マグ拳ファイター!!

西順

188

 赤いドラゴンだ。しかも今まで見たドラゴンの中で一番大きい。
「ワンワン!」
 何故吠えるタマ!?
 タマが吠えたせいてドラゴンがこちらに気付いてしまった。しかし呑気に欠伸(あくび)なんぞしている。
「今のうちに逃げるぞ」
「ワンワン!」
 だから何でドラゴンに対して吠える!? しかもタマのやつ、そのままドラゴンに襲い掛かりやがった。あ、尻尾の一振りで吹き飛ばされた。
「タマの仇ィ!!」
 と三郎。いや、死んではいないけどね。三郎はポーチからガトリング銃を取り出すと、巨大なドラゴンに向けて乱射する。がまるで効いていない。
 弾丸はドラゴンに当たると跳弾し、四方八方に飛んでいく。
「止めろ三郎! こっちが被弾する!」
「ちっ」
 三郎がガトリング銃を撃つのを止めたところで、ドラゴンがこちらに向けてその大きな口を開いているのが分かる。さすがに気分を害したようだ。
「皆、逃げ……!」

 ゴオオオオオオオオ!!」

 オレが何かを言い終わる前に、ドラゴンの火炎放射がオレたちを襲った。
 …………しかし、その炎がオレたちまで届くことはなかった。何故か、オレたちの周りをバリアと呼ぶ以外ない何か、半球状の透明な何かによって護られていたからだ。
「どうなってる!?」
 オレがそう声を上げると、皆の視線がオレの腰に向けられる。オレも自身の腰に視線を移すと、そこでは先ほど泉の貴婦人にもらった伝説の剣の鞘が光り輝いていた。
 どういうこと? と声を上げようと思ったが、皆が知る訳ない。と言うか鞘が光ってバリアが張られたというのが答えだろう。
「ハァー」
 オレは一回深呼吸して冷静さを取り戻す。そしてポーチからもう一つの伝説の剣を抜き、二本の伝説の剣を宙に浮かせた。それはさながらオレを中心に回転する衛星のようだ。
「このドラゴンはオレが対処する。三人は隠れていてくれ」
 二人の天使はそれで納得してくれたが、三郎は、
「タマの回収を頼む」
 と余計な一言を付け足してくれた。
「自業自得だと思うが?」
 三郎に睨まれた。分かりましたよ。ドラゴンのねぐらの隅でのびてるタマを回収すればいいんだな?
「ハァー」
 オレはもう一度深呼吸すると、財宝のねぐらから身を起こしたドラゴンと対峙した。

 ゴッ!!

 瞬間先ほどの火炎放射とは違う、火炎弾を吐いてくるドラゴン。が、それは鞘のバリアによって防御された。だがそこに油断があった。

 ズオオオ!!

 オレは尻尾の一振りによって思いっきり吹き飛ばされてしまった。直撃はもちろんしてはいなかったが、バリアごと吹き飛ばされたのだ。
 バリア越しでも力の差を思い知らされる。バリアがなければオレたちは今頃全滅していただろう。
 オレは立ち上がると、二、三度ステップを踏み、体の調子を確認する。良し、問題ない。
 と認識したところにドラゴンが噛み付いてきた。それを翼で飛んで回避すると、上空から石から抜いた剣を振るう。光の刃が飛んでいき、ドラゴンに当たるが、かすり傷と言った感じだ。直接当てないと意味がなさそうだ。

 その後オレとドラゴンの戦いは空に移った。翼の生えた者同士、空中戦になるのは必然だろう。
 大空で人とドラゴンがドッグファイトを繰り広げる。文字に起こすと訳が分からないが、オレとドラゴンは、遠距離では互いに致命傷を与えられないと理解している。ならば相手の死角を突いて直接攻撃を食らわせるしかなかった。
 火炎を牽制や目眩ましに使ってくるドラゴンに対して、オレは伝説の剣の光刃や、重力魔法で対抗する。
 光と炎が眩しく散り、オレたちは何度となく交差し、その度に互いを傷付け合っていく。
 気付けばドラゴンは血にまみれ、おそらくオレも同じだっただろう。次の攻撃が最後になる予感があった。
 オレは泉の剣と石の剣を握ると、全速力でドラゴンに突進していく。ドラゴンも同じだ。その大きな口を開け、オレを飲み込もうと襲い掛かってくる。
 そしてオレはドラゴンに飲み込まれた。が、それはわざとやったことだ。だがそれは早計だったとすぐに思い知らされた。炎を吐くドラゴンの体内は灼熱だったのだ。少し考えれば分かったというのに、疲れで頭が回らなかった。
 体内の灼熱地獄でオレを蒸し焼きにしようとするドラゴン。だがオレはゲローとの戦いでドラゴンの弱点を知っている。外側からは鱗が硬く刃が通らなかったが、内側からなら通せるはずだ。
 オレは背中の二つの袋に、重力をまとわせた二本の剣を突き立てた。
 それが決定打になった。ドラゴンはその袋から漏れ出る液体に引火し、自らの炎で全身を焼いたのだ。
 ドラゴンは真っ赤で巨大な魔核と、まるで恐竜の骨格標本のような骨の素体となって地上に落っこちていった。
 何とか生き残ったオレも、全身火傷で空から落下するしかできなかった。
「おっと」
 それを三人の天使が中空で受け止めてくれる。地上ではタマがうるさく吠えていた。そういや、タマのこと忘れてたや。そこでオレは気絶した。

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