炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

7節 ≪結界≫

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「その後は知っての通り。六日ねぇに友達は少なかったから生贄候補の兄弟を殺して言っただけ。私もまさか魔術を完成させてるなんて思わなかった。それだけ。私は何も知らないよ」

 コトとアノニムは話終えた七日の満足そうな顔を美しい夜景を眺めるような目で見ていた。七日の顔の奥に残された涙と躊躇いを透かして。しかし、それを決して口から出そうとはせずに。

「……何かを伝えるときに記憶を見せるのやめないか。そりゃ結晶に映像を出せるのはすごいが」

 コトが何かを言わなければと七日が両手を器のようにしてその中央に浮かべている正八面体で紫色のガラスのような結晶を指差して言った。

「こっちの方が客観的に見れるでしょ、私はそれが良いと思ったのよ」

  紫色の結晶の中に日本の一般家庭の映像が浮かんでいる。

「そうだな。で、作戦って?」

 アノニムが適当に相槌をうち、コトを睨むように尋ねた。

「だから知らないって言った」

「じゃあどうすんだ! これじゃただの七日の過去暴露大会になるぞ!」

 冷たく言い放つコトに腹を立てたアノニムが強く言った。それを遠巻きに眺めている六日がワカナの中でクスリと笑う。仲間割れって平和で素晴らしいと誰かに語りかけるように嘲るようにワカナは三人を見て笑っていた。

「……うっすい望みで良いなら一つだけ」

 七日が独り言を呟くように言う。

「どうするの、それは。私は可能性が低くても良い」

「コト、これをハルカに、これを麗菜に入れて」

 コトが七日の言葉に反応すると、七日は水色とピンク色の正八面体の結晶をコトに投げて渡した。さっき記憶を映し出していた紫色の結晶のようだが大きさが全く違う。

「間違えたら殺すから」

 七日は物騒なことを目を見開いて言う。脅しているつもりなのだろうが、全くと言って怖くないのは七日も怯えているようにコトを指差す手が震えているからだろうか。

「水色がハルカ、桃色が麗菜だね。わかった!」

 コトは勢いよく返事をし、ワカナが始め飛んできた方向に飛んでいった。

「……私は?」

「あいつを逃がさないで!」

 アノニムがニヤリと笑い尋ねると、必死になった七日がワカナを指差して叫んだ。

「りょーかい」

 そう言ってアノニムは大きく息を吸う。

「さて、ワカナと共にその中に潜みし六日を捕らえよ≪結界≫!」

 いかにもな詠唱をし、アノニムはワカナを覆う半透明の壁を出した。結界。対象を外に出さないようにしたものだ。今回はワカナと六日をその中から出さないようにしたものだ。

「私が見た中で三十番目くらいの出来だなぁ」

管理者チート共と一緒にすんな」

 安心したのか七日がのんびりと言う。ケラケラ笑いながらアノニムは七日の言葉に軽く反論する。

 さっきまで眺めるだけで楽しかったのにと言うようにワカナが結界を黙って撫でる。そして、不機嫌そうに眉を顰めたかと思うと今度はニンマリと嫌な笑みを浮かべながら二人を振り返った。

「魔力、意志、詩、かぁ……。甘いのね」

 もったいなさそうにワカナは言う。

「……何が」

「若菜さんが眠っているって思っているでしょ、あなた達」

 七日が小さく尋ねると、ワカナは嘲るように言った。

「……は?」

「気を失ってるとか私に乗っ取られているとかそっちの方がわかりやすいでしょうか」

 短く七日が問うと、ワカナは指を顎に当て、少し考えるようにしてから答えた。

「……」

「寝てないからね。今話しているのは若菜さんであり六日ではない。若菜さんを私が支えてあげているだけよ。私がいなかったら大変ね、若菜さんは今ごろ何もわからず魔術を使っていたはずですから」

 フフフ、と笑いながらワカナはさらに続ける。

「わかりませんか? 私にこの結界から出る術がなくても、若菜さんにとってこんなものは脆くて薄っぺらいガラス未満なんですよ」

 結界に手のひらをピタッとくっ付け、ワカナは目を閉じながら言う。

 そして、目を開くと、バリッと薄いガラスのように結界が弾けた。キラキラと輝く破片と鮮血が森に降り注ぐ。

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