マグ拳ファイター!!

西順

192

「プリン! 舵を右に切ってくれ!」
 オレの指示を仰ぐまでもなく、プリンは時計塔を右に旋回させる。

 ドンッ! ドンッドンッ!

 とオレたちが今いた場所を砲弾が通り過ぎていく。撃ってきたのはもう一隻の空飛ぶ時計塔だ。

 オレたちがデウスカルコスを手に入れてすぐ、脱天集会が時計塔で攻めてきた。向こうはオレたちの位置を完全に把握しているらしい。
 こうしてオレたちは軍艦同士での撃ち合いを始めたのだ。

 ドンッ! ドンッドンッ!

 付かず離れず、時計塔同士の戦いは砲弾の撃ち合いである。旋回してかわし、接近しては撃ち合う。その姿を隠すものが何もない蒼空で、砲撃の音だけが響く。いや、

 ゴーン! ゴーン! ゴーン!

 向こうは仕切りに時計塔の鐘を鳴らしているが、こちらがまるで気にしていないことを不思議に思っているかも知れない。

 ドンッドンッ! ドンッ!

 何度目の撃ち合いだろうか? 同型の機体では、彼我の戦力に差がなく互いにに持久戦を強いられていた。
 先にしびれを切らしたのは向こうだった。
 向こうの時計塔から、蝙蝠のようなものが何体も飛び出してくる。いや、青い人間に蝙蝠の羽根が生えているのだ。
「……悪魔」
 指令室にいる天使の誰かがそう呟いた。確かにあれは悪魔だ。おそらく生の魔核を飲み込んで、その身を悪魔へと変身させたのだろう。なんとも言えない苦さが口の中に広がる。
 悪魔たちはオレたちの時計塔にまとわりつくと、目から熱線を発射して攻撃してくる。
「出るぞ」
 それを見た三郎と有志が、素早く指令室を出ていく。
 戦いは砲弾の撃ち合いから天使と悪魔の空中戦にシフトしていった。

 時計塔と時計塔の間、砲弾が飛び交う大空で、何十という天使と悪魔が戦ってるいる。
 空はその激しくなる戦場を表すかのように、暗雲が立ち込めてきていた。などと言うことが偶然に起こるはずがない。これはオレたちの時計塔から暗雲を噴き出して造っているのだ。
「皆! 一旦戻れ!」
 オレの号令に、天使たちは悪魔との戦闘を止め、素早く船内に戻ってきた。全員の回収が済んだのを確認すると、オレはプリンに指示をだし、暗雲から幾条もの雷を落とす。
 轟く号音とともに、視界を真っ白にする雷が、空中の悪魔たちを直撃する。しかし敵もさるもので、一撃では倒しきれず、まだこちらへ向かってくる。それらに向かってオレたちは何発か雷を落とさなければならなかった。

 雷が止めばまた砲撃戦である。時計塔同士の戦いに戻るが、こちらはまだ空中戦力として天使たちを残している。
 砲撃に加え、天使たちの直接攻撃により、徐々に傷付きその高度を下げていく相手の時計塔。全壊はしなかったものの、半壊程度で地上に不時着することになった。

「オレも出る」
 指令室を他の天使たちとプリンに任せ、敵の時計塔に飛び立つと、地上で残存勢力と合流したのか、天使たちが脱天集会の反撃を食らっていた。
「退けえ!」
 そこに向かってオレが石の剣から光刃を放つと、天使たちが寸前でサッと避けたことで目眩ましとなり、オレの光刃が脱天集会に直撃する。

 その後戦況はオレたちに傾き、その場にいた脱天集会のメンバーの首を獲ることになった。
 これは相手が悪魔に加担していたからではなく、オレたちに捕縛されることを拒み、全ての脱天集会のメンバーが死ぬまで抵抗してきたからだ。
 その中にはあの邪眼使いの女もいた。と言うより脱天集会のメンバーの多くが邪眼使いだった。
 勝負は決していたというのに、相手を死に至らしめなければならないというのは、なんとも言えない苦さがあった。
「フッフッフッ、さすがと言うべきかな?」
 オレたちが沈痛な面持ちでいると、半壊した時計塔から声が響く。
「全く、私が手塩にかけ、邪眼までも与えた私兵を、よくも全滅させてくれたものだ」
 声は時計塔のスピーカーから流れていた。
「セカンドか」
「ほう? すでに私の招待までたどり着いていたとは、さすがサードを倒した男だな」
「人間にこんなことさせて、お前ら悪魔は何がしたいんだ?」
「なに、退屈なのだよ我々は。不老にして長命なる我々。この世界の生物の長たる我々。神への反逆者である我々。我々悪魔は退屈な平穏を憎み、血湧き肉踊る動乱を望むのだ」
 なんて身勝手な言い分だ。
「付き合ってられねえ。やりたきゃ、悪魔同士でやってろよ」
「それが昔からの取り決めで、悪魔同士の戦いは御法度となっているのだよ」
 なんだそりゃ? 人間の命より自分たちのルールの方が優先順位が高いってか?
「ふふ。その憎々しげな顔。そそるねえ」
 スピーカーにカメラでも付いてるのか?
「だが、まだ足りない。君たちにはもうひと頑張りしてもらおう」
 オレたちにまだ何かさせるつもりなのか? そう思ってすぐ、ブルースからパスで連絡が入る。
「どうした?」
『ノルデンスタッドで暴動だ! いや、暴動なんてもんしゃない! 政府側の騎士団や軍と、市民が一触即発のところまできているぞ!』
 チッ、こういうことか。
「では、ボロボロに崩壊したノルデンスタッドで待っているよ」
 セカンドめ。だが、そう上手くいくかな?

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