マグ拳ファイター!!

西順

105

 砂漠の行進は思っていたより100倍辛い。
 昼は灼熱、夜は極寒の、生命なんぞ一つも存在しないような砂の海を、一歩一歩砂に足をとられながら進むのだ。それだけでも大変なのに、砂漠は思っているより100倍うねっている。その畝(うね)の一つ一つが山のように大きい。つまり砂漠を進むとは、絶えず山を登り降りしているようなものなのだ。
 そして問題となるのがやはり教会がないことだろう。それさえあれば強行軍で進むこともないのだが、このシステム、呪いたいくらい腹が立つ。
「すまないな、二人に余計な負担をかけて」
「構わない。もう馴れた。だがら無駄口叩いてる暇があるなら歩け」
 絶賛、オレが三人より遅れていた。

 穴がポッカリ空いている。砂漠を西へ西へと歩いていたら、直径一キロはあるんじゃないか? という大きな縦穴を見つけた。
 深さも200メートルはあるその縦穴を、落ちないように覗くと、縦穴の壁面に横穴がボコボコ空いている。
「もしかして、住居か?」
「そのようだな」
 バフで視力を強化していたブルースが横穴の中に家具類を見つけたようだ。
「誰かいそうか?」
「いや、人気はないな。多分ここが難民たちが暮らしていた場所なんだろう」
 なるほど。
「降りてみよう。教会に聖典があれば記帳して休める」
 オレたちは住居跡の縦穴を一番下まで降りていった。

 教会は変なところにあった。
 一番下の広場に隣接しているかと思ったら、途中の横穴にひっそりとあったのだ。
 教会の横穴を突き当たりまで行くと、しかしてそれはあった。いや、その人はいた。
「何でこんなもう誰もいない住居跡の教会に、人がいるんだ?」
 ここの神父は難民たちと一緒にキャンプにいるはずである。
「ああ、神よ! なんということでしょう! 我が祈りを受け入れてくれたのですね!」
 また話が通じなそうな尼さんだ。オレたちがポカーンとしていると、
「この世界を牛耳ろうという悪に鉄槌を!」
 といきなり尼さんは袖から短銃を二挺取り出したのだ。

 パァンッ! パァンッ!

 乾いた炸裂音が室内に木霊(こだま)する。が、尼さんの攻撃はマヤの大盾によってがっちり防がれた。
「チッ」
 口の悪い尼さんは、すぐに短銃を投げ捨てると、また袖から短銃を取り出した。
 だがその攻撃は不発に終わった。マーチが人形で尼さんを取り押さえたからだ。
「ぐっ、おのれ、悪の手先めぇ!」
 スッゲエ睨まれてるが、
「人違いです」
「え?」
 オレの一言に気を取り直した尼さんが、マジマジとオレたちを見詰める。
「あ、おほほほほ、失礼しました」

「申し訳ありません。私は修道士をしております、シンデレラと申します」
 スッゲエ名前だな。
「で、何でオレらはシンデレラさんに襲われたの? まあ何となく分かるけど」
「申し訳ありません。国軍が最近この辺りをうろちょろしていたもので、勘違いをしてしまいました」
 だろうね。
「そんなに国軍のやり口はひどいんですか?」
「はい。領主が教会に与しているというだけで、街ごと攻め落とし、住民を皆殺しにするという蛮行は忘れられません」
 それはひどいと通り越しているな。三人も顔をしかめている。
「何でそんなひどいことしてんのに国軍の兵隊さんたちは反意を興さないんだ?」
「分かりません。彼らの結束は固く、仲間の死を乗り越えてこちらへやってくる姿は、まさに死神のようです」
 一度戦っているから分かる。あれは異常だった。
「なあ、もしかして洗脳されてるんじゃないか?」
 ブルースの言葉に皆がハッとする。
「可能性は高いかも知れない」
 洗脳された軍隊。恐すぎだろ。背筋を冷たいものが流れる感触がした。

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