マグ拳ファイター!!

西順

178

「やってられるかあ!!」
 少年が切れている。戦士だろうか? 革の胸鎧を着て腰には剣がぶら下がっている。少年は辺り一面瓦礫と化した街で、その瓦礫の後始末に追われてきた。確かに、戦士のやることではないかも知れない。
 しかし嫌だねえ最近の若者は切れやすくて。いくら来る日も来る日も瓦礫の始末をしているからって、切れても何の解決にもならないだろう。
「いいからやりなさいよ! これだって立派な仕事よ! お金だってもらってるんだから!」
 冒険の仲間(パーティー)だろうか? 魔法使いらしいローブを着た少女が、仕事を投げ出そうとしている少年を叱っている。そのさらに外縁では、他の仲間たちが呆れた目で二人を温かく見守っていた。
「あー、ここらで一息吐きましょうか?」
 先頭に立って瓦礫の始末をしていた壮年の学者が、気を使って休憩を申し出てくれた。

「ふう」
 オレはまだ始末の終わっていない瓦礫の上に腰を下ろし、マジックボックスになっているポーチから水筒を取り出すと、中の水を一口飲み下した。
「すまないね、リンタロウくん。君のような上級冒険者に、こんな雑用をやらせてしまって」
 先ほどの学者、アキジロー氏がクッキーを持ってこちらにやって来た。
 緑の髪に白髪が混じり始めたアキジロー氏は、この"元"街だった瓦礫の海で時計塔の修復に携わっていた学者だ。
「いいッスよ、これぐらい。いつもの修行に比べれば楽なもんです」
 オレはアキジロー氏からクッキーをもらいながら、愛想笑いを返す。
「ハッ、何良い子ちゃんぶってんだよ。自分だってこんなことしたくないと思ってるくせに」
「バカ! 聞こえるわよ!」
 少し離れた場所で、さっきの少年がパーティーで輪になって休憩している。独り言にしては大きいな。
 確かにオレがこの街に来たのは、脱天集会の痕跡を探るためだが、この瓦礫の海ではそれを探すのは困難だ。人海戦術で瓦礫を片し、その中で手掛かりを見付けるのが建設的だろう。それに肉体的に修行より楽なのも事実だ。
 少年は、オレが何も気にせずクッキーを頬張っているのを見ると、「フン」と鼻を鳴らして、
「オレは瓦礫漁りがしたくてこのゲームを始めたんじゃないんだよ! もっと血湧き肉踊る冒険を求めてこのマグ拳を始めたんだ!」
 誰も訊いていないことを話し始める少年。血湧き肉踊る冒険、ね。それはそれで大変なんだぞ、少年。
 彼らはどうやらマグ拳2の第一陣プレイヤーらしいが、オレのような1からの継続プレイヤーではなく、2からの新規プレイヤーのようだ。
「じゃあ何でこの仕事取ってきたのよ? あんたじゃない、この仕事取ってきたの!」
 と魔法使いの少女が少年を責める。
「うぐっ、いや、それは、パーティーの資金が底を突きそうだったから、瓦礫片すだけなんて、楽に稼げると思ったんだよ!」
 正直者だな少年は。自分たちが暮らしていた街が瓦礫に変えられた住民たちだって、周りで作業しているのに。めっちゃ白い目で見られてるな。
「とにかく、仕事は仕事よ! 一度受けたからには全うしないと」
 全面的に正しい少女に、ぐうの音も出ないくらい言いくるめられる少年だった。

「まさか、フィズィがあのようなことをするとは、当日まで誰も気付きませんでした。彼女は、とても真面目な助手でした」
 その日の夜、オレはアキジロー氏のテントにお邪魔し、時計塔乗っ取りの経緯を聞いた。
 フィズィというのは、時計塔でオレと烈牙さんに邪眼を仕掛けてきた女だ。
「何でも王政が廃止される時のいざこざで、両親を亡くしたとは人づてに聞いてはいました」
 ふむ、その頃かな? 脱天集会に入信したのは。
「当日はどのような感じだっんですか?」
「…………あの日、我々合同チームが指令室で時計塔の起動に成功すると同時に、時計塔に隠れていた一団が指令室に雪崩れ込んで来ました。我々も抵抗しようとしたのですが……」
「フィズィの邪眼によって動きを封じられてしまった」
「はい。次に気が付いた時には、我々は街に放り出されており、街はもう火の海でした」
 アキジロー氏は当時を思い出したのか、青い顔で歯噛みしていた。
「それで、何故我々双翼調査団に助けを求めたんですか?」
 とオレが質問すると、アキジロー氏は首を傾げる。
「いえ、我々は直接首都に連絡し、応援を求めましたが?」
 ? どういうことだ? アキジロー氏ら合同チームが冒険者ギルドに救援要請したんじゃないのか? じゃあ、街の誰かがしたのだろうか? でも、一介の街人の救援要請が、国外のオレたちまで届くだろうか? 
 普通は冒険者ギルドでストップして、国内の冒険者に仕事が割り振られるんじゃないか? しかもオレたちが時計塔に着いたとき、オレたち以外に冒険者はいなかった。それじゃまるで奴らの狙いがオレたちだったみたいじゃないか。
 いや、その可能性はあるな。脱天集会って名乗ってるくらいだ、天の使いは敵なのかも知れない。オレの憶測だけど。でもそれだとまたオレたちが狙われる可能性があるのか。やっぱり面倒臭い展開になりそうだ。

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