マグ拳ファイター!!

西順

77

 夜闇に紛れて草影から屋敷の様子を伺えば、屋敷を囲っている人数は200かそこらのものだった。
 こうして見ると、ブリー青年の塩害対策による村民懐柔策が奏功していたのが分かる。だからこそサヴァ子爵はブリー青年を切り捨てたのだろう。
「ブルース」
 オレの声にブルースは頷きで返し、ラッパを吹き鳴らした。
 屋敷を含む敷地全体に響くブルースの澄んだラッパの音色。海賊たちはいきなり鳴り響いたラッパに何事か? とそれぞれ武器を取るが、警戒していたのもほんの数刻のこと、皆ブルースの催眠ラッパによってあっという間に夢の中に墜ちていった。

「これで良し!」
 屋敷の周りを警備していた海賊たちを縄で締め上げたオレたちは、堂々と表玄関から入ろうとして、その嫌な気配にサッと扉から飛び退く。

 ドンッ! ボンッ!

 内側から吹き飛ばされる玄関の扉。気配に気付けなければそれでゲームオーバーになっていた。
「な、だから言っただろ? あいつに不意討ちは通じねぇって」
 山野で聞いた声だ。確かタコ野郎。やっぱりふざけた名前だなぁ、と玄関の柱に隠れながら思う。
「チッ、これで倒せりゃ楽だったのによう」
 舌打ちの声に聞き覚えはない。マヤとファラーシャ嬢を襲った奴か。もう片方の柱に隠れるマヤを見ると頷いている。どうやら当たりらしい。
 ということは爆破使いか。マヤの話ではいきなり近くで爆発が起こったとか言ってたな。マヤに耐久力があるから無事だったが、オレじゃ一撃でアウトだな。
「おい、出てこいよ。それともかくれんぼが好きなのか?」
 と爆破使いはオレたちの方の柱を爆発される。
 くっ、隠れてても意味ないな。走り回ってた方がまだマシか。
 オレたち五人は意を決して頷き合い、屋敷の中へ入っていく。

 一階広い吹き抜けで、左右に上階に上がる階段があった。そして上階、二階の渡り廊下からこちらを見下ろす者が五人いた。
 シャークと呼ばれたモーニングの男を中央に、右隣にタコ野郎とベレー帽を被った弓使いの男。左隣に金髪ツンツンヘアーのパンクミュージシャンみたいな男と、手の先まで隠れる長い袖の服を着た妖艶な美女だ。
「ようこそおいでくださいました」
 恭しい態度で一礼するシャーク。戦場に合わないその態度のせいで裏が読めない。
「しっかし、いきなりラッパが鳴り響いた時には驚いたぜ。全員バタバタ寝ちまうんだからな。見つからないようにどうやってここまで来たんだ?」
 とタコ野郎。
「ああ、教えてくれよ。スズキは10km先でも見通せる視力があるんだ。お前らを見逃すはずがない」
 とパンク男。
「そうですねえ。今後の参考にお教え願えないでしょうか?」
 とはシャーク。今後の参考に、ねえ。マヤの方を見れば、首を左右に振っている。どうやら教えたくないようだ。今後こいつらとはどんな形でぶつかるか分からないからな。
「すまんが教えられない」
「残念ですね」
 ニコニコ顔でそんなこと言われても、まるで残念そうに見えない。

 オレたちがどうやってここまで来たのか。答えは大きくしたマヤの鬼面の大盾に隠れてやって来た、だ。そんなことで? と思うかも知れないが、これが中々侮れない。
 マヤの鬼面の大盾は魔力を込めると鬼の面が盾の表面に現れるが、これは現れないようにもできる。そんな時の鬼面の大盾の表面は鏡になっているのだ。これで周りの風景を写し出しながら進めば、中々良いカモフラージュになるのである。
 とはいえ所詮鏡、絶対に見つからない保証は無いので、万全を期して日が落ちてからの決行となった。

 さて、それよりオレにはさっきから気になっていることがあった。ブルースとマーチが、妖艶な美女を見たまま視線を動かさないのだ。
(どうかしたのか?)
 オレが二人に小声で話し掛けると、
「アリア姐さん……」
 誰に言うでもなく、マーチからそんな声が漏れる。
「なんだ姐さん知り合いなのか?」
 パンク男がアリアと呼ばれた美女に話し掛ける。
「昔、生きるのに困ってた二人に、ちょっと生きる術を教えてあげただけよ」
 つまりブルースとマーチの師匠ってことか。なるほど、こいつら五人が起きてる理由が理解できた。これはやりづらそうだな。
「師弟対決とは面白そうだなあ」
 本当に楽しそうに笑うパンク男。
「シャコ、そのくらいでいいたろ。オレたちはここにお喋りしに来たんじゃないぞ」
 スズキからシャコに冷静な突っ込みが入る。それに対して肩を上げておどけてみせるシャコ。
「さて、宴もたけなわ。これより狂乱の舞踏をともに踊りましょう!」
 シャークのこの言葉を合図に、戦闘が開始した。

「マグ拳ファイター!!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く