マグ拳ファイター!!

西順

187

「結局デウスカルコス見付けてねえ!!」
 時計塔を回収し、浮遊島で錆び落としをしているときのことだった。オレは不意に主目的を思い出した。
「やっと思い出したのか?」
 と三郎。いや、思ってたんなる声に出して。
「まあ、いいや。この錆び落とし、頼んでいいですか?」
「はい!」
 元気良く皆返事してくれた。まあすでに手伝ってもらってたけどね。

 再び山脈地帯に戻り、四人と一匹でデウスカルコス探しだ。ちなみにプリンは時計塔の制御を一手に引き受けてくれているので、浮遊島に置いてきた。
「ワンワン」
 地上に降りるなり、タマが早速吠えだし、どこかへと駆け出した。
「今度こそデウスカルコスだといいんだけどな」
 天使の一人がぼそりとこぼし、三人が苦笑しながら首肯した。
「ワンワン」
「ああ、今行く」
 とタマの後を付いていくと、そこにあったのは、石に突き刺さった剣だった。意匠にも凝ったその威容はまさに、
「伝説の剣だよね?」
「伝説の剣だな」
「見紛うことなき伝説の剣だな」
「何の伝説かは分からないが、伝説の剣だな」
 そんな伝説の剣の横で、タマがドヤッていた。そんなタマを誉めながら撫でる三郎。
「どうする? 抜く?」
 と天使の一人。
「いや、抜く、って言っても、抜けるもんなのか?」
 ともう一人の天使が首を傾げる。それはそうだろう。伝説の剣なのだ。抜けるのは伝説の英雄とか伝説の勇者ぐらいのものだろう。この中で資格のある者なぞいるだろうか? うん? 何故皆オレの方を見ているのかな? オレは一介のプレイヤーなのだが?

 抜けた。オレが伝説の剣の柄を握ると、剣が光り出し、それが収まったところで抜いてみたらあっさり抜けた。どうなってる伝説!?
「オレ、剣士じゃないんだけどなあ」
「言っても剣使う方だろ?」
 と三郎に突っ込まれてしまった。
 とりあえず使い勝手を確かめてみたくて、一振りしてみると、光の刃が発生し、それが周りの木々をズバズバ斬り倒して100メートルぐらい進んでいく。切れ味、というより仕様に驚く。
「良かったな、剣の腕は関係なさそうだ」
「…………そうだな」

 伝説の剣は切れ味が鋭すぎて危ないのでポーチに仕舞い、デウスカルコス探しを再開した。
「ワンワン」
 再開してすぐにまたタマが吠えながらオレたちを先導する。今度こそ真っ当であって欲しい、と感じながら後に続くと、あったのは泉であった。
「何だ。何の変哲もない泉だな」
 オレたちがそう思っていると、周りに霧が出てきた。
「とりあえず一休みするか」
 オレの一存でその場で休むことに決定した。
 泉の水は良く澄んでいて、飲むと美味い。皆で代わる代わる飲みながら、寛いでいると、
「ワンワン」
 とまたタマが騒ぎ出した。今度はなんだよ? と泉の方を向いて吠えているタマにつられてそちらをみると、手が泉からにょきりと生えている。女性のものらしき片腕だ。そしてその手には豪奢な鞘に納められた一振りの剣が握られている。
「伝説の剣だ」
「伝説の剣だな」
「見紛うことなき伝説の剣」
「ものの10分で伝説の剣二本目」
 スーッと音もなくこちらへやってくる腕。
 えっと、これはオレに取れと言っているのかな? 三人の天使も柴犬も何か期待した目をしている。オレは嘆息してその剣を手から受け取った。同時に剣を渡した手が泉の中に消えていく。
「スゴいな、伝説の剣二本とか」
「さすが長ですね」
「選ばれし者は違う」
 なんだろう? バカにされている訳じゃないよね?

「ワンワン」
 何度目だろう? タマが鳴いている。今度こそ大丈夫だよね? デウスカルコスだよね?
 そう思いながらタマの後を付いていくと、洞穴に突き当たった。崖にぽっかりと口を開けた入り口は、人が通るにも大きな横穴だ。
「今度は真っ当な洞穴だな」
「でも坑道と言った感じじゃなく、自然にできた鍾乳洞って感じだぞ?」
 …………またハズレっぽい。いや、今までのがハズレって訳じゃないけど、的外れだ。
 そう思いながらもオレたちは洞穴を進んでいた。今までも何かあったのだから、今度も何かあるだろう、との考えだったのだが、甘かった。
 洞穴を奥へ奥へと進んで行くと、その向こうから光りが見える。その光りへと慎重に進んで行き、突き当たった場所にあったのは、山盛りの金銀財宝だった。
 天井は吹き抜けになっていて、それが見え、太陽光に照らされて金銀財宝たちがキラキラと輝いていた。
「おお!!」
「凄いぞ!!」
 とそれに向かって天使二人が飛び出して行こうとするのを、おれと三郎で引き留める。
 すぐに物陰に隠れると、天空に巨大な影が過る。その影は吹き抜けを通って金銀財宝の上に降下すると、そこが自身のねぐらであるかのように巨体を丸め寝息をたて始めた。
「あれって」
「ああ、ドラゴンだな」
 どうやらオレたちは、ドラゴンのねぐらに来てしまったようだ。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品