炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

12節 いやわからんが

「とりあえず、ここは私がハルカに提供した私の『記憶の書庫』の一部。ここまで言えばアノニムはわかるでしょ」

 七日がアノニムの顔色をうかがうようにチラリと見ながら言った。

「いやわからんが。良くそんな説明でわかると思ったよな、七日は。もう少し努力をしろ」

 アノニムはやけに見られているなと思いながらも七日に真顔で返した。一応ツクラレタガワとして仲間みたいな感じではやっているが、仲は悪いし、アノニムは七日に興味があまりなかったのでこんな短い言葉で「後はわかるよね」みたいに顔を見られても正直困るのだ。

「わかったよ。……麗菜からもこんな顔されちゃあね。偉大なる吸血鬼の長様も、こう見ればただの民の大学生だ」

 ムカつくなぁ、と思いながら七日は視線をアノニムから麗菜に移す。麗菜は、まだ頭が痛そうに軽く押さえながら七日の方をその穏やかだが子供のような瞳で睨むように見つめている。

 それを不満気な様子……いや、通常と何の変わりもない様子で七日は、上に立つ者が下にいる者を馬鹿にしなければ生きていけないとでも言うように目を歪めながら言った。

「……あの吸血鬼は私じゃないの。何故か私と若菜の事を知ってる誰かよ」

「誰か、ねぇ……。まあ、いいや。さっきも言った通りここは『記憶の書庫』っていう過去の思い出が保管されている場所の一部」

 その誰か、っていうのがまた別の誰か、にとって大切なんだけどね。

 そう思ったが七日はそれを言うのをやめた。何か野暮ったいし麗菜は知らなくていいこと、記憶を管理している自分だけが知っていれば全てが幸せで済むことだからだ。

 そして、七日は続ける。

「だから私が管理する書庫とは少し違うんだ。うーん、そうだなぁ。地球では馴染みがないだろうけどさ、赤って一般的に分離のイメージがあるんだよ」

 わざとらしく考えながら七日は説明する。そして、ニタァと口角をさらに上げて気味悪く言う。

「分離は複数個あるものをそれぞれに分けちゃうってやつね。で、その分離とハルカの『二つの名前』を使えば、簡単にこんな場所に飛ばされちゃうの」

 七日の説明に麗菜は首を傾げる。その隣でアノニムも理解していないが、それを隠すように口許を押さえて眉を顰めている。

「そっか~、二人ともわかんないか。じゃあ少し見てもらおうかな」

 七日はそう言って両手に一つずつ水銀のような球体を浮かべながら残念そうに笑う。記憶を見せるときに七日がとる方法の一つだ。ワカナに七日の記憶を見せたときの物と同じく、意識があるまま夢を見ているようにその映像が脳に浮かぶのだ。副作用としてまともな奴がこれをやられれば立っていられなくなるが、七日はそんなことお構いなしでやる。

「あはっ、そんな顔しないでよ。言ったでしょ、少し違うって」

 アノニムは青い顔をしてその球体を睨む。それを見て七日は一度小さく笑ってから両手の球体を一つに合わせた。

 銀色の炎が七日の手の上で揺れる。そして、それは銀縁の窓になり、その先には七日の姿ではなく薄暗い部屋が写っていた。

「この先に何が見える?」

 俯いて目の辺りに影を落とした七日が口だけを笑わせて窓を麗菜とアノニムに見せた。

「倒れてる奴が……一、二、三、四人だな」

 アノニムが答えた。そして、七日が補足するように言う。

「正確には倒れてるワカナ、ハルカ、麗菜にアノニムだね。ここには映ってないけどコトもいるね」

「……どういうこと?」

 麗菜が尋ねた。

「これは私の本体が見ている景色。私たちは本体と意識に分離されてる。意識だけでは何も見えないから『記憶の書庫』の情報を元に姿を成形。それでこうなったの。オーケー?」

 窓や自分、麗菜たちを指差しながら七日は眈々と説明していた。それで満足気な顔をしているのだ。それが十分な説明だと思っているのだ、不満は色々とあるが何となく理解してしまってアノニムも麗菜も何も言えない。

「…………えっと……『記憶の書庫』の情報って?」

 悩んだ挙げ句、一つだけ麗菜は尋ねた。それに同調してアノニムは何度か首を縦に振る。

「あー、例えばあの人はあんな感じって言うのあるでしょ? それって今まで会ったりして、その記憶から構成される情報じゃない? 『記憶の書庫』にはそんな情報が山ほどあって、それのこと。……例えば…………」

 七日は眉を歪めて少し考えながら言う。指をくるくるとさせながら左上を見るようにして何とか麗菜とアノニムにもわかるように説明する。そして、目が痛くなる部屋をキョロキョロと何かを探すように見回してから残念そうにため息をついてから麗菜を指差した。

「例えば麗菜とそっちの六日はワカナの記憶から構成された姿。アノニムは私の記憶から、私はアノニムから、ハルカは六日の記憶から……ってところかな」

 順に指を差しながら七日は言った。そして、寂しそうに一つ言い訳するように呟いた。

「ま、そこが私たちの目的にとって問題でしかないんだよね」

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