マグ拳ファイター!!

西順

158

「何よ、勝ったって言うのに、浮かない顔ね?」
 舞台袖に戻ってきたオレに、マヤがそう語り掛けてくる。
「そりゃそうだよ。新必殺技を出したって言うのに、相手気絶しただけだぜ? 勝った気がしない」
「周りからしたら、逆に良く勝てた、って感じみたいだけど?」
 マヤが指差すのは、呆けた顔でオレを見ているカルーアだ。それをマヤがニヤニヤ見ている。溜飲が下がる思いなのだろう。
「ハァーーーーー、やられたー」
 そこに気絶から目を覚ました獅子堂くんがやってくる。身体中ボロボロなのに、何かすっきりした顔をしている。
「いやあ、まさか烈牙さん以外で敗けるとは思ってませんでしたよ。リンタロウくん強いなあ」
 そんな爽やかオーラを出されても、こっちは勝った気してないんだけど。
「どうかしました?」
「いや、別に」
 とオレは恨み節を呑み込み、マヤの方を向く。
「次、烈牙さんとだな。どうだ?」
 見ればマヤの体が震えている。そのくせ顔は爛々とした笑顔だ。
「大丈夫か?」
「何でかなあ。さっきから体の震えが止まらないのよね。なのに烈牙さんとやるのが楽しみで堪らないのよ」
 ふむ、ビビっている訳じゃないのか。ってことはこれが噂に聞く武者震いってやつか。
「ま、ビビってるんじゃなきゃ、何だっていいや。楽しんでこい」
「ええ!」
 オレが出した手を、マヤが勢い良く叩く。そうしてマヤを送り出すと、
「なんじゃ、リンタロウ殿はマヤ殿だけ贔屓するのか?」
 何か烈牙さんが拗ねている。
「いい年こいて何やってんすか。決勝で待ってますよ」
「うむ。行ってくる」
 烈牙さんとも手を叩き合い準決勝に送り出す。

 しかしスゴいものだ。感心する。オレと獅子堂くんとの闘いでできたクレーターが、すでに直され、石畳の舞台に替わっている。先ほどの爆発も結界に封じ込められてたし、サポート体制は万全だな。
 などと思っている間に開始の銅鑼が鳴らされた。
 立ち上がりは静かなものだった。愛刀麒麟児を正眼に構える烈牙さんに対して、マヤがポーチから大盾を取り出す。その間に攻撃すれば簡単に倒せるだろうに、それをしないのは侍としての矜持なのか、決闘に臨む者の礼儀なのか。
 烈牙さんが動かないうちに、マヤは大盾を取り出し構える。それも二枚。右と左、両の腕に大盾が構えられている。
「なんだあれ?」
「リンタロウくんも知らないのかい?」
 舞台袖でオレと並んで舞台を見ていた獅子堂くんに尋ねられるが、
「オレとマヤは師事している先生が違うからな。必然、マヤの戦型(ファイトスタイル)も分からなかったりする」
 それにマヤの成長速度はオレより早い。オレが足踏みしているうちに、さっさと先に行ってしまうのだ。
「ふん。大盾二枚とか、扱える訳ないわ!」
 マヤを忌々し気に見るカルーア。普通はそう考えるよねえ。でもできないことを実戦で実践するマヤじゃない。
「よいかな」
「ええ。準備できたわ」
 烈牙さんの問いに、大盾二枚を持って仁王立ちするマヤが応える。それが構えであるらしい。
「では」
 と烈牙さんは一回戦で見せた軽快なステップを踏み始める。直後、消えたかと思うほどの速度でマヤの後ろに回った烈牙さんが、上段から縦に一閃食らわせるが、

 ギィンッ!

 金属同士がぶち当たる甲高い音とともに烈牙さんの麒麟児が弾かれる。
 マヤは後ろを向いていない。腕をぐるんと前後に回しただけだ。
 だがそれは烈牙さんも想定内だったようだ。すぐに態勢を立て直すと、今度はマヤの前方に素早く回り込み、跳ねて上から、隙間を狙うように突きを繰り出す。
 が、マヤは今度は大盾を上方へ拡張させることで防いでみせる。
 これも想定内らしい烈牙さん。上下右左前後と、袈裟懸け切り上げ突き胴薙ぎ、あらゆる場所からあらゆる攻撃を試していき、小さな隙間をこじ開ける作戦らしい。
 それに対してマヤは足はあくまでどっしり構え、腕を振り、大盾を展開し、拡張し、まるで大盾が生きているかのように烈牙の攻撃に合わせて最適解の防御をしてみせる。
 片や攻撃特化の侍に、片や防御特化の大盾使い。
 どちらが優れているかの矛盾を突く闘いに、観客たちもヒートアップしていく。
 時計回りに、逆時計回りに、頂天から、死角から、どれほど早く、どれほど正確に、針に糸を通すような、綱渡りをするような、互いに互いの精神と神経を削り合う闘い。
 それはとても華麗な舞いで、見ているこっちまでヒリヒリするような、ゾクゾクするような、一瞬たりとも目が離せない、いつまでも見ていたい、そんな闘いだった。
 が、それは終局を迎えつつあった。それは、オレだけでなく、その場にいる全員の予感だったと思う。何かの歯車が噛み合わなくなってきている。そんな感じだ。そして、
「はああああああッッ!!」

 ガキイイインッ!

 真剣白刃取り。おそらくとてもポピュラーな技だろう。だがそれを実践するのは無謀である。やろうと思った者は、まず間違いなく真っ二つにされて死ぬ。しかしマヤはそれをやってのけたのだ。
 それだけでない。マヤの二枚の大盾によって挟まれた烈牙さんの愛刀麒麟児は、無惨にも砕け折れたのだ。
 これでマヤの勝ちだ。誰もがそう思っていた。烈牙さん以外。
 烈牙さんは折れた愛刀から素早く手を離すと、自身の懐に手を差し入れ、勝った、と油断するマヤ目掛けてそれを撃ち出した。

 スコンッ

 当たったのは棒手裏剣だった。10センチほどのそれは、見事にマヤの眉間を串刺しにし、マヤを消滅しせしめたのだった。
 準決勝第二試合は、こうして幕を下ろした。

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