炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

48節 大悪魔と影の個

 せっかく話してやろうと思ったのにいきなりもう寝ろなんて言われてイロクは何が起こっているかわからなかった。

「……この間倒れたことをお忘れですか? 日が沈んだら適当な時間に寝てもらいます。大切なときに倒れてたら最悪なので」

 あー、そんなこともあったなぁ、と、イロクは気まずく思い出した。最近色々ありすぎて珍しく自分が睡眠不足で倒れたなんて忘れていた。

 頭を掻いて目をそらし続けてるイロクの目の前に影が大量に現れた。

「わ、わかった。お前らに任せてやるから、私は部屋に戻って寝る。それでいいか? 」

 影たちが少しずつイロクに圧をかけているのはそれだけ影たちに今までそれだけ心配させていたということだ。ナノカだけでなくこれだけのやつに心配をかけておいてわがままを続けるわけもなかった。流石に今回は言うことを聞こうと部屋から出た行こうとした。が、ナノカがイロクの腕をつかんでそれを止めた。

「……今日帰ってくるとは考えられませんが、戻って来られた時のためにイロク様はこの部屋から出ないでください」

「え、だってお前らが寝ろって……。え、ヤダ、雰囲気で頷いてるのがわかる」

 影もナノカも図った様に意見が一致していた。影を集めすぎてか、イロクが弱っているのか、その影たちに逆らう気にはならなかった。

「何処で寝ろと? 」

「……床? 」

「誰か布団を部屋から持ってきてくれ」

「……では、私が持ってくるので、みんなに迷惑はかけないように。わかりましたね? 」

「は、はい」

 変わったなったなぁ、ナノカ。素直になったのか、本当に性格が変わったのか、なんて考えながらイロクは少し怯えながら席に戻って座った。正直イロクは自分に敵意を向けたことのない影たちを見くびっていた。ここまで冷や汗を流すことになる程の圧がかけられるとは全く思っていなかった。

「お前ら、個として存在しているんだな」

 イロクが目を瞑ってぼそりと呟くと、影が何を今更、とか、嘘だろ、とか雰囲気で語った。ほとんどがイロクに殺されたとはいえ、当たりが強過ぎはしないか。

「しかたないだろ、今まで影は影としか見ていなかったんだしさ。ちゃんと話したこともなかったじゃないか」

 イロクにそう言われて影たちは熟考してから確かにやら、そういえばとかほぼ同時に思った。仲いいのか仲が悪いのか。何年も一緒にいれば似てはくるものか。

「そうだな、明日はナノカと話がある。明後日、その日だけでも話をしようか。最初で最後のコミュニケーションだ」

 話をしようと言われたのがよっぽど嬉しかったのか、結局いつものように影がイロクの周りでキャーキャーワーワー騒いだ。今のイロクには何故騒いでいるのかわかる。

 名前も知らないまま殺したのも何人もいる。影が寂しがるのでは元からではなく、認識してもらいたかっただけなのかもしれない。影になってしまえばもうこれから先イロクか同じ影にしか個として認識されない。認識してほしいから新たな影を求める。そういうことだったのかもしれない。

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