炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

17節 ワカナァ!

 七日はしゃがみ込み、五日の頭を鷲掴みにして揺さぶった。

「おーきーてー。起きないとまたビリビリするよ」

 もちろん、冗談などではない。七日は全く反応がない五日を確認すると、今度は影を通じて気絶している人間をたたき起こせる程度の電流を五日に流した。

 ビクッと一度大きく五日の全身が痙攣し、何事もなかったようにゆっくりと目を開いた。

「ぅ……あれ、俺……」

「はいアノニム。起こしたよ」

 ボケーッと呟く五日を確認すると、七日は笑顔でアノニムに報告した。

「手荒だなぁ。私も流石にそこまではしないぞ」

「お願い聞いてあげたんだからさ、感謝くらいはしてくれても良いと思うよ」

 影と結託して電流を流した七日にアノニムは、自分が頼んだことだと忘れて呆れながら言った。いや、忘れてはいなかったが、本当にこんな方法で起こすのかと思うと何も言えない。そんなアノニムに七日はニコォ、と笑って言う。正直、どんなお化けよりも見たくない笑顔だ。

「あー、わかった。感謝してる。いいからそこ変われ」

 嫌々だが、こう言っておかなければ話が進まないことを何となくだが理解し、アノニムは七日に言う。そして、手で追い払うようにして七日を五日から離れさせようとした。

「気持ちは伝わらないけど、どうぞ」

 笑顔を崩すことなく七日は言ったが、そう言い終えると、七日は立ち上がり、その今までいた場所には代わりにアノニムが片方だけ膝をついて座った。そして、逃げ出しても問題などはないが、面倒なので軽く拘束してある五日の髪を引っ張り、アノニムが尋ねる。

「何でここにいる。宮殿の中にいるようにと言ってあるはずだ」

 アノニムは、冷たく青い瞳を鋭く尖らせて五日を睨む。髪を引っ張られて引き攣った顔を浮かべて五日が少し考えてからアノニムに丁寧に答える。

「えっと……俺、目が覚めて……そしたら七日も誰もいなかったから……とりあえず…………帰ろうとしたんだ。それで……変に眩しくて、気がついたら若菜が目の前にいて……。だ、だから、宮殿から出るなとの連絡は一切知らなかったんだ」

「あぁ、そうか。誰にも会ってないなら知らねぇわな。で、あのワカナはどうした」

 もう一度五日の髪を強く引き、アノニムは尋ね直した。まだ可能性として、五日が余計なことを言ったから正常になりかけていたり大人しかったワカナがおかしな行動に出たということが十分にあり得たのだ。そうでなければ五日を持って飛ぶ必要がないからだ。

「し、知らない! 何か若菜が俺を見たら、まだ残ってたんだ、とか言ってきていきなり捕まれたんだ! 笑ってだ! 若菜はどうしたんだよ……! 俺が聞きてぇよ」

 怖かったと、今も怯えていると、訳がわからないと言うように五日は顔を強く歪めて未知のものを見るようにワカナのことを話した。そして、その話を聞く限り可能性は絞られる。その一つを、最悪あってほしくない可能性を潰そうとアノニムが七日の方を見て尋ねる。

「小山薫と五日って似てるのか?」

 五日を見てカオルを思いだし、もう一度罰を与えなければと上へ上へとワカナが五日を連れて飛んでいた。馬鹿馬鹿しくてあり得ないが、ゼロではないことだ。頼む、そんなことはないと言ってくれ。アノニムは無表情に祈った。

「うーん、目も鼻も口も身長も似てないけど、髪型が近いから冷静じゃないワカナから見間違えるかもね」

 七日がそう答えると、アノニムはあからさまに落胆して見せた。腹いせか五日の頭を地面に押し付けている。五日は痛いだろうが、ここの地面が砂利で埋め尽くされていないだけましだろう。

「じゃあ……帰ってきてまた見間違えてあんなになる可能性は……?」

 アノニムは恐る恐る細い声で尋ねた。不満そうな顔を浮かべながら五日を地面に向けてぐりぐりと手首を回している。

「無いとは言えないね」

 七日が即答した。わかってはいたことだが、自分以外に言われると何だか現実味を帯びてしまう。

「いいえ、その心配はありませんよ」

 しかし、そんな心配は無用のようだ。

 空間にヒビが入ったように赤一色の中に白い線が入り、そこからバリバリと崩れた。そして、その中に小さい吸血鬼が胸を張って立っており、それを見守るように背の高い人間が座り込んでいた。

「……ワカナァ!」

 これを待っていたと言うように満面の笑みを浮かべて七日が叫んだ。

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