マグ拳ファイター!!

西順

19

「リポップ」とは、アキラ曰く倒した魔物が再出現するようになることらしい。
 なるほど。誰がリポップさせているのか知らないが、あの赤狼は魔核と素体によってまたこのゲーム内に再出現しているらしい。

 ゲーム内で夜になった。
 オレとアキラとマヤの三人は、再び赤の森の前で赤狼と対峙していた。
「マヤ!」
「任せて!」
 襲いかかって来る赤狼の初擊を、小盾で器用に受け止めるマヤ。オレはマヤの背を駆け登り、赤狼の背にしがみつくと、引力を発生させて地面に散らばる石ころを弾丸に代えて赤狼に撃ち込む。
 昨夜の再現は見事に成功し、リポップしたばかりだろう赤狼は再び魔核と素体になってしまったのだった。
「マヤ!」
「分かってる!」
 オレとマヤは素早く魔核と素体を守るように身構える。赤狼が現れてすぐに倒したこともあり、今回はローバーに遅れをとることはないはずだ。
 周囲を見回し警戒するが、あるのは驚いているアキラの姿と風のざわめきだけ。どうやら今回はローバーに出くわさなかったようだ。
「フゥー」
 緊張を解いて魔核と今回の素体となった二の腕程もある大きな牙を回収していると、アキラが声を掛けてくる。
「スゴいな二人とも」
「そうなのか?」
「ああ。普通、赤狼ってのはこ5~6人の初心者パーティー2~3組で倒すもんなんだぜ。それをたった二人で5分と掛からず倒すとか、もう初心者のやることじゃない」
 そういうものなのか。自分たちの強さなんて客観視したことなかったからなぁ。オレとマヤは互いに首を傾げるしかない。
「しかしパーティーで赤狼狩りか。肉は手に入らないから、BBQには向かなくないか?」
「そのパーティーじゃねえよ」
「「え? 違うの?」」
 オレとマヤで声が被った。マヤも同じ想像をしていたらしい。
「ハァー」
 嘆息するアキラ。
「とりあえずここで立ち話もなんだし、街に戻って話そうぜ?」
 アキラの案に乗り、俺たち三人は街に戻って行った。

「パーティーってのはいわゆるチームのことだ」
「「ああ」」
 一皿500ビットの安飯屋で硬いパンをかじりながらのアキラの説明は至極簡単だった。
「何でチームじゃなくパーティーの方を使うんだ?」
「さあな。ゲームじゃチームをパーティーって呼ぶのはもはや伝統になってるからな。初めに使い始めた奴に訊いてくれ」
 ふ〜ん。そういうもんか。
「これから必要になってくるから今のうちに説明しておくと、このゲームにおいては、ソロ、パーティー、クラン、ギルドの順に人が増えていく」
「「はぁ?」」
「うん。良く分かっていないな?」
 察しが良いことで。
「ソロってのが1人プレイなのは分かるだろ?」
 首肯するオレとマヤ。
「じゃあ残る3つを軽く説明しよう。まずギルドってのは、何々組合とか、何々協会、みたいな同業者組合のことで、このマグ拳ファイターの世界では3つのギルドが存在する」
 ふむふむ。
「冒険者ギルドと商業ギルドと生産者ギルドだ。一番身近でオレたち自身がそうである冒険者の多くが所属冒険者ギルドで説明すると、要は仕事の斡旋所みたいなものだ」
 なるほど。
「登録制で、登録料は無料。ゲーム内で何やるか困ったらここに行けば何かしらやることが見つかるはずさ」
 なるほど。
「次にクランだが、これはギルドに登録された大型のパーティーだと思ってくれれば良い」
「個人でギルドに登録するのではなく、団体で登録しているってことか?」
「そういうことだ。もちろんクランの人間も個人でギルドに登録してるだろうけど」
「じゃあクランとパーティーの違いは、団体としてギルドに登録しているかいないかの違いだけ?」
「いや」
 マヤの問いに対して首を横に振るアキラ。
「クランは大型(おおがた)パーティーだって言ったろ。登録できるのは10名以上からだ」
「なるほど。5人のパーティーが二組作れるな」
「そういうことだ」
 オレの言にアキラが頷く。
「でも何で10人からとか決まってるんだろ?」
「…………ボスか」
 マヤの疑問に対して出したオレの答えに、アキラがニヤリとする。
「そういうことだ。このゲームの難度調整として、ボスはプレイヤー10人ぐらいで事にあたって丁度良いような作りになってるらしい。だからギルドのクラン登録も10名からなんだ」
 なるほどなぁ。
「でもそうなると、オレやマヤみたいなイレギュラーはどうなるんだ?」
「さあな?」
 いや、さあな? って。
 この日は、これでお開きになった。あ、ちなみに赤狼を倒して得た魔核と素体は売り払い、マヤと二人で折半した。

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