雪の華

音絃 莉月

6話〜本来の運命〜

ーー魔法が使えるかもしれない

その可能性に思い至った俺は、早速書庫にでも行って魔力関連の本を調べようと、椅子から立ち上がった。
魔力回路がなくとも、魔法を使える方法がきっとあるのだ。まだ可能性があると知ったら、希望を抱かずにはいられない。

魔法はロマンなのだから。

だが、浮き足立つ心を無視して、身体は唐突な睡魔に襲われた。襲い来る異常な眠気、気を抜けば今すぐにでも寝そうなほどで。
俺は気力を振り絞って、ベッドに潜り込んだ。そして限界を迎えた眠気は、俺を夢の世界へと誘った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

気が付けば、俺は見知った空間にいた。
そして目の前には、これまた見知った顔。

『起きたか。いや、この場合眠ったか…になるのか』

どうでも良い事で悩む目の前の存在は、相も変わらず絶望的な神秘さを纏う芸術品のようだった。

たしかここは…『心の中』だったか?
以前と違うのは、辺りが灰色ではなく白色であることくらい。

『心の中、だからな。この空間はお前の心境に影響を受ける』

なら白は良い方か…というか、ノッテ……。
あの異常な眠気は、お前の仕業か。
魔法の謎を解き明かしてやる、って意気込んだ途端に、急激に眠くなったから変だとは思ってたんだ。

『少し聞きたいことがあったのでな。勝手に寝るのを待とうかとも思ったのだが…どうやらお前は、一度集中したら当分戻ってこないタイプらしいのでな』

だから、強制的に眠らせた…と。
のめり込むと中々帰ってこないタイプなのは認めるが、待つという判断にはならなかったのか。

『なぜ俺が、わざわざ待たねばならない。少しだけならともかく』

目の前の妖艶な悪魔は、それは大層面倒くさそうに肩を竦めた。
この間契約して、人型を得たからか…黒い靄の時よりもムカつくな。
別に仕草を見なくても、しっかり心の機微は感じるのだ。そこに仕草もプラスされると、腹立たしさが倍増である。

『まぁ、無駄話は置いといて。お前に聞きたいことがあると言ったであろう』

あぁ、そう言えばその為に呼ばれたんだったか。

『お前の知ってるゲームとやらが、この世界の未来である可能性についてだが』

え、なんで知ってるの。美女桜…乙女ゲームの事も前世のことも、ノッテに話してないはずなんだが。

『面倒いし興味もないからしないが、やろうと思えばお前の記憶も覗ける。今回はお前がその乙女ゲームとやらの事を考えていたから、勝手に見えたのだ』

ーーで、少し気になったからゲーム関連の記憶を軽く覗いた。

と、ノッテは軽く続けた。
勝手に覗いたことに、文句の一つでも言おうかと思ったが、あまりにも軽く言うもんだから文句を言う気も失せてしまった。

ただ、その美貌で色々削がれるのが、かなり腹立たしくはあるのだが。

『そのゲームとやらの未来は、俺としては面白くて大歓迎なんだが』

あのシナリオが大歓迎ってそういや、悪魔だったな…忘れてた。

『まぁ、それで契約解消されても面白くないし手伝ってやってもいい』

んー、実の所『使役』ってどこまで強制力あるものなの?ノッテの感じからして、あまり無いように思えるが。

『強制力か?命令違反をすれば俺は消滅する。そのくらいだな、だから破格の契約なんだぞ。本来気高き悪魔が、魔力のみで命を握らせるなど有り得ないのだから』

消滅するくらいって、そうなると命令は絶対って事になるんだけど。ほんとに魔力だけで、なんでそんな契約持ちかけたのさ。

『面白そう。魔界で暇を潰すのも飽き飽きしてたところだったしな、命令違反で消えるのもまた一興だ』

面白そう、で命を掛けれる悪魔の思考はよく分からんが、結局のところノッテの気分次第…ということか。

『その他の制約も、お前あるじに対して嘘が付けない程度。お前の未来が気になる間は手を貸す、飽きたら消える。単純だろ?』

目の前の悪魔は、心底楽しそうに笑った。
こっちは死なない為に、必死に考えているというのに。

『それで、だ。お前の心配する運命シナリオの強制力とやらは、そこまで気にしなくていいんじゃないか?既にお前は、一つ運命を変えているだろう』

変えてる?俺が何を……あ。
確かに俺は変えていた。それもかなり大きくシナリオに関わるであろう部分を。

ゲームが発売されてしばらく、難易度の高さを嘆く声が上がり始め、そして狙ったかのように攻略のヒントとしてゲームでは余り語られない裏設定集が、ゲームを持ってる人に無料で配布された。

ホームページで公開された設定集のダウンロード条件は、いずれかのバッドエンドを経験していること。
つまりは、キャラの狂気を知りそのゲームの真髄を理解していること。

そしてプレイヤーは、彼ら攻略キャラの過去を知ったのだ。タイトル、絵、音楽、そのどれでも感じなかった狂気の詰まったエンドを見て、衝撃を受けたプレイヤーは…

その裏設定を知り、再び攻略に乗り出した。
全ては狂う程の過去を味わい、今なお狂気に囚われている彼ら攻略キャラを救い出すために。

その流れは、計画性を感じたが…例に漏れず俺もその裏設定を見た。
完全とは言わずとも、ほぼ攻略出来ていたこいつルヴィは余り気にしていなかったため覚えてないが。

そしてそこには、悪役令嬢…ロベリア・リシアネ・クワルツ。つまりは俺の妹の過去として、クワルツ家の過去も綴られていた。

彼女、悪役令嬢ロベリアは愛されて育つことはなかった。
長兄は彼女に冷たく勉強にのめり込み、俺ことルヴィは命なきものに魅了されていた。そして父は、仕事漬けの日々で彼女を避けていた。

本来和やかなクワルツ家が狂い始めたのは彼女の出生時、家族の皆が愛していた
彼女の母が…死んだ事がきっかけであった。

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コメント

  • ノベルバユーザー601496

    プロローグからしっかりしていたので最後まで読み切っちゃいました!
    コレくらいだと読み切りやすくて嬉しいです。

    0
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