マグ拳ファイター!!

西順

181

「もう嫌だああああああッッ!!」
 オレは思わず叫ばなければいられなかった。
 ノルデンスタッドからウーアへの道すがら、異様に魔物と遭遇したからだ。
 雪豹やら雪狼やらノースゴブリンやら、とにかく群れを成して数で攻めてくるのだが、嫌らしいことに、こいつら知恵が回るのだ。
 まず前面でオレたちを足止めしといて、後ろからの挟み撃ちなんて当たり前で、場合によっては、行き止まりや崖などの地形まで使ってくるのだ。
 単に数に任せて襲い掛かってくるなら、オレの礫弾や三郎の銃で簡単にケリが着くのだが、こう頭を使われると、面倒臭くて仕方ない。
「それにしても、狙われてるな」
「そうだねえ。ノルデンスタッドからこっち、ずーっと狙われてるねえ」
「茶化すな」
 三郎に叱られてしまった。
「気付いているんだろ? ここの魔物たちは、他の冒険者なんて目もくれず、オレたちだけを狙い打ちしてきている」
 分かってるから茶化してたんだよ。魔物たちの狙いは明らかにオレたちだ。ここに来るまでに、いくつかの冒険者パーティーとすれ違ったが、そいつらの脇を通っても、魔物たちはオレたち二人を追い掛けてきた。
 まあ、それで他の冒険者(プレイヤー)のところに魔物が行ってしまったら、MPK(モンスタープレイヤーキラー)というマナー違反になるらしいとアキラが言っていたので、逆にそうならずに良かったぐらいだ。
 ただ、そうなってくると街道を進むことができない。なので自然と山道獣道を進むことになる。そうすると魔物との遭遇率が上がる。という悪循環に陥っている。

「四人だな」
「四人か」
 オレの気配察知圏内ギリギリのところに、オレたちを中心に十字を切るように四つの気配が、付かず離れずオレたちを監視している。ついでにいえば、魔物たちも、巧く出所を隠しているつもりらしいが、この四つの気配から来ていた。
「どうする?」
「魔物の方は頼めるか?」
「分かった」
 オレは間断なくやって来る魔物の相手を三郎に任せると、神経を集中し、意識を拡大させる。そうやってパスが届く範囲を、自分を中心に円形にどんどん拡大化させていくと、四つの気配がオレのパス圏内に入った。
 それに気付いた四人は、オレのパス圏内から慌てて逃げようとしたが、もう遅い。
 オレはポーチから四つ銅貨を出すと、パスで四つの気配と繋ぎ、空に放つ。四枚の銅貨は高速で空を翔け、ほどなくして四つの気配を亡きモノにした。
「行こう」
「ああ」
 オレが四つの気配の相手をしているうちに、三郎は襲い来る魔物たちを一掃していてくれた。

 亡骸は脱天集会の黒と黄のローブを着ていた。まあ、そうだと思ったけど。そしてその亡骸の側には、その者の持ち物らしき魔核(オーブ)が転がっていた。と言うかこれって、
「ダンジョンコア?」
「どういうことだ?」
 と三郎に聞かれても、それはこちらも聞きたい。
 確かにダンジョンコアは魔核を生み出し、それを素体に埋め込むことで、魔物を造り出す。が、それを人間が使用できるなんて話は噂にも聞いたことがない。しかしこいつらはそれをやっていたのだ。
「とりあえず思索は後回しにして、他の三ヶ所も見に行こう。人間が使用できるダンジョンコアなんて危険物、野放しにしておけない」

 他の三ヶ所にも、脱天集会のローブを着た亡骸があり、そしてダンジョンコアがあった。
「しかし、そんなこと可能なのか?」
 三郎は実物を見させられても、まだ信じられていないようだった。
「そんなの、試してみれば分かるだろ」
「おい、大丈夫か?」
 三郎が制止するのも構わす、オレはそう言って一つのダンジョンコアを手に取ると、魔力を流してみる。すると……全く反応しなかった。
「三郎やってみて」
「お、おお」
 オレに言われるがままに三郎がダンジョンコアに魔力を流すと、

 カラン……

 と小さな魔核がダンジョンコアから生み出された。
「マジか!?」
 驚く三郎を横目に、オレは魔核(それ)をそこら辺に転がっていたいた石に埋め込んだ。すると、

 ぶるるん

 魔核を埋め込まれた石はスライムへと変態したのだ。
「スゴいな」
 オレの口から感嘆詞が漏れる。生まれたばかりのスライムは、その場から動かず、目など無いはずなのに、じっとこちらを見ている気がした。何かを期待している。
「命令待ちをしているんじゃないのか?」
 と三郎。なるほど納得だ。オレはスライムにオレたちの周りを一周するように指で命じてみた。
 するとスライムはその命令通りオレたちの周りを一周して止まった。う~ん、命令に忠実だけど、賢いのか?
 オレはそこら辺に落ちていた木の枝を放り投げて、スライムに犬のように取ってこい、と命じてみる。
 するとスライムはピョンピョン跳ねながら木の枝を取りに向かった。それなりの知能があるようだ。スライムでこれなら、もっと大型の魔物なら、もっと知能も高そうだ。
「ヤバいな」
「ああ、ヤバいな」
「何がヤバいって、これがあれば一生金に困らないのがヤバいな」
「そっちかよ!」
 と三郎に呆れられてしまった。そこに丁度スライムが枝を体に突き刺しながら戻ってきた。うん、ちょっと可愛いかも知れない。

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