炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~
49節 大悪魔の昔の夢
ドンドンッ
イロクが無言で影に埋もれてナノカを待っていると、誰かが扉を思いきり叩く音が聞こえた。
「え、誰だ」
「……イロク様、私です。開けてください」
名乗らずに自分のことを『私』と言ってはいたが、まあ、ナノカだろう。ナノカだとわかってはいたが、名乗らないのが悪い。ふざけてやろうとイロクは少し笑った。
「詐欺ですかね」
「……扉壊しますよ? 」
「暴力ダメ絶対」
バキッ
布団を放り出して明らかに怒りを隠す気のない顔でそこにはナノカが立っていた。
「……ふざけていましたね、イロク様」
「ぼ、暴力反対。頼むからゆっくり来るな」
何故か枕を手に持ってゆっくりイロクの目を見たままでナノカはイロクに近づいた。そして、ある程度まで近づくと足を止め、持っていた枕をイロクの顔面に躊躇うことなく思いきり投げた。
「……じゃれてないで寝てください、怒ってませんので」
「怒ってない人の声は抑揚ある。そんな冷たくないだろ」
枕を影に取ってもらってイロクはナノカの言葉に答えた。抑揚が皆無のナノカの声は怖かった。
「……痛くないんですか? 」
「ふっかふかだ」
「……廊下で寝かせてあげましょう。滅多にできないことですよ」
ナノカはそう言うとイロクの返事も聞かずに聞く気もなく廊下に出て布団を敷き始めた。イロクがふざけたことはかなりナノカを怒らせてしまったようだ。
「あ、はーい……。扉、直しといてくれな」
「……了解しました。では、お休みなさい」
おやすみなさいと言われてもこんな死体が多く転がっている廊下に布団を敷いただけの空間で眠れるわけがない。めっちゃ見てるし。ナノカがめっちゃ見下ろしてくるし。なんか影も便乗してくるし。
「……はぁい、目を瞑ってくださーい。睡眠術を自分に使ってでも寝てもらいますよ~」
あ、その手があったかと、イロクは目を瞑って睡眠術をかけた。これならすぐに眠れるはずだ。こんな弱い術なのに安眠できる強い術。どんな夢が見れるかはわからないが、起きたときに幸せな気分になるようにはできる。
イロクはそんな術を自分にかけた。
その夢はとても幸せなものだった。物騒な状況でもなく、笑顔の幼いシアラがいた。白く長いツインテールが片方ほどけ、イロクが出会った頃のシアラ。可愛い笑顔のシアラ。暴れて髪が乱れてもまだ遊び回るシアラ。
走って転んでそれについて行けないイロク。使える術が強かったからイロクとシアラは組むことになった。それから一緒にいるようになったが、シアラの笑顔がなくなるまでイロクはシアラのことが苦手だった。
シアラはイロクが好きだった。笑顔がなくなったのはシアラがイロクのために未来を読むようになってから。それからはイロクはシアラに笑ってもらうため、シアラはイロクが自分のために色々してくれるため。
それがわかる夢。たった数時間でわかるなんてとても幸せな夢。シアラもイロクのためだとわかる夢。なんて幸せな夢。
起こし方だけが最悪だったけれど。
イロクが無言で影に埋もれてナノカを待っていると、誰かが扉を思いきり叩く音が聞こえた。
「え、誰だ」
「……イロク様、私です。開けてください」
名乗らずに自分のことを『私』と言ってはいたが、まあ、ナノカだろう。ナノカだとわかってはいたが、名乗らないのが悪い。ふざけてやろうとイロクは少し笑った。
「詐欺ですかね」
「……扉壊しますよ? 」
「暴力ダメ絶対」
バキッ
布団を放り出して明らかに怒りを隠す気のない顔でそこにはナノカが立っていた。
「……ふざけていましたね、イロク様」
「ぼ、暴力反対。頼むからゆっくり来るな」
何故か枕を手に持ってゆっくりイロクの目を見たままでナノカはイロクに近づいた。そして、ある程度まで近づくと足を止め、持っていた枕をイロクの顔面に躊躇うことなく思いきり投げた。
「……じゃれてないで寝てください、怒ってませんので」
「怒ってない人の声は抑揚ある。そんな冷たくないだろ」
枕を影に取ってもらってイロクはナノカの言葉に答えた。抑揚が皆無のナノカの声は怖かった。
「……痛くないんですか? 」
「ふっかふかだ」
「……廊下で寝かせてあげましょう。滅多にできないことですよ」
ナノカはそう言うとイロクの返事も聞かずに聞く気もなく廊下に出て布団を敷き始めた。イロクがふざけたことはかなりナノカを怒らせてしまったようだ。
「あ、はーい……。扉、直しといてくれな」
「……了解しました。では、お休みなさい」
おやすみなさいと言われてもこんな死体が多く転がっている廊下に布団を敷いただけの空間で眠れるわけがない。めっちゃ見てるし。ナノカがめっちゃ見下ろしてくるし。なんか影も便乗してくるし。
「……はぁい、目を瞑ってくださーい。睡眠術を自分に使ってでも寝てもらいますよ~」
あ、その手があったかと、イロクは目を瞑って睡眠術をかけた。これならすぐに眠れるはずだ。こんな弱い術なのに安眠できる強い術。どんな夢が見れるかはわからないが、起きたときに幸せな気分になるようにはできる。
イロクはそんな術を自分にかけた。
その夢はとても幸せなものだった。物騒な状況でもなく、笑顔の幼いシアラがいた。白く長いツインテールが片方ほどけ、イロクが出会った頃のシアラ。可愛い笑顔のシアラ。暴れて髪が乱れてもまだ遊び回るシアラ。
走って転んでそれについて行けないイロク。使える術が強かったからイロクとシアラは組むことになった。それから一緒にいるようになったが、シアラの笑顔がなくなるまでイロクはシアラのことが苦手だった。
シアラはイロクが好きだった。笑顔がなくなったのはシアラがイロクのために未来を読むようになってから。それからはイロクはシアラに笑ってもらうため、シアラはイロクが自分のために色々してくれるため。
それがわかる夢。たった数時間でわかるなんてとても幸せな夢。シアラもイロクのためだとわかる夢。なんて幸せな夢。
起こし方だけが最悪だったけれど。
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