炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

10節 あれできる?

「おまたせ、七日ちゃん」

 そう言った天使の白く長いツインテールが風に揺れる。

「遅いよ、ハルカ、麗菜」

 シアラという名の衣を被った鮎川あゆかわハルカという名のかつて地球で不知火あゆみ、という名を偽って生きていた少女。

 ロロという名の衣を被ったみやこ麗菜というワカナの唯一にして最高の姉。妹を置いて殺されてしまった最悪の姉。

 その二人が七日の前、そしてワカナの前に現れた。

「……麗菜は何だか辛そうだが。自分で飛べてないし」

「あー、麗菜はね。私より情報量少ないけど内容濃いし。でも麗菜にせよロロにせよ人間なんだから飛べなくて当然だよ?」

 何故か不満気にアノニムが尋ねると、ハルカが楽しそうに答えた。その横で浮いている白く光る薄い円盤の上で麗菜は座り込んで頭を押さえる。瀕死の状態から叩き起こしたようなものなのだから仕方がないことなのだが。

「若菜~、お姉ちゃんが会いに来てくれたよ~」

 ハルカが自分よりも少し上で浮きながら幸せそうにニコニコしてハルカ達が来たことに気がついていないワカナに呼び掛ける。

「お姉ちゃん? あー、お姉ちゃん! あのね、私お姉ちゃんを殺した奴に罰を与えたんですよ! 偉いでしょ!」

 俯いて若菜の方を見ていない麗菜にワカナは嬉しそうに言った。頬を赤くして幼稚園や保育園でお泊まりの後に迎えに来た母親に向かって泣かなかったと自慢する幼子のように、それはそれは誇らし気に。

「……お姉ちゃん?」

 ワカナが話しかけると麗菜は必ず振り返っていたのにこっちを見てくれない。ワカナはそれを不思議そうに見つめる。

「私は、若菜のお姉ちゃんではあるけど貴女のお姉ちゃんではないからねぇ」

 不機嫌そうに眉と目を鋭く歪めた麗菜がワカナを見上げてゆっくりと立ち上がりながら言った。

「……完璧なはず、なんですけどね」

 ニコリと暖かかった笑みを完全に消し、ワカナが小さく呟いた。冷たく鋭く麗菜たちを見下ろしてワカナはもっと冷たい声を放つ。心からつまらなそうに、計画を崩されたと言うように心の中で舌打ちを繰り返す。

「六日、馬鹿になったのね。姉が妹を間違えるわけないじゃないの」

「どうして……」

 麗菜はよろよろともたつく足を何とか伸ばして円盤の上に立つ。そして試すように嫌な笑みを六日に見せる。ワカナの中で六日が青い顔をしているのが誰にでもわかるように顔を歪めている。

「このまま六日を相手にしてても埒が明かないと思うのは私だけかな、七日ちゃん」

 麗菜が六日を脅している間にハルカが七日に近づき、ニマッと笑って尋ねた。

「その姿で近づかないでよ。でも私もそう思うよ。ねぇハルカ、あれできる?」

 げっ、と言うように七日が眉を顰めて一度ハルカから距離をとった。そのままもう一度近づくことなく七日もニマッと笑って尋ね返す。

「出来るよ」

 口角を上げてハルカが楽しそうに言った。

「さーてと、これ以上時間をかけると神様が交代しちゃうらしいんだ。ここまでにいっぱい時間をかけちゃったからね。だから若菜に会わせてもらうわ」

 コホンと一つ咳払いをしてハルカはわざとらしい笑顔を顔に張り付けた。そして、ワカナと麗菜の間に入り、ワカナに向けて両手を広げながら説明するように言う。

「ハルカさん……。いったいどうする気で? そう言われると若菜さんに貴女達の相手をさせたくなくなりますね」

 クスッといたずらっ子のように笑いながら六日が言う。自分次第でワカナを操れると言うことをわかっているのだ。六日にとってハルカは不可能なことを足掻くように言う愚か者なのだろうが、そんなことはないのだ。

「ふふん。六日、見ててね」

 ハルカがそう笑いながら言って宙に形の無い玉を浮かべるように両手を翳す。その中心に力を込めると、赤っぽい稲妻が中心で渦を巻き始めた。

「麗菜ー、七日ちゃーん、それとそこの紫の子、意識吹っ飛ばないように気を付けてね」

 ニカッと笑ってハルカは両手を広げた。その瞬間、ロックが外れたように稲妻が弾けるように膨らみ、辺りを赤い光で包んだ。

「な、何っ!」

 六日だけが目を覆い、驚いたように叫んだ。

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