マグ拳ファイター!!

西順

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 どうやらファラーシャ嬢はルベウス国の出身であり、それもルビーやサファイアがよく採れる地方のお嬢様らしい。
 最近になってファラーシャ嬢の地方で採れるルビー・サファイアの値段が急落。原因をたどれば、アウルムで安い人工宝石が出回っているせいだという。
 これに激怒したファラーシャ嬢は王族に抗議と取り締まりの強化を進言するために、自らこの国に足を運んだそうだ。
 だが急な来訪であったためにアウルム王家の方でスケジュールが取れず、フィーアポルトで足留めを食らっていた。
 仕方なくファラーシャ嬢は宿を抜け出しプラプラしていたところ、オレたちが人工宝石を子供に売ろうとしてる現場を発見。先んずれば人を制すと父に教えられて育ったお嬢様は、速攻オレたちを攻撃してきたようだ。
「なるほど。まず言っておきたいのは、人工宝石を売っていたのは子供の方だ」
「何ですって?」
「私たちはこの人工宝石の捜査を、冒険者ギルドから依頼されてるんです」
 マヤの追言にファラーシャ嬢はシュンとなってしまった。
「だからお母様もいつも仰られているでしょう? 兵は神速を尊ぶとはいえ、将が兵の先出ては一矢も避けれぬ、と」
 とはおじいさん執事の言。ファラーシャ嬢は中々苛烈な家庭で育っているようだ。
「でも、国の鉱夫やその家族が困っているというのに、こんなまんじりとした気持ちで、ただ待っているなんて、私にはできません!」
 ホントに正義感の強いお嬢様なんだなぁ。って言うかうちの三人は何に共感してうんうん頷いているのだろう?
「リン、どうにかならない?」
「というかどうにかしろ?」
 マヤ、マーチ、オレを何だと思ってるんだ? 同情だけして対策はオレに丸投げか?
「まぁ、できることはあるよ」
「ホントですか!?」
 うん、嬉しいのは分かるけど、顔近い。ピンク髪の美少女に詰め寄られるとなんかドキドキしてくるな。
 それが伝わったのか、ファラーシャ嬢の方も顔を赤くして席に座り直す。
「何やってんの? リン」
 いや、冷ややかな視線を向けられても、オレのせいじゃなくね?
「あの、それで一体私たちは何をすれば良いのでしょう?」
「自国で人工宝石を造れば良いんだよ」
「…………はい?」
「自国で人工宝石を造れば良いんだよ」
「あ、聞き間違いじゃないんですね。…………って我が国に犯罪をしろと仰るんですか!?」
 また顔が近い。
「いや、誰もそんなこと言ってないから」
「言っているでしょう?」
「人工宝石を天然と偽って売るから犯罪なんだよ。人工宝石を人工宝石として売れば、何も間違ってないだろ?」
 とオレに言われ、ファラーシャ嬢は席に座り直した。
「…………確かに!」
 納得のようだ。
「しかし我が国には人工宝石造りのノウハウなどありません」
 は? …………ああ、そうか造ってるのはおそらくプレイヤーだろうからな。この世界の人には造り方が分からないのか。
「ここからは有料です」
「分かりました。払います」
 即決かよ。さすが神速の家系。
「ちょっと待って」
 そこに待ったをかけたのはマヤだった。
「そもそも人工宝石って需要あるの?」
 ああ、それね。
「あるよ。宝石というとアクセサリーが一般的かも知れないけど、人工宝石、ルビーだとその対磨耗性から研磨剤なんかに使われてるよ。あと腕時計の軸受けとかね」
「じゃあ、造ったはいいけど、売れないってことはないのね?」
「普通に安いアクセサリーとしても売れるよ」
「なあんだ。なら心配して損した」
 マヤはホッと一息吐いて、柑橘ジュースを飲み始めた。
「オレが関わるのに、損させる訳ないだろ」
 これに三人が頷く。分かってるなら良し。

「まさか、我が国の鋼玉と紅鉛から造られていたとは」
「そういうこと。だからこの国(アウルム)で造るにはどうしても輸送費が嵩むんだ。それならルベウスで造ってから流通に流した方がずっと安く済む」
 その場の全員が頷く。
「もっと安い人工宝石が正規で流通しちまえば、裏の人工宝石なんて、あっという間に廃れるさ」
「素晴らしい! なんて素晴らしい案なんでしょう!」
 言うとスックと立ち上がるファラーシャ嬢。
「じい」
「はい」
「王族との謁見は取り止めです。その旨を伝えておいてください」
「かしこまりました」
「では、国に帰りますよ!」
「はい」
 そう言ってファラーシャ嬢はオレたちにに一礼すると、場を立ち去っていった。
「さてと、人工宝石野郎をどう捕まえるかだが…」
「あ、それはやるんだ?」
「当たり前だろ? 人工宝石が正規で流通するのにどれだけ時間が掛かるか分からないんだから」
 こっちはこっちでチャチャッと片付けよう。

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