マグ拳ファイター!!

西順

27

「ハァー」
 オレは眼前にあったトリプルパテのチーズバーガーをコーラで飲み下すと、やっと人心地ついた気分で一息吐き出す。
「なんだよ仕事帰りの中年サラリーマンみたいな疲れたため息なんて吐いて」
 オレはポテトを掠奪せんとするアキラの手をはたく。
 アキラにダンジョンコアのことは話していない。とはいえ全く呑気なものである。
 9月も半ば、それこそオレは仕事を頑張るお父さん並に疲れていた。家庭に無関心なウチの父を少し尊敬してしまうぐらいにだ。仕事を頑張るって大変である。

 見事赤の森のダンジョンコアをゲットしてきたオレとマヤは、それはそれはハッサンさんとユキさんに喜ばれたのだが、それは、始まりに過ぎなかったのだ。
 覚えているだろうか? 赤の森がアインスタッド南東のダンジョンであり、アインスタッドにはそれ以外に北東、北西、南西にダンジョンがあると。
 そう、ダンジョンあるところにダンジョンコアあり。オレたちが南東の赤の森を攻略したことで気をよくしたハッサンさんに、オレとマヤは体よく他のダンジョン攻略も押し付けられたのである。
 ええ、やりましたともさ。
 他のダンジョンもダンジョンコアを守護していたのは石ロボ改めゴーレムだったので、さして問題はなかった。問題だったのはその前の、赤の森でいうところ赤狼にあたるポジションの奴等、ボス格だった。

 北東の黒の滝と呼ばれるダンジョンには、黒い巨大鯉がおり、巨大な上に水中ではすばしっこく、すぐに逃げて捕まえられないのだ。
 逃げるなら放っておけばいいと思うだろうがそうも言ってられない。何故なら黒鯉を一定数倒さなければ、滝の裏にあるダンジョンコアがいる部屋への扉が開かないからだ。
 必死に追いかけるがすぐに逃げられる。そこでオレは一計を案じた。罠である。
 魚というのは前方方向へしか進めない生き物だ。だから奥へ行くほど狭くなる罠を築き、黒鯉をそこへ誘導すればあとはこっちのもの。マヤの大盾で出口を塞げば、黒鯉に逃げる術は残されていなかった。
 こうして順調に数を稼ぎ、滝裏の扉を開くことに成功したのだった。

 北西のダンジョンは黄の庭と呼ばれている。
 何でも昔のアインスタッドの領主の別邸があった場所(すでに館はない)で、その庭は広大な花の迷路となっていた。
 花といえば蜂である。体長50センチはある蜜蜂の女王蜂がここのボス格なのだが、女王蜂を倒そうとすると兵隊蜂が何処からともなく涌いてきて、その相手をしなければならず、その数に非常に苦戦した。
 対策として、大量の松明を用いた。火もそうだが、蜂は煙を嫌うのだ。蜂の巣駆除などでも使われるこの方法で兵隊蜂を寄せ付けないようにして、女王蜂を倒した。

 南西には白の池と呼ばれるダンジョンがあった。
 そこにいたのは人を一飲みできそうなほど巨大な真っ白い蛙だった。
 デンッと池の真ん中の岩に構える蛙は、その舌で遠距離攻撃を仕掛けてくる厄介な奴だった。
 しかし白蛙のいる岩まで行かなければならない。そこにダンジョンコアへと至る通路があるからだ。
  池の橋桁(はしけ)に係留されている貧弱なボートで近付くと白蛙が攻撃してくる。
 マヤの大盾があるとはいえボートの上では不安定だ。それにオレとマヤ、どちらがボートを漕ぐかも問題だった。オレが漕げば白蛙の攻撃をマヤが防いでくれるがオレが攻撃できない。逆にマヤが漕げばオレは攻撃できるが今度は防御ができない。人数の少なさが裏目に出たかたちだが、ダンジョンコア攻略の性質上どうしようもなかった。
 おそらく白蛙の攻撃にもびくともしない鉄壁さか、白蛙の舌が届かない距離からの遠距離攻撃ができなければならなかったのだろう。
 どちらも持ち合わせていなかったオレたちは、揺れるボートの上で右往左往するしかなかった。
 結果からいえば、オレは対白蛙用に投げナイフを10本購入し、それが奏功し白蛙は倒せたが、10本の投げナイフは池の藻屑となり回収できなかった。

 そんなこんなでアインスタッド周りのダンジョンコアを狩り尽くしたのが前日のこと。マヤとも話し合い、今日は1日オフになっている。
 疲れはしたが、悪いことばかりではない。それ相応の実入りがあったからだ。
 ダンジョン一ヶ所につき約100万ビット。四ヶ所で400万ビット。二人で分けても200万ビット。約200万円である。
 何故これで誰もやりたがらなかったのかオレが不思議がっているとマヤが、
「誰もやらずに放置されてたからダンジョンコアがあんなに大きくなっていたり、ゴーレムが抱えるビットが凄い金額になってたんじゃないの」
 と言っていた。なるほど、納得の理論だ。
 まぁ、実際のところどうなのか分からないが、こうやってトリプルパテのチーズバーガーが食べられるのだから感謝感謝である。明日からのゲームプレイにも一層気合いが入るというものだ。

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