マグ拳ファイター!!

西順

177

「あー、疲れたー」
 オレは宿屋の自室のテーブルに金袋を放り投げると、椅子にもたれ掛かった。
「お疲れ」
 当然のようにオレの部屋にいるブルースと三郎は、金袋の中身を検算している。
「一億以上あるな」
「一億五千万」
「ずいぶん奮発したな。相場の20倍近いぞ?」
 驚いているが、一千万というのは、相場とそれほどかけ離れている訳ではなかったようだ。
「半分は前金だよ」
「どういうこだ?」
 オレはことのあらましを二人に話した。

「それだと二千万しか受け取っていないことになるが?」
 と二人が首を傾げる。
「その後だよ。第一機甲騎士団の屯所を出たところを待ち伏せされてたんだ。緑の甲冑を着た第二機甲騎士団の人間に」
 その後第二機甲騎士団の屯所に連れていかれ、第一機甲騎士団の屯所で行われたやり取りと同じようなやり取りがなされた。ただし金額には多少の色を着けて。
 その後も第三、第四、第五機甲騎士団からも待ち伏せをくらい、中心部屯所で同じようなやり取りがなされた。皆、前の屯所より金額に色を着けるものだから、結果オレが受け取った金額は一億五千万ビットになったのである。
「しかし、五つある機甲騎士団全てが、他の四つの機甲騎士団を疑っているとは、バカらしい話だな」
 三郎にオレがうんうんと頷いていると、
「五つ全ての機甲騎士団から前金をせしめるやつも大概だがな」
 とブルースに窘められてしまった。
「どうするんだ? 適当な報告書出すと、不協和音がさらに酷くなるぞ」
 とブルースに睨まれる。そっかー、適当な報告じゃダメなのかー。
「とりあえず、調べるだけ調べてもらっていい?」
 オレが手を合わせてお願いすると、二人に呆れた顔をされてしまった。

「で、二人の方はどうだったの?」
 オレは水差しからコップに水を注ぎながら尋ねる。
「邪教集団の名前が分かった」
 ほうほう?
「脱天集会だ」
 脱天集会、ね。
「教義としては、居もしない天のマザーから脱却し、地の精霊を信仰しよう、というものらしい」
 居もしないマザーねえ。オレたちそのマザーと会ってるんだけど。三郎がブルースの話を聞きながらすげえ嫌そうな顔してる。
「その、地の精霊っていうのは?」
「分からん。ただ「精霊(ガイスト)」と呼んで信仰している。いるのかいないのか、定かじゃないな」
 まあ、マザーも「マザー」だし、信仰の対象に決まった名前は付けないものなのかもなあ。でもそれだと狐狸妖怪の類いでも分からないなあ。
「それと教主の名前が分かったぞ」
 ほうほう?
「エヴァンジーという男だ」
 おそらくスピーカーの男だな。
「自らを解放者と名乗り、カルトランドがまだ王政だった頃から活動し、王政の終焉を予言で当てたことで、王政崩壊で割りを食った市井の人々から信仰が集まるようになったらしい」
「王政の終焉を当てたねえ。たまたまだろ?」
「当然だろ? だが人間ってのは、信じたいモノを信じる生き物だからな」
 機甲騎士団の団長さんたちは、他所に悪瘡(あくそう)があると信じ、市井の人々はこんな廃れた国を放っておくなんて、天にマザーがいないから、だと信じているわけだ。マザーも、こんなところまでリアルと同じようにしなくても良いのに。
「居場所は?」
「そこまでは掴めなかった」
 そうか。さて、どうしたものか。
「分かった。そっちはオレが引き継ぐから、二人は騎士団の調査をしてくれ」
「それは構わないが、当てはあるのか?」
「確か、修復のために時計塔が運び込まれた街が、時計塔で滅ぼされていたはずだ。その街に行ってみて、痕跡が残ってないか探ってみる」
「分かった。じゃあその間にこちらは騎士団関係を洗ってみよう」
 話がまとまったところで解散。二人で部屋から出ていこうとして、ブルースが振り返る。
「リン、気を付けろよ」
「ブルースと三郎もな」
 そんな挨拶を交わして二人は部屋から出ていった。

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