マグ拳ファイター!!

西順

168

 その男は浪人のような和装で、打刀を二本握っている。双剣士と言うより、二刀流の侍だ。
 双翼調査団とマギノビオンで組んで通路を右往左往していると、突き当たりの広間にその男と、女がいた。
 黒いシスター服を着ているくせに、目付きの悪い女だ。
「あの男がパウロだろ?」
「ええ」
「横の女の人は?」
「知らないわ」
 嫌な予感しかしないな。
 パウロと女がオレたちを発見すると、ニヤリと笑う。なんだろう? この人たちは他人を見下さないと生きていけない生き物なんだろうか?
「あんた、ファルシフィックのパウロだろ?」
 オレが声を掛けると、パウロは少し驚き肯定の頷きを返す。
「良く分かったな?」
「あんたらファルシフィックは、聖人になぞらえたチートを使うからな」
 ほう、と感心したように何度か頷くが、目線がやはり見下している。
「隣のあんたはマルタか?」
「あら? あなたたちとは初顔合わせだと思ったけど?」
「ジャンヌとニコラスとヨハネは倒した」
 オレのこの言に、今まで余裕だった二人の顔が真剣なものに替わる。
「そう、なら消去法で私がマルタだってなるわね」
 そう言うことだ。
「で、次は私たちを倒そう、と?」
「ああ」
「できると本気で思ってるの?」
 それは自分たちは他三人とは格が違うと言いたいのかな?
「こっちにも引けない事情があるんでね」
 オレのこの言葉を契機に、場にいる全員が戦闘態勢に入る。


 ジャリン!

 パウロが刀を打ち鳴らしただけで、視界が暗転する。視界は漆黒で何も見えない。が、オレたちはそれで慌てるほど柔な鍛え方はしていない。共感覚を鍛えているから、オレたちは見えていなくても見えているように行動できるのだ。
 オレたちがまるで見えているかのように広間を一直線にパウロ、マルタに向かっていくと、驚いたのは向こうの二人だ。
 それに対してマルタが動いた。帯のような布を取り出し、それが床に触れたと思うと、床が競り上がり、その姿をドラゴンへと変容させる。
「何だあれ?」
 とはブルースだ。ガトリング銃を構える手が止まる。
「聖マルタには、ドラゴンを捕らえたって伝説があるからな。それに準じているんだろ」
 オレの説明に納得したのか、ブルースたちがガトリング銃をドラゴンにぶち当てていく。
「ちいっ!」
 まるで効いていないオレたちに、パウロが打刀を二本、上段に構えて振り下ろしてくる。そこから発生する衝撃波。そんなの当然避ける。
 歯軋りしてこちらを睨み付けるパウロは、

 ジャリン!

 とまた刀を打ち鳴らした。
 今度は耳が聞こえなくなった。なるほど、あの刀を打ち鳴らすと、五感が失われるのか。
 ここで聴力を失くしたマギノビオンの面々が、平衡感覚を失い、床に倒れ伏す。
 そこへパウロの衝撃波とマルタのドラゴンが襲い掛かる。

 ガシィンッ!

 だがそれはマヤの大盾によって防がれてしまう。
「くっ!」
 ドラゴンが一体では足りないと感じたマルタが、さらに床を、壁を、帯で撫で擦ってドラゴンを呼び出す。
 パウロも、ジャリンジャリンジャリンジャリンと何度も刀を打ち鳴らし、オレたちは五感全てを奪われてしまった。
 そこへ迫るパウロの衝撃波にマルタのドラゴンたち。
 だがそれを、マヤがミスリルの大盾を要塞のように展開して、防いでみせる。それはまさに映画でホワイトナイトが構築してみせるあの城塞だった。
 後退るパウロとマルタ。全ての感覚が閉ざされれば、当然オレたちが行動停止になるだろう、とでも思っていたのだろうが、うちの鬼教官をなめるなよ! きっちり第六感まで鍛えられとるわ!
 そして城塞の上に立つ鬼教官ことマーチと烈牙さん。
 二人は、それこそ瞬間移動のような速さで、ドラゴンたちを斬り裂きながらパウロとマルタに迫っていく。
 そして八つ裂きにされる二人。だがそれでも肉体が微動しているのが気持ち悪い。
 オレは解除された盾から進み出ると、死ねない二人にピックポケットを突き刺してやった。
「これで残るファルシフィックのメンバーは、リーダーのゲオルギオスのみか」
 とオレが口にしたところで、強烈な世界振動が起こり、オレたちがいた広間は崩壊、その場にいた全員は、ジャングル広がる中空へと放り出されたのだった。

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