マグ拳ファイター!!

西順

151

 闘いの終わったカルーアは、真っ直ぐこちらへやって来た。その顔は自信の笑みを湛えている。
「どう? 私の闘いは?」
「ああ、強かったな」
「でしょ?」
 腰に手を当て小さな体躯を後ろに反らすカルーア。
「あの大盾使い」
「確かに。中々やるわ」
「うちに欲しいくらいだわ」
 オレの一言にマヤやマーチが続く。天使たちもうんうん唸っていた。
「そっちじゃないわよ! その大盾使いに勝った私を誉め称えなさい!」
 と見事に突っ込んでくる。
「さて、オチもついたようじゃし、次はワシの番かのう」
 烈牙さんがカッカッカッと笑いながら舞台へと上がっていった。
 が、笑っているのは烈牙さんだけだ。舞台上の選手はもちろん、それを見守る観客たちも、先ほどのカルーアの盛り上がりが嘘のように静まり返っている。
 だがその視線だけは熱い。ここの観客は玄人揃いだ。烈牙さんの闘いは、一瞬でケリがつき、まばたき禁止なのを良く分かっている。
 そんなじっとり熱い会場の中心にいる烈牙さんは、知ってか知らずか、体をだらんとさせてどこにも力など入っていない、自然体である。
 銅鑼が鳴る。
 舞台上の選手たちが一斉に烈牙さんに襲い掛かり、その姿が誰からも見えなくなった次の瞬間、キンと鍔鳴りが、鍔と鞘口とがぶつかった音がして、舞台上の選手は消え去っていた。
 先ほどまでの静寂が、一転して大盛り上がりの会場。それに軽く手を上げて応えながら烈牙さんがこちらに戻ってきた。
「相も変わらず一撃ですか」
「見事ねえ」
 オレとマーチが手を上げれば、それにパンとそれをハイタッチで応えてくれる。
「ふふん、どうだ? うちの烈牙さんは凄かろう?」
 カルーアは歯噛みして悔しがっている。
「いや、凄いけど、リンタロウくん何もしてなくない?」
 獅子堂くんナイス突っ込み。でもカルーアにバレてしまった。
「そうよ! あなた何もしてないじゃない!」
 そんな鬼の首を取ったみたいに言われてもなあ。
「じゃあ、私行ってくるわ」
 マヤがカルーアを無視して舞台に上がると、会場全体から歓声が巻き起こった。
「何ごと!?」
 あまりの歓声に驚くカルーア。
「ああ、マヤは前にこの大会で優勝してるからな」
「嘘!? 聞いてないわよ!?」
 とカルーアが獅子堂くんの方を見ると、
「何を今さら。何度か説明したはずですけど?」
 聞いてなかったな。口笛吹いてとぼけていやがる。
 そんなやり取りをしているうちに、開始の銅鑼がならされた。マヤに視線を移すと、信じられないものを見ることになった。
 ドデカい大盾である。魔法で大きくしたのだろうが、舞台を覆い尽くすほどに巨大な大盾をマヤが持っている。
 そしてそれを舞台に叩きつけるマヤ。それで終わり。大盾を元の大きさに戻せば、全員、装備を残して消えていた。
「ど、どうだ。オレたちのクランメンバーは凄いだろう?」
「声が震えてるわよ?」
 いや、だって、それはそうだろう。マヤさんや、いったいどこまで強くなるっていうんですか?
「マーチ」
「何?」
「これはオレも一撃で予選通過した方が良いのかな?」
「…………さあ。それを決めるのは私じゃないわ」
 何か間が、気になる間があったんですが?
「どう?」
 マーチとそんな話をしている間に、マヤが戻ってきた。
「どう? って、強くなりすぎだろ?」
「まだまだよ。ヴィクトリアはもっともっと強いわ!」
 と握り拳で言われてもな。映画(ホワイトナイト)の話だろ? とは突っ込めなかった。

 その後、獅子堂くんが無難に予選を勝ち上がった。いや、素手で武装した30人を倒していく様は、スゴかったんだけど、前の二人が良くなかったよ。あの二人の後じゃなぁ。
 勝ち上がったと言うのに、何故かガックリ肩を落とす獅子堂くんに、とりあえずあめ玉をあげた。
「何か、しょっぱいッス」

 そしてオレの出番がやって来た。
「「「うおおおおお!!」」」
 オレが舞台に上がると、会場から大声援が巻き起こる。何故だ? オレがオペラ商会のエプロンしてるのがそんなに可笑しいのだろうか?
 とそんなことを気にしていられない。オレに声援が集まっているために、舞台上の選手たちの視線もこちらに集まっている。そんな中、開始の銅鑼が鳴らされた。
「で、あの化物二人と同じクランのお前も、一撃でこの予選を突破するのかい?」
 槍を構えた一人の男がオレに声を掛けてきた。ふむ。オレがマヤや烈牙さんとクランを組んでいるのを知っていると言うことは、カルーアのマギノビオンのメンバーだろうか? いや、湖岸の宿屋のことでオレたちのことは有名になってるからなあ。違うかも。ま、いいか。
「そうだ。って答えたらどうする?」
 オレがそう応えると、舞台上の全員が一斉に襲い掛かってきた。槍を構えたあの男が、剣を持った女が、魔法使いが、だがそれらの攻撃は、オレにはとてもスローに見えた。だってそうだろう? オレはあの烈牙さんに加え、マーチに連日しごかれていたんだよ。
 オレは皆がオレの下までくるまで退屈でしょうがなかったので、

 ズンッ!!

 一撃で終わらせた。
 パスで舞台上を空間指定して、そこに重力が掛かるようにしたのだ。皆、見事に舞台の石畳に叩きつけられ、ぷぎゃ、とか、ぴぶっ、とか変な声を上げてお亡くなりになられました。
 本日三度目の瞬殺劇に、会場は沸いてくれた。カルーアと獅子堂くんはかなり驚いてだけどね。

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