炎呪転生~理不尽なシスコン吸血鬼~

黄崎うい

38節 悪魔の言葉が出ない

「イロク様、お待ちしておりました。奥で大天使様、大悪魔様がお待ちです。……その顔どうしたんですか? 」

「うるさい黙れ殺されたいのかさっさと通せ」

 顔が赤くなったことを待っていた悪魔に指摘されたイロクは早口で抑揚なんてなく息を吐くように言った。言われた悪魔は、その異常さに後ろに数歩下がりながら小さな声で謝罪して通した。

「シアラ、もう話すな」

「……」

 イロクの小声の指示にシアラは微笑んで静かに頷いた。

 今までに無い状況で宮殿の中は静まり返っていた。その中で中央の廊下でコツコツと音が響く。ちょうど二人の同じブーツの音だ。お揃いのブーツの音だ。

 何故かシアラはずっと前に履くのをやめたそのブーツを履いていた。イロクの本体がずっと履いていたそのブーツをだ。

 その音を聴くまでイロクは気づいていなかったが、聴けばすぐにわかる。

 何故シアラはこんなときに限ってイロクな躊躇したくなるような行動をするのだ。もう戻れない、逃げられない。そうわかっていてこんなことをするのだ。

「…………シ、アラ……ここに、は、入れ……。……早、く…………」

 この宮殿の中で一番大きく、役割を果たしていない扉の前でイロクは顔を俯かせながら言った。言葉がはっきりしない。

 シアラは最後にイロクの頭を笑顔で撫でてから扉を開け、中に入った。

 シアラが入った場所は、扉こそ立派で大きいけれどその横に広がるのは壁ではなく低い柵。そこから出入りができてしまうような部屋とは呼べない部屋だった。柵の周りには既に多くと天使と悪魔が座っていた。

 イロクは、そこに行くのを躊躇った。その部屋で誰が何をするのかなんてわかりきっている。最後、どうなるのかも知っている。それでも見る気になれなかった。

 大好きな天使だから。そんな天使の最期なんて見たくない。

 それでも見なくてはならない。ペアとして、友人として、悪魔のNo.2として。

 イロクは覚悟を決めて知り合いの悪魔を見つけてその近くに向かった。

「イロク様、もう始まってますよ」

 イロクの気持ちがわからないその悪魔は楽しみそうにそう言った。イロクはその言葉にどう返せばいいのかわからなかった。笑顔もできない。

 顔から表情が消えていく。

 シアラを見送ってから気づいたらかなりの時間が経っていたようだ。シアラは大天使たちの訪ねた言葉に返していく。何を言っているかはよく聞こえないが、周りの反応から察するに聞くに耐えないことなのだろう。

「イロク様、彼女は処分されるのでしょうか」

 処分なんて言葉で多少濁しているが、殺されるということだ。そんなこと聞かなくてもわかるだろう。わざわざ聞くな。そう言いたいのを飲み込んでイロクはできる限りの笑みで答えた。

「……恐らく、そうだろう。そうだろう、殺される」

 言葉がおかしかった。笑顔じゃなかった。違和感を感じた悪魔は、イロクに何かを聞くのをやめた。

 それからしばらくはまだ大天使、大悪魔とシアラの話は続いた。周りの者には聞こえているらしいがイロクには全く聞こえなかった。

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