炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~
26節 お疲れさまでした
「いやぁ、面白いものを見せてもらったよ、ワカナ」
ワカナがコトの目の前まで歩いてきて止まり、コトがワカナに話しかける。
「そうですか……」
ワカナはコトの目を見て無関心のように答える。
「どうする、殴り合いでもするか? 私は負ける気なんて無いが」
コトが笑いながらワカナに尋ねる。
「……そんなくだらないこと、やめません?」
ワカナが笑みを浮かべるコトに言った。その意図にコトが気がつかないわけがないが、とぼけるようにまた笑い、答える。
「じゃあ、魔術にする? 私は魔術ならなおさら負けないよ」
「だから、どうせわざと負けるくせにそうやって悪役面しないでください!」
挑発するように言ったコトにワカナが強く言う。
「わざと負けてやるつもりはないんだけどな」
コトはまだとぼけるようにしてワカナを見下ろして返す。
「……そうですね。わざとではありませんね。それでも私に消されるまで私を殺しはしないでしょう?」
少しの間、考えてからワカナが冷静に静かな声でコトに言う。見据えるようにコトを睨み、次に何を言おうか考えながら疑問を投げつけた。
「……まさか。それに私側には七日とアノ……ニコリアもいる。そう簡単に消されるとでも思っているの?」
笑みを保ったままコトはそうワカナに問いかけた。それに返すように七日とアノニムがワカナの後ろまでいつのまにか近づき、ワカナが振り返らないことをわかっていながらにこりと笑って見せる。
「ええ。コトは私に消される、それが最初から計画に組み込まれてたんですよね? 唯一貴女を消すことができる私を何年も何年も探してきたんですから」
ワカナは笑って答えた。コトは、へぇ、と言うように目を一瞬だけ輝かせて口角をさらに上げる。そして、コトが何かを返す前にワカナはその反応を見て続ける。
「誰が言ったかは覚えていませんが、強者は自分を負かす相手を探しているそうです。それが゙破壊神且つ絶対神゙ともあろう貴女なら探していたはずです。どうせなら不満をぶつけてから消えようと思ってますよね? それで今回の計画を三人で、エラーである私たちを巻き込んで立てたんですよね? ミコトとズィミアに向けた不満。ミコトはこの事に気が付いているはずですし、それを黙認してますね。……当たってますか?」
試すようにワカナはそう言った。話し始めは結論まで出ていなかったが、声に出しているうちに考えがまとまり、一番納得のいく可能性までたどり着いた。
そして、その考えは正しい。コトはどうせなら、ツクラレタガワとしてツクルガワに迷惑をかけてから消えてやろうとした。最後の足掻きとして自分勝手にも見える不満をぶつけてやろうと。アノニムはツクラレタガワとしてそれに賛同し、七日は楽しそうだからと協力した。
ワカナが神としてその位置に立つことが出来るかもしれないということは前々からわかってはいた。しかし、魂が何かを傷つけることを恐れ、麗菜の魂の言うことを守ることしかできない。アノニムはミコトとヒトミを監視し、七日がワカナの魂が行く先々でどうにか麗菜の魂に逆らわないかを監視していた。
そして、若菜は、五日を傷つけた。アルゴライムは、キューバルに逆らった。舞台は整った。あとは、コトが悪者としてワカナに消されれば完璧だった。いや、邪魔が入らなければ今頃ワカナが計画に感づくこともなく完璧だったのだ。
「……そうだとして、ワカナがやることは変わらないでしょ?」
コトは驚いたという感情をどう隠そうかと、悩み、結局笑顔の裏にその表情を貼り付けてワカナに気がつかれないようにしながら尋ねた。
「そうですよ。でも、私がコトに尋ねる言葉が変わります」
眉を寄せ、寂しそうに笑ったワカナが言う。
「……何だ?」
「当たっていると仮定して尋ねます。……私は貴女と違いきちんど消ずことができません。なのでとても暑くて苦しいことになりますが、構いませんか?」
自分の不出来さを呪うように悲しく低い声でワカナは尋ねた。
「はっ、そういうことね」
ワカナが言った言葉にコトは少し笑って返した。そして、愛おしそうにワカナの頬を白く細く冷たい指で優しくなぞりながらコトは誰にも真似できないほど優しい笑みを浮かべて答える。
「最期の感覚なのだから、そんなもの楽しめるよ」
ワカナは後ろで誰かが泣いているのを感じた。後ろにいる七日かアノニムがコトを思って泣いている。しかし、それを振り返って確認するほどワカナの性格は悪くない。ワカナは、コトに一歩近づき、自分の頬にあったコトの手を優しく握る。
「じゃあ……今までお疲れさまでした。後は任せてください」
ワカナは優しく言い、今度は落ち着いている。苦しいものになるとは言ったが、出来るだけコトが苦しまないように自分の中の熱を凝縮させ、ワカナですら暑いと思える程の物をコトに送る。出来るだけ短い時間でコトが消えるように。
「あぁ、あったかい」
コトはワカナにしか聞こえない声量でそう呟くと、もう何も言わなかった。
コトの姿はそこにあった。ワカナが握っていた手もそのまま。形容しがたい美しい顔もそのまま。金色と美しい糸のような髪もそのまま。しかし、そこに絶対神とも言えた存在がいなくなったことは誰が見てもなんとなくわかってしまう。明らかにそこからコトは消滅し、この世界のどこかにも、他の世界からもいなくなっていた。
それがわかってもワカナはしばらく目を瞑り、コトの手を離さなかった。思い出があるわけでも涙を流しているわけでもない。しかし、何かを感じ取ってただそれにしたがっていた。
「……さて、用済みのこの世界は破壊する。全員一斉に神界に送るが、何かあれば上で聞く。今は異論無いな?」
アノニムがその場にいる全員に確認するように尋ねた。
「ここにいる無関係の魂たちは?」
ワカナがコトの手を離し、アノニムに尋ねる。
「かなり後にはなるだろうが、正式な手続きをして転生させる。いや、正確には生まれ変わりか。ワカナの要望を聞く時間くらいはある」
神界で共に過ごしたいのならばそうしてもいい。アノニムはワカナにそう伝えたが、軽く俯いた暗いワカナの顔からはそれが良いのか悪いのかアノニムには判断できなかった。
「ニコリアは?」
「なんで私の事なんて聞くんだ」
「ニコリアを神界で見たことなんてありませんでした。まさかここに残ってここと一緒に消えるなんて言うつもりなんですか?」
今にも泣きそうな目でワカナはアノニムに問いかけた。覚えていないのも面倒だなと気がつかれないように舌打ちをしてからアノニムは言葉を選んでそれに答えた。
「時期にわかる。麗菜、ワカナのことを頼んだ。七日、ハルカ、手伝え」
「「了解」」
七日とハルカがそう答えると、あの赤い空間に意識を飛ばされたときのような光がワカナたちを包んだ。その光の色は赤くなんかなく、今度は白い。神界そのものとも言えるその白い光が消えると、ワカナはよく見覚えのある白い神界にいた。麗菜と五日が近くにはいて、他は誰もいない。いや、そう広くない部屋の白い壁を覆うように数えきれないほどの人形がワカナのことを見つめていた。
アノニムの人形の部屋だ。
ワカナがコトの目の前まで歩いてきて止まり、コトがワカナに話しかける。
「そうですか……」
ワカナはコトの目を見て無関心のように答える。
「どうする、殴り合いでもするか? 私は負ける気なんて無いが」
コトが笑いながらワカナに尋ねる。
「……そんなくだらないこと、やめません?」
ワカナが笑みを浮かべるコトに言った。その意図にコトが気がつかないわけがないが、とぼけるようにまた笑い、答える。
「じゃあ、魔術にする? 私は魔術ならなおさら負けないよ」
「だから、どうせわざと負けるくせにそうやって悪役面しないでください!」
挑発するように言ったコトにワカナが強く言う。
「わざと負けてやるつもりはないんだけどな」
コトはまだとぼけるようにしてワカナを見下ろして返す。
「……そうですね。わざとではありませんね。それでも私に消されるまで私を殺しはしないでしょう?」
少しの間、考えてからワカナが冷静に静かな声でコトに言う。見据えるようにコトを睨み、次に何を言おうか考えながら疑問を投げつけた。
「……まさか。それに私側には七日とアノ……ニコリアもいる。そう簡単に消されるとでも思っているの?」
笑みを保ったままコトはそうワカナに問いかけた。それに返すように七日とアノニムがワカナの後ろまでいつのまにか近づき、ワカナが振り返らないことをわかっていながらにこりと笑って見せる。
「ええ。コトは私に消される、それが最初から計画に組み込まれてたんですよね? 唯一貴女を消すことができる私を何年も何年も探してきたんですから」
ワカナは笑って答えた。コトは、へぇ、と言うように目を一瞬だけ輝かせて口角をさらに上げる。そして、コトが何かを返す前にワカナはその反応を見て続ける。
「誰が言ったかは覚えていませんが、強者は自分を負かす相手を探しているそうです。それが゙破壊神且つ絶対神゙ともあろう貴女なら探していたはずです。どうせなら不満をぶつけてから消えようと思ってますよね? それで今回の計画を三人で、エラーである私たちを巻き込んで立てたんですよね? ミコトとズィミアに向けた不満。ミコトはこの事に気が付いているはずですし、それを黙認してますね。……当たってますか?」
試すようにワカナはそう言った。話し始めは結論まで出ていなかったが、声に出しているうちに考えがまとまり、一番納得のいく可能性までたどり着いた。
そして、その考えは正しい。コトはどうせなら、ツクラレタガワとしてツクルガワに迷惑をかけてから消えてやろうとした。最後の足掻きとして自分勝手にも見える不満をぶつけてやろうと。アノニムはツクラレタガワとしてそれに賛同し、七日は楽しそうだからと協力した。
ワカナが神としてその位置に立つことが出来るかもしれないということは前々からわかってはいた。しかし、魂が何かを傷つけることを恐れ、麗菜の魂の言うことを守ることしかできない。アノニムはミコトとヒトミを監視し、七日がワカナの魂が行く先々でどうにか麗菜の魂に逆らわないかを監視していた。
そして、若菜は、五日を傷つけた。アルゴライムは、キューバルに逆らった。舞台は整った。あとは、コトが悪者としてワカナに消されれば完璧だった。いや、邪魔が入らなければ今頃ワカナが計画に感づくこともなく完璧だったのだ。
「……そうだとして、ワカナがやることは変わらないでしょ?」
コトは驚いたという感情をどう隠そうかと、悩み、結局笑顔の裏にその表情を貼り付けてワカナに気がつかれないようにしながら尋ねた。
「そうですよ。でも、私がコトに尋ねる言葉が変わります」
眉を寄せ、寂しそうに笑ったワカナが言う。
「……何だ?」
「当たっていると仮定して尋ねます。……私は貴女と違いきちんど消ずことができません。なのでとても暑くて苦しいことになりますが、構いませんか?」
自分の不出来さを呪うように悲しく低い声でワカナは尋ねた。
「はっ、そういうことね」
ワカナが言った言葉にコトは少し笑って返した。そして、愛おしそうにワカナの頬を白く細く冷たい指で優しくなぞりながらコトは誰にも真似できないほど優しい笑みを浮かべて答える。
「最期の感覚なのだから、そんなもの楽しめるよ」
ワカナは後ろで誰かが泣いているのを感じた。後ろにいる七日かアノニムがコトを思って泣いている。しかし、それを振り返って確認するほどワカナの性格は悪くない。ワカナは、コトに一歩近づき、自分の頬にあったコトの手を優しく握る。
「じゃあ……今までお疲れさまでした。後は任せてください」
ワカナは優しく言い、今度は落ち着いている。苦しいものになるとは言ったが、出来るだけコトが苦しまないように自分の中の熱を凝縮させ、ワカナですら暑いと思える程の物をコトに送る。出来るだけ短い時間でコトが消えるように。
「あぁ、あったかい」
コトはワカナにしか聞こえない声量でそう呟くと、もう何も言わなかった。
コトの姿はそこにあった。ワカナが握っていた手もそのまま。形容しがたい美しい顔もそのまま。金色と美しい糸のような髪もそのまま。しかし、そこに絶対神とも言えた存在がいなくなったことは誰が見てもなんとなくわかってしまう。明らかにそこからコトは消滅し、この世界のどこかにも、他の世界からもいなくなっていた。
それがわかってもワカナはしばらく目を瞑り、コトの手を離さなかった。思い出があるわけでも涙を流しているわけでもない。しかし、何かを感じ取ってただそれにしたがっていた。
「……さて、用済みのこの世界は破壊する。全員一斉に神界に送るが、何かあれば上で聞く。今は異論無いな?」
アノニムがその場にいる全員に確認するように尋ねた。
「ここにいる無関係の魂たちは?」
ワカナがコトの手を離し、アノニムに尋ねる。
「かなり後にはなるだろうが、正式な手続きをして転生させる。いや、正確には生まれ変わりか。ワカナの要望を聞く時間くらいはある」
神界で共に過ごしたいのならばそうしてもいい。アノニムはワカナにそう伝えたが、軽く俯いた暗いワカナの顔からはそれが良いのか悪いのかアノニムには判断できなかった。
「ニコリアは?」
「なんで私の事なんて聞くんだ」
「ニコリアを神界で見たことなんてありませんでした。まさかここに残ってここと一緒に消えるなんて言うつもりなんですか?」
今にも泣きそうな目でワカナはアノニムに問いかけた。覚えていないのも面倒だなと気がつかれないように舌打ちをしてからアノニムは言葉を選んでそれに答えた。
「時期にわかる。麗菜、ワカナのことを頼んだ。七日、ハルカ、手伝え」
「「了解」」
七日とハルカがそう答えると、あの赤い空間に意識を飛ばされたときのような光がワカナたちを包んだ。その光の色は赤くなんかなく、今度は白い。神界そのものとも言えるその白い光が消えると、ワカナはよく見覚えのある白い神界にいた。麗菜と五日が近くにはいて、他は誰もいない。いや、そう広くない部屋の白い壁を覆うように数えきれないほどの人形がワカナのことを見つめていた。
アノニムの人形の部屋だ。
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