マグ拳ファイター!!

西順

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 浮遊島の戦争はヒンメルという第三の島で行われる。平地には岩がゴロゴロしていて、その他には禿げ山が2つあるだけの、大きいが寂れた島だ。
 両国ともに自国の景観を汚したくない、との美学で戦場をヒンメルにしていると語っていたが、歴史書を紐解いて見ると元々ヒンメルは緑と実りの多い島であった。その実り目当てに両国は戦争を始め、結果ヒンメルを草一本生えないような土地へと変えてしまったのだ。
 こういう話を聞くと世界中で保護が叫ばれている絶滅危惧種を想起するが、だからといってオレに何ができるだろうか? 今度リアルで募金なり献金なりすれば良いだろうか?

 ヒンメルに降り立ったオレたちがまずやるべきことは、陣地の設営である。
 ヒンメル内の端と端、2つある山の頂きにて睨み合うように陣地を設営していく。
 空を飛べる天使にとって、山の上に陣地を構えても意味がないんじゃないか、と思うかも知れないが、陣地の上を哨戒しなくても陣地から遠くを見渡せるのはそれでも十分有利に働くのだ。
 さらにこの戦争は食糧の取り合いなので、どこにどれだけ置くかで戦略が別れてくる。一ヶ所にドンと置いて、完全に守りに徹する、将棋で言えば穴熊戦法みたいなものも歴史書には記されていたが、ほとんどが二つ、三つ、それ以上に分割することで、一度に総取りにされるのを防ぐ作戦が執られていた。
 さて向こうがどうくるか? と遠目で見てみると、城を建てている山城だ。
 天守閣があるような聳える城と違い、無骨だが山城は地に添うように造られて降り、攻めにくい。本丸の他に二の丸、三の丸、四の丸までもあるようで、食糧も分散させているようだ。
 だが山城が攻めにくかったのは空を行く手段がなかった場合だ。飛行を得意とする天使たちでは上から攻められることになると思うのだが? 烈牙さんがそんなことを分かっていないはずがないし、誰かが進言しているだろう。ブラフとまでは言わないが注意はしておきたいところだ。
 対してこちらは敵との正面には何も置かず、山の裏側にマテリアルで等間隔に25もの食糧庫を造る、という変わった陣形を取らせてもらった。
 裏側なのでいちいち回り込まねばならず、さらに25個と攻める場所が多いので敵戦力の分散を考慮したのだ。しかも当たり外れがあり、全てに食糧が入っている訳ではない。
 陣地の設営が終われば、次は武器のメンテナンス。それが終われば作戦会議。気付けば戦争は翌日早朝の夜明けとなっていた。

 魔法の光が一つ浮かぶ作戦指令室にオレとブルース、二人きりである。
「ブルースには、今すぐに奇襲に出てもらう」
「ああ」
「作戦としては浮遊島の下をぐるりと迂回し、敵陣地のない山の裏側に夜が開ける前に到着してくれ。そして戦争開始の合図とともに山の裏から仕掛ける」
「分かった」
 それだけ言うとブルースは何人かの天使を連れて浮遊島(ヒンメル)の下へと飛び立っていった。

 深夜、寝ておかねばと横になっていたが、不意に目が覚めた。猛烈に喉が渇いていて、水を飲みに食堂へと行くと、すでに先客がいる。マヤとマーチだ。
「どうかしたか?」
「そっちだって、眠れないんでしょ?」
 言いながらマヤはコップに水を注いでくれた。それを一気に飲み干したのと同時に、ブルースから連絡が入る。
『すまん!』
「どうした?」
 いきなり謝ってきたということは不測の事態が起きたということだ。
『今、敵の先行部隊と交戦中だ』
「どうしてそうなった!?」
 敵も同じような作戦を取ってくる可能性は考慮していた。だから交戦しないようにブルースに行かせたのだ。
『すまん、見つけたのがオレじゃなく、しかも敵とほぼ同時、距離も近かったため、どちらともなく交戦状態に突入してしまった」
 くっ! これはもう開戦中と考えるべきだろう。
「マヤ、哨戒中の天使に警告の連絡を……」
 とここで遠くで花火が鳴った音がした。開戦の合図である。くっ! 後手に回っている。
「マーチは自部隊を叩き起こしてすぐさま敵陣地へ向かってくれ。マヤは連絡が終わったら自部隊を召集して食糧庫の防衛に向かってくれ」
「「了解」」
 オレは二人に指示し終わると、パスで花火の係に連絡。すぐにこちらでも花火を打ち上げてもらった。
 天使たちの戦争が始まった。

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