炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

22節 調整できる範囲で最大火力

 シアラは隠れて見ていた天使と悪魔の方を振り返り、笑顔を見せる。

 ……八人かまあ、どうにかなるわね。

 人数を把握し、指をポキポキと鳴らす。怯えた様子も伺えない。実力を見誤っているのか単なる馬鹿なのだろう。

 炎は使ったこと無いけど、どうせ同じよね。 

 そう思い、シアラは左手を高く振りかぶる。気配に動きはない。殺気がなければ死んでいると勘違いしてもおかしくないだろう。

 シアラはそれもお構いなしに高く掲げた手の先に大きな火球を作る。そして、思い出に浸る。

『懐かしいわねぇ。昔俺がこんな感じに光で作った球で民が住んでいた場所を叩いた時、ギリッギリで範囲に入らなかった民の顔。こんなこと言っちゃいけないんでしょうけど、今でもまた見たいと思うわ』

 そんなことを呟きながらシアラは火球をどんどん大きくしていく。見せしめに三人程焼くつもりではあるが、もういっそのこと焼き払ってしまおうと考え始めている。

『……調整難しいわね。いいわ、調整できる範囲で最大火力まで上げましょうか。俺も楽しくなってくるわね、これ』

 だんだんと熱くなってくる手の温度を感じながらシアラは笑みを浮かべる。やる気があるのか無いのか全く動こうとしない標的をもう何人かは黙視で確認している。

 動かないならそのまま死んでいけばいい。

 死が終わりではない、そう思えばこう殺すのも昔より苦ではない。その昔も苦だなんて思っていなかったが。

『このくらいかしらね……』

 これ以上大きくすれば自分まで巻き込みかねないと思い、シアラはそこで止めた。見上げなくてもわかる。頭上には直径十メートルほどの炎が渦巻き、綺麗な球体になっている。オレンジ色の光が回りも照らす。

 シアラはそれを一度空高く掲げる。指をピンと伸ばした手首をカクンと前に倒す。すると、火球がシアラの目の前に広がる森の少し離れた場所に落ちた。

 離れていても構わない。森は火を扱うには便利な場所だ。勝手に燃え移って遠くまで焼き払ってくれる。

 燃える森をつまらなそうに呆っと見つめ、誰か一人でもこの火の手から逃れてシアラの目の前に来ないかと期待する。そうすれば本当の殺戮だ。恐怖に歪めた顔を残すようにそっと殺してやる。最期の感情が恐怖や怯えなのはいいことだ。何がいいのかは知らないが。

『……はぁ、期待外れね』

 目でそこにいた者の行動を追っていたが、一人残らず燃え尽きたようだ。つまらない。そう思ってシアラは左手でフッと宙を仰ぎ、火を消す。あまり燃え広がっても面倒なので消火活動はきちんとしましょうと言うことだろう。

 今度は右手でワカナの両目を塞ぐようにしてシアラは何かを確認する。そして、優しく微笑み、殺戮とか考えていたとは思えない優しい声で眠っているワカナに伝える。

『あとは俺に任せて。起きたときにはワカナの世界が広がっているようにしてあげるから』

 黒く炭と化した目の前に広がる光景をいとおし気に見てシアラは言う。そして、元々向かっていた進行方向……宮殿に目を向け、地面を強く蹴った。

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