マグ拳ファイター!!

西順

42

(さて困った)
 オレは今、頭に眠らされた上に袋を頭から被され移動させられているはずだ。
何故「はず」なのかと言うと、オレは今、白い空間でソリティアをしているからだ。こんな説明じゃ話が全く通じないな。順を追って説明しよう。

 俺を襲った人形の凶刃は、オレが普段から常用している斥力バリアによって弾かれた。
 これによって現場は何事か? と軽いパニックになる。がそれはすぐに沈静化された。オレを襲った人形使いの片割れ、楽士のラッパが吹き鳴らされ、その音か曲に催眠効果があったのだろう。公園にいた人間がバタバタと眠っていく。オレも抵抗はしたものの抗い難く、眠ってしまった。
 そして眠り際に聴こえてきたのだ。男女の声が。
「兄さんごめん。まさか弾かれるなんて」
「気にするな。元々無理があった依頼なんだ。冒険者(プレイヤー)を殺せなんて。こいつらいくら殺したって復活するんだぜ? 一度殺したからって何の意味があるんだ。とにかく、こいつはフーガ様のところへ連れてこう」
 そう言って眠さで動けないオレの頭に袋を被せる男。そこでオレの意識は完全に眠りについた。
 ゲームの中で眠りにつくおかしな話だ。実際に眠かったから寝てしまった訳じゃない。魔法? で強制的に眠らされたのだ。その場合ゲームの進行はどうなるのか?
 それがソリティアである。初期ログイン時の白い部屋に気づいたら居て、ウインドウには15分からのカウントダウンと、ソリティア、マインスイーパの二種類のゲーム選択画面が映し出されていた。
(なるほど。しばらく暇になるのでこれで暇潰しをしててくださいって訳ね)
 そのように意を汲んだオレは、暇な15分をソリティアで潰していた。
 そして15分後………。

「!?」
 目を覚ましたオレは目の前の暗さに驚いた。
(そういや、袋を被されてたっけ)
 現状を把握しようと体を動かそうとするも動かない。体を伝わる感触から、オレはどうやら椅子に縛り付けられているようだ。
 と耳に怒鳴り声が響いてくる。
「誰が連れてこいと言った!! ワシは殺せと命じたんだ!!」
 怒鳴るオッサンは相当イライラしているようだ。
「申し訳ありません。でも」
「でももしかしもないんだよ!!」
 バキッ
 声の感じからして、あの公園からオレを連れ去った二人の片割れ、兄さんと呼ばれていた方がオッサンに殴られたようだ。
「全く使えねえなあ。道端で食うに困っていたお前らを、誰が拾ってやったと思ってるんだ!!」
「フーガ…様……です」
「だったらオレのために働け!! 一体こいつにいくら損させられたと思ってるんだ!? お前らをじゃ一生稼げないような金額だぞ!!」
 恩着せがましいオッサンだな。しかし損ねえ。もしやオレが星胡椒を流通させたことで損失を出した胡椒商人か?
「人ひとり殺せんとはとんだ見込み違いだ。おい。こいつと一緒このバカどもも殺せ」
 えええ!? いやいや、オレはまた復活できるけど、二人は殺したらホントに死んじゃうじゃん!
「んー! んー! んー!」
 オレはそんなことされる前に暴れることで起きているアピールをした。するとまもなくしてオレの頭を覆っていた袋が取り外される。
「ぷはー」
 最初に見たのは、金満という言葉かよく似合うでっぷり太ったオッサンだった。金糸銀糸をふんだんに使った衣装を着ているせいで、目がチカチカする。しかもゴミでも見るような目でオレを見ていやがる。
「フン。殺せ」
 容赦ねぇなぁ。脇に控える大男に何の躊躇もなく命じるオッサン。きっとこうやって悪どいことして成り上がってきたんだろうなぁ。だけどオレも殺されるのは御免被る。
「いくらだ?」
「なんだと?」
 金の匂いを感じたか? オッサンは剣を振り上げた大男を片手で制する。
「あんたのところで余った胡椒、オレが全部買い取ってやるよ」
「ほう?」
 ゴミを見るようだった目が、顎に手を当てて面白いものを見るような目に変わった。
「自分の命を買おうという訳か。だが、お前に払えるのか?」
「二倍払う」
「二倍!?」
「それだけの金額があれば、今回の損失補填には十分だろ?」
 赤字になろうとしたものが、二倍になって売れるのだ。オッサンはイヤらしい笑みを浮かべて一つ頷いた。
「いいだろう。その代わり払えなければどうなるか? 分かっているな?」
 オッサンの後ろでは大男がまだ剣を振り上げている。頷くオレ。
「二倍払う代わりに、こちらからも条件を付けさせてくれ」
「フン。そんなこと言える立場だと思ってるのか?」
「まあ聞けよ、オッサンにも悪い話じゃない。オレの後ろにオレを襲った二人組がいるだろ? その二人をオレにくれ」
 怪訝な顔になるオッサン。何でそんなものを欲しがるんだ? って顔だ。
「何故かって? ここで金払っても後で襲われない保証はないからな。その二人は要らないんだろ? だったらオレにくれよ」
 得心いったって顔でニヤニヤしているな。
「フン。いいだろう。おい、お前らは今日でお払い箱だ。その男と一緒に出ていきな!」
 こうしてオレはオッサンに金を払いその代わりに大量の胡椒を受け取った。
 ある程度は、ポーチのマジックボックスに入ったけど、入りきらなかった分は大八車で押して引き上げることになった。

 泊まっている宿屋へ向かう道中、兄の方が声を描けてきた。
「何故俺たちを救った? あんたはそれなりに強い。降りかかる火の粉ぐらい自分で払えるだろ?」
「う〜ん、護衛(それ)も理由の一つだし、他にも理由があるんだけど、一番の理由は、公園での演技を見てファンになっちゃったから、かな」
 オレがこう言うと二人は照れたように横を向いて、
「なんだそれ、意味わかんねえ」
 と言いながらも大八車を押すのを手伝ってくれた。

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