日常論

鈴芽

日常論 #1

 「行ってきまんもす」
しょうもないと自分でも思いながら家を出る。親の返事を聞く間もなく玄関のドアを閉め、学校へ向かう。

 「....あれ?今日美術じゃね?」  
昨日のホームルームで先生が言っていたのが頭を過る。軽く舌打ちをしながら目付き悪くいつもの道を進む。いつもの家から学校へ向かう道はそう面白い道でもなく途中に公園、コンビニがいくつかあるくらいだ。
俺はこのなんともない普通の道が大好きである。理由は明白。自分も普通だからだ。何一つ特化したものもなく勉強、運動、友情。どれも普通なのだ。そんな自分に自信がないと思ったこともなく、ただ平凡に生きている。

 「飛鳥おはよー。」
やる気のないいつもの声で俺の名前を呼んでいる。こいつは吉田竹海だ。性格は明るく、運動もできる。たしかサッカー部だ。....もちろん俺は帰宅部だ。
「うん。おはよう。」
こちらも日曜日の朝みたいな返事をする。
「月曜日からなんだその気の抜けた返事は!」
「お互い様だろ。それより吉田、今日美術あるのか?」
いつもの軽いジャブを交わしながらまたいつものように今日のことについて話す。
「ん?あぁ。今日美術やんね」
どこでならったか知らない変ななまりが入っていた。
「やっぱなぁ。美術かぁ~。」
明らかに嫌ですオーラを出す飛鳥に対して吉田は
 「あれっ?飛鳥お前絵描くの結構上手くなかったっけ?」
そう俺は上手すぎるというほどではないがそれなりに絵が描けるのだ。
だから嫌なのだ。 うまくて目立つのが嫌なのだ。
「俺。美術の先生嫌いなんだよな。」
目立つのが嫌だなんていえない。況してや別に上手くない吉田の前で言うつもりなんて尚更ない。
「そうか?悪い先生じゃないと思うけど。」
「悪い先生じゃないないんだよなぁ。でも...」
「でも?」
「いやっ。何でもない。」
「なにそれくそ腹立つ。」
そう言って吉田は俺の方を軽く叩いてきた。



こんなことを話しているうちに学校に着いた。別に頭がいいわけでもない平凡な学校。
大きくもないし、特別綺麗でもない。
下駄箱へ向かう道は先生の挨拶といろんな生徒たちのあいさつや賑やかな会話が飛び交う。
「普通だなぁ。普通。超普通。」
俺はぼそっと呟く。
「飛鳥ってさ。なに、普通が好きなの?」
「好きだぜ。平凡。普通。いつも真ん中にいたい。偶数の時は真ん中の2つの数の上の方派。」
よくわからないことを言ってると自分でも確信している。
「おはよっ!飛鳥っ!」
元気よく小走りであいさつをしてくる。
こいつは小野真由香。幼馴染で唯一まともに会話できる女子だ。
「ういっす!」
「おはようございます。」
やや被り気味な挨拶だが吉田の方が速かった。
「真由香おはよ!」
「まゆっちおは!」
「まゆおはよ!」
いろんなところから挨拶をされる真由香。
見てわかる通りこいつは人気がある。
容姿端麗で運動神経もよい。しかし、勉強はお世辞にもできるとは言えない。
そんな少し欠けているところが性別問わず人気なのだろう。
下駄箱で上履きに履き替え、教室に入る。
俺 吉田 真由香の順で入るが
だんだん挨拶をされる声が大きくなる。
俺は四捨五入したら0人しか挨拶されてない。しなくても0人なのは認めない。
吉田、真由香はいろんな人に挨拶されている。
「まぁまぁ落ち込むなって!いつものことだろ!普通が好きなんだろ!?と皮肉混じりな声が吉田から聞こえてくる。」
「俺は気にしてないと装いながらいつも通り席に着き本を取り出す。」
そうしているうちにチャイムがなり先生が息を切らして教室に入ってくる。
ショートホームルームはいつも聞き流してなにかわからない噂を聞いたら誰かに聞くのが俺流。
「今日は避難訓練があります!」
この先生の声も俺には届いてなかった。



ショートホームルームが終わると1時間目は数学だ。数学は得意科目。この学年には171人いるが期末テストで綺麗に86位を撃ち抜いたことがある。


気付けば数学は終り、皆が2時間目の美術準備をし、美術室へ移動する。
「あ~。次美術なのか。」
別に誰に話しかけた訳でもない呟き。
一人颯爽と移動をする。




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