マグ拳ファイター!!

西順

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 ーーノルデンスタッド。
 カルトランドの首都である。
 カルトランドは今、諸侯連合国家という変わった政治体系をしている。マグ拳1の時は普通に王国だったのだが、マグ拳内で二年、2になると王家は廃れ、各地の諸侯が集まって行われる合議制の国家に替わっていた。これがうまく機能していないので、先日の時計塔のようなバカ惨事が度々起こっているとかいないとか。

 そんな国の体を半分失ったような国の首都に、オレ、ブルース、三郎の三人で来ている。他の皆は他の用事で来ていない。今の双翼調査団は売れっ子なのだ。
 今回カルトランドに来たのには二つ目的がある。
 一つは時計塔での報酬の受け取り。カルトランドの冒険者ギルドを通して、とのことだったので、こうして再度カルトランドに来たのだ。まあ、実際には冒険者ギルドにいくらか払って送ってもらっても良かったのだが、こうしてカルトランドにわざわざ足を運んだのには、二つ目の目的が関係している。
 二つ目は、あの邪教集団の情報収集である。結局逃がしてしまった邪教集団。オレたちは直接対峙までしたのに、あの集団の名前さえ知らないのだ。なのでこれを機に、あの邪教集団のことをできるだけ調べておきたい。
 ブルースからは、そんなに執着するなんて珍しい、と言われたが、何故かオレはあの邪教集団とは今後も敵対しそうな気がしてならないのだ。

 そんな訳でブルースと三郎に邪教集団の情報収集を頼み、オレはその間に冒険者ギルドで報酬を受け取ろうとしていたのだが、
「は? できない?」
 ギルドの受付のお姉さんに、受け渡しができない、と言われてしまった。
「どういうことですか?」
 首を傾げてお姉さんに尋ねていると、
「リンタロウ殿ですね」
 と赤い甲冑を着た青年が声を掛けてきた。第一機甲騎士団だとすぐに分かったが、顔は知らない。あの時は皆、兜で隠れていたから。
「どうも、ハイルングと言います。第一機甲騎士団では救護兵をしています」
 ああ、天使たちを看てくれた救護兵か。
「あの時はありがとうございました」
 とオレが頭を下げると、
「やめてください。命の恩人に頭下げさせた、なんて団長にバレたら、オレが後で叱られます」
 ふむ、そう言うものだろうか? オレは言われて頭を上げる。ハイルングさんは困った顔をしていた。
「それで早速で悪いのですが、付いてきてもらっても良いですか?」
 そう言ってハイルングさんはギルドの外へ歩き出した。まあ、こちらとしても断る理由もないので、オレはハイルングさんの後を付いていった。

 着いたのは第一機甲騎士団の屯所だった。
「いやぁ、すみませんね、わざわざこちらまで来てもらって」
 第一機甲騎士団の団長、アルトアイゼン氏は知らない茶髪の刈り上げ、同色の瞳の好漢だった。
 団長の部屋の応接間に通され、第一声で頭を下げられた。しっかりと。確かにこの人にオレが頭を下げたのがバレたら、ハイルングさんは〆られそうだ。
「これは、今回の報酬です」
 そう言われて一千万ビットが入った金袋を渡された。これが高いのか安いのか、マグ拳内のオレの金銭感覚では分からなくなってきてるな。
「しかし、何でこんな手の込んだことをしたんですか?」
 わざわざ屯所で受け渡ししなくても、ギルドで事は済んだはずだ。
「それなのですが、実は名高い双翼調査団に一つ頼みごとをしたいのです」
「はあ?」
 オレは出されたお茶を飲みながら、曖昧に返事をする。
「どうにも国内がキナ臭いのです」
 キナ臭い、ねえ。
「リンタロウ殿も先の時計塔の一件で痛感されたと思いますが、今、カルトランド国内の命令系統は滅茶苦茶です」
 それはそうですね。オレは頷きを返す。
「どうやらその滅茶苦茶になっている命令系統の隙間を縫う形で、私腹を肥やしている者がいるようなのです」
「はあ?」
「その調査をしていただけないかと」
 確かにうちは調査団って名前だけど、国一つを調査しろ、と言われても困る。
「具体的にどこか怪しいとかあるんですか?」
「あります」
 あるんだ。
「第二、第三、第四、第五機甲騎士団とか、凄く怪しいと思っています」
 …………なるほど。これはあれか、できて間もない若いこの国の、命令系統が確立していないうちに、ライバルの暗部を衆目に晒して、蹴落としたい、ということか。
「これは前金です」
 とオレが返事ををするより先に、アルトアイゼン氏は、一千万ビットの入った金袋をテーブルにドサリと載せる。
「ハァー、何も出なかったとしてもオレを恨まないでくださいね」
 そしてオレとアルトアイゼン氏の間で握手が交わされた。

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