ § §


「ラピスちゃん、治療の魔法を!」
「こっちも頼む! 重傷だ!」
「わかりました!」


次から次へと運ばれてくる負傷者に、俺は片っ端から回復魔法をかけつづけているが、数が減るどころか増えていく一方だ。最初の頃は数人程度だったのに、今や十人、二十人と、数が増え続けている。おまけにさっき治療したばかりの冒険者や兵士が再び別の箇所を負傷して戻ってくるので、焼け石に水も良いところだった。


「体が! 痛い! 早く治してくれ!」
「苦しい……畜生! なんで俺がこんな目に……」
「腕が! 俺の腕がないんだ! 腕を探してくれ!」


臨時で作られた診療所は、まるで戦場のように騒がしい。そこかしこで苦痛と助けを求める声が上がっている。回復魔法を使っているのは俺だけじゃない。ここに配置された神官達も頑張ってはいるもの、やはり数の多さはどうにもならない。生憎俺が使える回復魔法は接触型で、直接手を触れなければ効果が発動しないから、大多数の治療には不向きだった。そう言えば、一緒に旅をした僧侶は平気な顔で広範囲の回復魔法を使ってたな……。羨ましい。


「戦況は一体どうなってるんだ……」


これだけ負傷者を出しているのだから魔物達にもそれなりにダメージを与えているはずだと思う。しかしここに引きこもっているだけじゃ、前線がどうなってるのか見当もつかない。一度様子を見に行きたい――でも、負傷者を放っておくわけにはいかない。思うように減らない負傷者と、そんな人々を助けられないもどかしさに、自然と苛立ちが募る。


このイライラが敵に対するものなのか、自分に対するものなのか、判断がつかない。苦しむ人を治療しながら、ふと思う。最初から俺が出ていれば、こんなに沢山の人が苦しむことはなかったんじゃないのか? なぜ自分のささやかな生活を維持するために、人々が苦しむのを見過ごしたのか。俺は一体何をやっているんだ? 何のためにここに居るんだ? そんな思考が頭の中をぐるぐると回り続けた。


「大変だ! リッチが! リッチが現れた!」


診療所に飛び込んできた一人の冒険者が、怯えを含んだ表情でそう叫んだ。途端に緊張が走る。敵の親玉が出てきたんだ。予定通りならそろそろ神官達の神聖魔法でケリがついているはず――誰もが思ったその予想を、その冒険者はあっさりと打ち砕いた。


「アイツには神聖魔法が効かなかった! それどころか足止めをしてる冒険者達がなぶり者にされてるんだ! じきにこの街にもやって来る! みんな逃げるんだ!」
「そんな……!」
「嘘だろ! あんなに沢山の神官がいたのに……」
「逃げるったって、体も動かないのにどこに逃げれば良いんだよ……」
「畜生……こんなことなら、さっき死んでおくんだった……」


診療所は大混乱に陥った。身動きできない者を担いで逃げようとする者。折れた剣を杖代わりにして、足を引きずりながら街を出ようとする者。死の覚悟を決めて武器の準備を始める者。出ていこうとする者に、とどめを刺してくれと懇願する者。みんながみんな、絶望に染まって生きる意思をなくしている。


ギリリ――と、噛みしめた歯が鳴る。握りしめた手が皮膚を突き破り、血があふれ出す。このまま俺が手をこまねいていれば、この人達は確実に死ぬ。確実にだ。どうしたらいいのか解らず、思わず視線を彷徨わせたその先に、見慣れた人物の姿があった。


アベルだ。冒険者になりたての少年。一流の冒険者になる夢を抱いて田舎から出てきたばかりの男の子。その彼が、血にまみれた姿で担架の上に寝かされている。初めて依頼を達成した時、とても喜んでいたのを思い出す。あんなに頑張っていたのに。俺の代わりに前線で剣を振るって、今は死にかけている。


頭に血が上る。自分のするべき事は何だ? 俺は一体何者だ? 勇者とは何だ? 助けを求める声を無視するのが、勇者と呼ばれた者のする事か? いいや、違う。勇者とは、力の大小に関係無く、どんな困難にも勇気を持って立ち向かえる者の事を言うんだ。そこで倒れているアベルを初めとする冒険者、そして兵士達は勇者だ。こんな臆病で卑怯な俺より、勇者と呼ばれるのにふさわしい人物達だ。


……ならせめて、偽物なら偽物らしく、そんな彼等の手助けぐらいはしようじゃないか。それで居場所がなくなっても構わない。ここで過ごした僅かな時間を思い出に、また山に戻れば良いだけだ。


ふう――と、心の中に溜まっていたものが空気と共に吐き出される。よし――心は決まった。


「ちょっと借りるよ、アベル」
「ラピスちゃん?」


アベルの剣を手に持って立ち上がった俺に、診療の手伝いをしていたカミーユさんが声をかけてくる。


「ちょっと行ってきます」


俺はさんな彼女に微笑みながら、剣を片手に診療所の扉に手をかける。後ろでカミーユさんが何か叫んでいたが、その時既に、俺は飛行魔法で飛び出していた。

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