炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

20節 歪んだ月

 くるっと振り向き、ワカナは地面に寝そべる六日らしきものを見る。ぱっと見た感じは人間にも見えるし六日そのものなのだが、どうせ死人を材料にした六日の意識をいれるための箱なのだろう。そう思うとその倒れている大切なはずの人間もゴミにしか見えない。そうならば、壊し、殺すことにも躊躇う必要はないだろう。

「……本当に私の若菜さんを分離させたようですね。でもいいのですか? 日が昇ればどんなに若菜さんが優勢でも私が勝てるわよ」

 目が覚めるなり微かに笑いを含んだ声で六日がそう言った。久しぶりに持つ自分自身の肉体に少し慣れないのか、ふらつきながら立ち上がり、六日は七日を見据えるように睨む。

「アハハ、ご安心を、六日さん。これ以上お姉ちゃんに心配をかけたくないのですぐに決着とさせていただきますよ」

「若菜さんはそれで良いの?」

 ニコッと営業スマイルを張り付けたワカナが六日に言うと、不安そうに六日が尋ねた。

「ええ、平気です。もう未練はありませんから」

 ワカナはにこりと少し悲し気に答えた。

「あっそうですか。ならよかった。若菜さんの研究なら貴女が死んだ後でも出来ますし」

 六日も微笑んだ。悪意を大いに含んだわざとらしい笑みを空に浮かぶワカナと自分の後ろで見ているであろう麗菜たち、そして、それを傍観するように冷たく眺めるコトに見せつける。

「……来ないんですか?」

 先に浮かんで待っていたワカナが六日に尋ねた。

「馬鹿ね。私は人間ですよ、飛べません。それに、私はここでいいんです。私は人間でありながら地球の魔術を使う。なので、ここにいれば時間稼ぎくらいはできますから」

 六日が答える。そして、ワカナに右手を伸ばしてニヤリと目と口を歪めて言霊を放つ。

「若菜さん、私に近寄らないでください」

 この世界には魔力が満ちている。六日は言霊の力を信じ、使うことができる。そして、六日は明確な意思をワカナにぶつけている。そうならば、六日はここでも魔術を使える。

「……近付くことが出来れば私は六日さんを吸血鬼の怪力で殴り殺します。近付くことが出来なくても私には炎と呪いの力があります。その魔術は無駄になると思いますよ」

「私は朝になるまで時間を稼ぐことが目的なのよ。その程度防いであげますよ」

 ワカナが手袋と頭についているリボンを外しながら六日に言う。赤く光らせた瞳で無意味だと六日に教え、情けを与えたつもりだ。

「だから、私には呪いの力があるのですよ」

 左手を上へと向け、ワカナは瞳を強く光らせる。暗い青色だった夜空に暗い赤色の雲がワカナを中心にして広がる。目に入る範囲をその雲が満たすと、ぼうっと青白い歪な月がワカナの背後に現れた。

 この世界には魔力が満ちている。ワカナの中には炎を操るための熱と小山薫に対する個人的な強い恨みが呪いとなって媒体が存在している。そして、ワカナにはこの空間から日光を消し去るという明確な意思がある。

 日光に弱いのならばそれを呪い、多い尽くして失えばいい。代償が必要ならば常に魔力を月として変換し、消費を続ければいい。魔力を代償に日光を呪えばいい。

 歪んだ月が浮かぶ赤い空に浮かぶ吸血鬼は目の前の人間に、まるで悪役のように微笑んで言う。

「これでも時間稼ぎなんかで私に勝てますか?」

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