マグ拳ファイター!!

西順

91

 サラマンダーーー。
 アキラ曰く、マンガやアニメ、ゲームなどにはよく出てくる、ときに精霊として描かれる火を司るトカゲだそうだ。
 それがオレたちの前にいる。うじゃうじゃと。背びれ? たてがみ? から火を吹き出した体長一メートル程のトカゲによって、地面だけでなく、側壁まで埋め尽くされている。物凄く暑い。
「これを、どうにかしろっての?」
「そうだ」
 オレの横にいるのは、火の出る槍を持ったオレたちを最初に見つけた小人、チスパだ。フレッド殿下たち巨人はお留守番である。なぜなら南の穴道を四つん這いでも通れなかったからだ。オレたちはも屈んで移動してきた。フレッド殿下たちの代わりに道案内として付いてきてくれたのがチスパである。
「やっと手足を伸ばせるぐらいの高さになったと思ったら、これか」
 アキラが愚痴る。気持ちは分かる。女子組なんて若干引いてるし。
「あいつらって弱点ないの?」
「冷たいものは苦手だが……」
 冷気か。地上(うえ)から雪を大量に持ってきて、ぶちこめばいいんじゃないか? とも思うが、手間が惜しいな。そういえば、ツヴァイヒルで銅スライムを倒すために、水と塩を使って極低温のナイフを作ったっけ。でも今なら……。

 オレは銅貨を一枚摘まむと、それにパスを通し、エフェクトで銅貨の温度をどんどん下げていく。冷たさが痛さに替わってきたくらいで、周りとの温度差で湯気が出てくる。
「これで良いか」
 そしてオレは極低温の銅貨を礫弾として一匹のサラマンダーに撃ち出す。と、

 ドォンッ!!

 爆発が起こった。とそれに連鎖してサラマンダーたちが爆発し始める。
「うわおああああああ!?」
 慌ててその場を逃げ出すオレらパーティー。ほうほうのていでなんとか広間まで戻ってくると、穴道は爆発による振動からの落石で、通行不能になってしまった。
「お前何をやった!?」
 オレに詰め寄るチスパ。皆からの視線も痛い。
「いや、冷たいものが弱点だっていうから、極低温の銅貨を撃ち込んだんだけど……」
「馬鹿か!? 冷たいものと熱いものがいきなり混ざれば、爆発が起こるのは常識だろ!!」
 あ! ハァー、忘れてた。これだから本だけの知識はダメなんだよなあ。
「すみませんでした」
「今度から気を付けろよ」
 そう言いながらチスパは違う穴道に入っていく。
「あ、他にも南に行く穴道があるんですね」
「当たり前だろ」
 うう、そんなに強く当たらなくてもよくないか?

 またサラマンダーが道を埋め尽くしている。
「今度はさっきみたいなことするなよ」
 言うチスパの視線が痛い。いや、皆の視線か。
「でも正味な話、どうすれば良いのか?」
 皆が頭を抱える。これをどうにもできないから小人たちも困っている訳で。
「そもそも、あのたてがみの火はどうやって出てるんだ?」
 オレはそれが疑問だ。
「やつらは火焔鉱を食べるんだ。それを消化して肺の裏にある二つの袋に液体として貯める。それを混ぜると炎になって噴き出すんだよ」
 なるほど海賊貴族のところにいたシャコに近いやり方だな。
「火焔鉱を食べるということは、ここが火焔鉱の鉱脈なのか?」
 とはブルース。
「ああ。今まで火焔鉱はほとんど採れなかったから、サラマンダーの数も少なかったんだが、最近になって火焔鉱の大きな鉱脈が見つかってな。それで大繁殖してしまったんだ」
「待って、サラマンダーって魔物じゃないの?」
 これはオレの疑問。
「サラマンダーはサラマンダーだ。魔物じゃない」
 こんなとんでも生物が、魔物でもなく普通に生存してるとか、なんかそっちの方がスゴいな。
「とにかく、こいつらをどうにかする方法を考えてくれ」
 火の槍は効かないんだろうなあ。下手に突いたらサラマンダーの袋の液体が混ざって爆発しそうだもんなあ。チスパが本当に困っているのだろうことが、声から分かる。
「こいつらってさあ、寝てるときも炎出すのかなあ?」
 オレの疑問に、皆が、「それだ!」って顔をする。

 で、ブルースのラッパで試してみた結果、微妙に火が出でいる。さすがサラマンダー。完全に火がでなくなるということはないようだ。だが暑さはかなり軽減されたので、近付くことができる。どうやらあのボウボウの炎はサラマンダーの警戒モードだったのだろう。
 近くでよく見てみると、首の後ろに穴が一つあり、そこから背骨を伝って液が流れていて、それが燃えている。なるほど、こうなってるのか。
 それでオレはなんとなくその穴を、近くの石で塞いでみた。とたんに苦しみだすサラマンダーは、一分程もがいた後、動かなくなってしまった。
「死んでる?」
「っぽいな」
 疑問を投げ掛けるアキラにオレは答える。
「何をやったんだ?」
 チスパが詰め寄ってきた。
「いや、炎が出てくる穴を塞いだだけなんだけど」
「それだけ!?」
「多分サラマンダーにしても火の元になる液体は毒だったんだと思う。だから炎として排出してたんだ。でもオレがその穴を塞いじゃったから、毒素の行き場がなくなって、死んじゃったんだろう」
 口からでまかせ、というか出鱈目、屁理屈だったのだか、皆が妙に納得して頷いている。まあ、オレ自身もさほど外れていないと思ってるけど。
 そんな訳で皆で手分けして寝ているサラマンダーの穴を塞いで回った。
「この死体どうすんの?」
「食べるぞ」
 チスパは嬉しそうにマジックボックスにサラマンダーを仕舞っていく。あれだけ嬉しそうにしてるということは、美味いのだろうか? オレたちも何匹かマジックボックスにサラマンダーを仕舞った。

 サラマンダーの排除後、待ってましたとばかりに小人たちがそこに雪崩れ込んできて、火焔鉱の採掘が始まった。
 採掘のことは分からないから小人たちに任せ、オレたちな広間に引き返して食事。やっぱり出てきたのはサラマンダーだった。味は旨味の濃い鶏のササミって感じて、オレは好きだったが、女子組の受けは悪かった。多分腕とか爪がついたまま出てきたのが良くなかったんだと思う。

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