マグ拳ファイター!!

西順

155

 次の試合は烈牙さん対マホロバさん。
 黒いローブに樫の杖を持った男。マホロバさんは生粋の魔法使いだ。地水火風を自在に使い、敵を自身の元まで寄せ付けない、積極攻撃系遠距離タイプだ。
 おそらくこの闘いの結果は、距離の取り合いで決まる。
 遠距離での魔法攻撃で烈牙さんをその場に釘付けにできれば、マホロバさんに勝機があるだろう。
 一見すると闘う前だと言うのに、二人とも穏やかな表情をしている。マホロバさんなんて猫背も相まってちょっと気弱そうに見えるぐらいだ。

 開始の銅鑼が鳴らされる。
「ふははははははは!!」
 といきなりマホロバさんは両手を広げて高笑いを始めた。気がおかしくなった訳じゃない。マホロバさんは戦闘になるとスイッチが入るらしい。
 天を仰ぎ高笑いを続けるマホロバさん。それまでの烈牙さんの闘いなら、一撃で終わらせていたはずだが、今回はそうもいかなかったらしい。
 何故なら、マホロバさんが高笑いを始めると同時に、マホロバさんを中心に、マホロバさんを囲うように半透明のドーム展開されたからだ。
 鞘から太刀を抜き放った烈牙さんが、大上段からそのドームに一撃与えると、ギンッと言う音とともに跳ね返される。
「どう? バリアよ! スゴいでしょ!?」
 と横のカルーアが自分ことのように威張っているが、凄いのはマホロバさんだ。そしてバリアぐらいならオレでも使える。烈牙さんレベルに対処できるかは疑問符が付くが。
 余程強固なバリアなのだろう、烈牙さんがどれほど斬り込んで掛かっても、バリアは微動だにしない。
 と策を考えるためにか一旦距離を取った烈牙さんに、マホロバさんが追い討ちを掛ける。
 ザッとマホロバさんが杖を持つ手を烈牙さんに向けると、そこに炎の竜巻が立ち上ぼり、烈牙さんに向かっていく。
 速度自体はそれほどない炎の竜巻を、烈牙さんは軽々避けたが、この炎の竜巻、追尾機能が付いていた。烈牙さんが避けても避けても追ってくる。
 仕方なく烈牙さんが太刀で斬り裂くと、形が崩れたことで炎の竜巻を形成していたところに余計空気が入り込み、

 ボンッ!

 大爆発が起こった。
 近くにいたためモロにその爆発を食らった烈牙さんは、吹き飛ばされ舞台上を転がる。
 が、とっさに飛び退いたのだろう、烈牙さんはほぼ無傷だった。
 だが烈牙を襲う脅威はこれで終わりではなかった。気付けば炎の竜巻が10個も舞台上に発生していたのだ。これは無傷で乗り切るのは至難の業だろう。
「仕方ないのう」
 逆巻く炎の中、烈牙さんの清涼な声が舞台袖のオレの元まで届いた。と同時に、烈牙さんが今までの、スッと腰を落とした地に足の付いたスタイルから、何かリズムを刻むような軽やかなものに替わる。
 その直後だった。10個あった炎の竜巻が、ほぼ同時に弾け飛んだのだ。烈牙さんのあまりに速い10連撃。修行で見慣れていたオレでさえ、烈牙さんが10人いるかのように錯覚してしまった。観客席の一般人なんて、何が起こったのか理解できていないはずだ。
 それは魔法特化のマホロバさんも同様だったらしく、それでも烈牙さんが何かやらかしたらしいとの危機察知は働いたのか、バリアのドームが厚くなった。そこに、

 ギギギギギギギギ……!!

 烈牙さんの超速を超える神速の剣撃が、間断なくマホロバさんのバリアに襲い掛かる。
 その連撃はゆうに100を超え200を超え、500を超えたところでマホロバさんのバリアが耐えきれなくなり吹き飛んだ。
 その後立て直す余裕など烈牙さんが与える訳もなく、マホロバさんは烈牙さんによって上下二つに別たれて消えていった。
「まさか、烈牙さんのスピードに、先があったなんて……、リン、知ってた?」
「いや、オレも今初めて見たよ」
「うへえ、私次あの人と闘うのかあ」
 マヤが嫌そうな顔をしていると、
「ちょっと? 何おかしな妄想してんのよ! じいじと次に対戦するのは私なんだけど?」
 とカルーアが食って掛かる。だがマヤはそんなカルーアにチラリと視線を向けただけで、無視した。
「って、なに無視してんのよ!?」
 マヤはどうやらカルーアのことを相当嫌っているらしい。
「まあいいわ。次の試合できっちり吠え面かかせてあげるわ」
 カルーアからの宣戦布告にマヤは一瞥して、無視した。
「だから無視するんじゃないわよ!」
 女たちの闘いはすでに始まっていた。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品