マグ拳ファイター!!

西順

23

「ありがとう」
 オレとマヤに向かって深々と頭を下げるハッサンさん。
 ゲームの中とはいえ、大の大人にここまでされると恐縮してしまう。
「とダンジョンコアの討伐隊が決まったことは喜ばしいのだが……」
 と頭を上げたハッサンさんは何とも困ったような顔をしている。その視線はオレたちの体、というより身に付けている装備にいっている。
「まあ、なんだ、討伐隊への報償金先に払うから、その装備どうにかならんか?」
 まあオレたちは初期装備からは卒業しているとはいえ、マヤはワンピースに盾を持っているからまだ良いが、オレの格好なんてリアルでそこら辺歩いてるのと変わらないからなあ。
 ハッサンさんはそう言うと、ユキさんに報償金の準備をさせる。
「あと武器がないといろいろ困るだろ」
 とハッサンさんが懐から取り出したのは、赤い刀身の二振りのナイフだった。
「これは?」
 手に持って検分してみるが、素人目にもなかなかの逸品であると分かる。
「赤狼の牙から造ったナイフだ」
「赤狼の牙! それって……!」
 ハッサンさんはそれ以上は何も言わなかったが、おそらくオレたちが倒した赤狼のあの牙から造られた物だろう。

 報償金は10万ビットだった。
 そのほとんどはマヤの革の大盾と革鎧に消えた。
「ホントに良かったの?」
 と申し訳無さそうにするマヤだが、前衛のマヤに耐えてもらわないと、オレなんて一堪りもないのだ。女子を盾にして恥ずかしくないのかって? 全く恥ずかしくありません! 男女同権主義なんで! (歪曲した主張)
「ああ、オレはこれがあれば良いよ」
 残った金でオレが買ったのは腰に回したポーチだ。ただのポーチじゃない。マジックボックスだ。これでも容量的には75リットル入る。100リットルには金がわずかに届かなかった。それでもリアルのリュックサック2~3個分は入るのだからさすが魔法のある世界である。
「さて、あとは銀行だな」
「お金は使いきっちゃったわよ? 銀行に何の用があるの?」

 オレが銀行でやったのは両替である。と言ってもリアルからゲーム内にお金を引き落とした訳でも、その逆、ゲーム内のお金をリアルに送金した訳でもない。
 100ビットの小銀貨を1ビットの小銅貨に替えただけだ。
「何で?」
「石より銅貨をぶつけた方がいたそうだろ?」
 銀行前でマヤの質問にそう答えながら、オレは500ビットほどの小銅貨を腰のポーチに納める。
「ああ、コインを武器にするヒーローだかヒロインがいたわね」
 そうなのか? 単純に攻撃力の問題で両替しただけだったのだが。これも一種のロールプレイってことになるのだろうか?
 準備の整ったオレとマヤ。目指すは赤の森。時はすでに夕暮れになっていた。

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